2003.2



 時は東京オリンピックの頃。山の手のお嬢さま、藤島萄子(いかにもお嬢さまらしい名前!)は刑事、奥田勝と婚約している。しかし、奥田は突然「もう会えない」と失踪。ほぼ同時に奥田の先輩刑事の娘のぶ子が惨殺される。のぶ子は奥田に恋心を抱いていた?…それからはじまる萄子の旅。奥田の行方を追い…

 ミステリーだが、乃南アサの作品の中ではどろどろ感情もののほうではなく、ひたむきに人間の思いを描くもののほうに入るような気がした。「幸福な朝食」などのほうでなく、「行きつ戻りつ」の路線か。ストーリー展開や秘められた真実は生々しいのだけれど、いまひとつするどさにかけるし、それがテーマではないという感じ。しかし、それなら萄子の思いの描き方はどうかというと、それもどこか迫真にかけ複雑な心理展開もなく、なんとなくつかみのない作品だという感じがした。

 乃南アサは短編で若い男女の風景をさらりと描きながら、男女のあいだの心理展開のどろどろしたところをさらけだすのがうまいと思っていたのだが、一途な愛というのを描くのは得意じゃないのかも。

 でも巻末や帯にあるおすぎの解説では、「涙で活字がみえなくなってしまった」とあるので、単に私が冷たいだけか?
 確かに婚約者が失踪してしまい、殺人にかかわっているかもしれない立場においやられるシチュエーションは衝撃的といえばそうなんだけれど。


「貴船菊の白」

「第4の神話」

「ミステリー主義」




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