Laub🍃

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2010.08.12
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カテゴリ: 🌾7種2次裏
*涼視点

*******

 茂が目を開けた。
 冷たい氷の世界で呼吸を止め、偶然にも俺達のように冷凍睡眠状態だか仮死状態だかに入っていたらしい。

 信じられない。嘘だろう。これまで俺たちがしてきた事はどうするーーーー
 そんな思いが一瞬頭を巡った。
 だが。
 安居がみっともないほどに喜び、泣いている姿を見るとどうでもよくなってしまった。
 要さんはといえば、そんな安居と茂を見て気が抜けたのか、少し話をした後に姿を消した。


 だから、もうあとはここを抜け出るだけだと思っていた。
 抜け出れば幸せなゴールが待っていると、柄にもなく信じてしまった。

 ……思えばこの時、きちんと考えるべきだったんだ。
 気が狂うほど、夢でさえ捜し歩いていた茂と念願の再会を果たした後……そんな安居の代わりに。



 洞窟から出て、うとうとし続ける茂がやっと覚醒した。
 だがそれは幸運な知らせなんかじゃなかった。


 茂は茂じゃなくなっていた。
 当然と言えば当然だ。
 冷凍は物体に負担をかける。物体の中で小さな氷の粒が出来て、それが組織を破壊し、解凍したころには溶けたような歪な形や食感になっている。
 要は子供の頃冷凍庫や氷室で凍らせた野菜や肉の脳味噌版。



 …記憶もない。
 …言葉もきちんと喋れない。
 …自力で食事も、何もかもできない。

 赤ん坊と同じ。

 生きて、息をして、動いているだけ儲けもの。


 だが、そんな茂でも安居は喜んで世話をしている。
 今日こそは元に戻るだろうという期待からか。
 それとも、桃太郎やナツに目を付けた時のように、茂の姿をした何かがそこに生きているだけでいいのか。
 それとも、心の支えとしてか。
 ……それとも、かつての茂への恩返しなのか。





 安居が壊れ始めたのは、15の時仲間が殺されているのを見てから。
 完全に折れたのは、茂を失ってから。

 折れた精神を無理やり継いで壊れてないように取り繕って折れた破片で威嚇して、そうしてその最中に安居は卯浪を殺し、十六夜を殺し、花を虐げ、要さんを殺しかけた。 
 だが安居に仲間を殺された秋達も、怨恨で虐げられていた花もその仲間も、歪な生活を続ける安居と茂を遠巻きに見ている。……新巻辺りは羨ましそうでさえある。

 そんな俺達の許に来るのは、まつり、ナツ、後は物資管理の名目で牡丹くらいだ。

 要さんなら何て言うんだろう。
 …朝方混合チームへの贖罪を続け、夜には茂への贖罪を続ける安居を、あんたならどうする。


 答えは今日も帰ってこない。





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最終更新日  2018.07.15 20:39:19
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