Laub🍃

Laub🍃

2010.08.23
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カテゴリ: 🌾7種2次裏



 後悔はしていない。


失敗作を消すことは、作り手の務めだから。







「黙れ……っ!!」

 そう言ってナイフを向けてきた安居を私は文字通り返す刀で刺し、かひゅ、と虫の息で涙を流している所を抑え込んでとどめを刺した。最中、涼と喧嘩した時の安居や卯浪を殴っていた時の安居を取り押さえた時のことが頭に浮かんだ。
 安居は最期までどうして、と口で訴えていた気がするが、その答えは一番お前が知っているだろう?と言ったところ、安居は観念したように目を閉じた。
 その右手はナイフをとうに手放していて、茂の亡骸の方に延ばされていたから……息を引き取った安居を茂の隣、水中に沈めた。

「おやすみ」

 安居の半分開かれていた目を、そっと手で閉じてやる。

「がんばったな」

 昔風邪で寝込んで、意識を失った時のように二人仲良く、無垢に、ただ眠っているだけのように見える二人を眺めて、再び岩場に腰を下ろす。…少しふらつく。

「やり方は悪かったがな」

 右側の視界が不安定なのに少し重労働し過ぎたか。

「……」

 目の前で、安居の体から抜け出た血が流水に従い流れていく。徐々に白くなっていく体。茂と同じ色になっていく肌の色。じきに髪の色と同じくらいに色が抜けていくだろう。

 地上の喧騒、過去から続く怨嗟、全てを置いて眠っている二人。音楽でも流してやりたい。永遠の眠りの為の音楽を。

「もう大丈夫だ、花」

 お前に関係のないことを掘り起こして、ことを無駄に荒立てる者はもう居ない。

「もう大丈夫だ、蘭」

 集団の和を乱す者はもう居ない。

「もう大丈夫です、貴士先輩」

 貴方の残した禍根はこれで終わりです。

「もう大丈夫だ、嵐」

 夏のBチームはこれからも幸福で安全で誰一人欠けることがないだろう。

「もう大丈夫だ、安居」

 君はかつての君自身に責められることはない。

「もう大丈夫だ、茂」

 君のもとに心配していた安居を送った。

「もう大丈夫だ、涼」

 君は世界を敵に回す必要がなくなった。


 そう一人呟く私の背中に何か熱い衝撃がきた。


「……え?」

「殺るんなら、俺を先に殺っときゃよかったのに。……安居は、どうせあんたを殺せないんだから」

 憎悪の声が遠くに響く。

「あいつは銃はもう捨てたってのに……、あんたへの愛着は捨てられない、夏Bとの絆も捨てられない、茂との約束も捨てられないから、代わりの重いものを捨てたのに。……一番重くて邪魔なあんたとの絆を先に捨ててればいいのによ」

 そのぼやきを最期に、僕の意識は途絶えた。
 ……まあ、いいか。


 死神としての最初で最後の仕事はもう、終わった。





 何かが光っている。

 蝶のような光が舞っている。


 私の前を、何か二つの塊に向かって光が横切っていく。


 光は少年の形になり、手を伸ばす私の腕に気付かないで、笑い合いながら奥の方へ消えていった。

 気が狂いそうになる無音と暗闇の中に取り残された僕に、ひどい眠気が襲ってきた。

 寒い。

 悲しい。

 どうしてこんなことに。


 一人呟く声に、かえってくるものはなにもなかった。





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最終更新日  2018.02.09 03:50:12
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