Laub🍃

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2011.04.22
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カテゴリ: 🌾7種2次裏
タイムスリップした現在、要は戸惑っていた。

かつて受けると思っていた、そして失って久しい信じる目と頼る腕と柔らかな温もり。

そこに居たいと思ってしまった。


未来へ要は向かわねばならないというのに、要は過去の世界において失ったものと対面して、未練をもってしまった。

そしてそれらは、あのチーズ状になった安らかな微笑みとは違って、確かに生きているのだ。






子ども達の声は聞こえない。
代わりに大人になったあの子達の声が耳の中でこだまする。


返答するようにして要は今日も楽器を鳴らす。




「平気だ、気にする必要なんか全くないって思ってれば、いつか本当にそうなると思ってた」
『先生達だよ』
「…倦まず弛まず、手段を択ばずやってきた結果がこれだ」
『卒業します』
「……俺は赦されないんだろうな」
『正常な判断が』


 この世界は恐らく未練で出来ている。

 未来に行った、そして過去この時間に居る僕達は記憶だけ帰っている。
 未来に居るがこの時間には居ない人々は体と記憶共に毎回蘇っている。
 未来には居らずこの時間には居る人々は身体だけが何とか生き返る。

 だがその認識は、ここの僕達が知りうる範囲内でのことだ。



 この世界は、恐らく、僕達の未練で出来ている。
 有り得たかもしれない可能性の集合体。


「……ごめん、と、ありがとう、か」

「……言える筈もないな」

 言える相手も居ない。



 要は一人だ。

 いつも居る高い所が、急に寒い場所になったような気がして要は身を震わせた。





箱庭を要たちは作っていた。
けれど仕掛ける側になって思った。

ここは本当に井戸の外なのかと。

もっと他の、例えば隕石を落とし、要の両親を死なせ、要に誘拐のトラウマを植え付けた物事が、要たちの箱庭の外から伸びる手で仕組まれたのではないかと。

この世界で生まれ、生きて死ぬ要は、それでも構わない。
まがりなりにも育て上げ、感謝され、幸福を感じて消えられるのだから。

だが一つだけ疑問がある。

この世界がもし箱庭なら、神様は何を造るつもりだったんだろうという疑問。

安居の後悔が未来へ繋がる世界か。
新巻の願望が報われていく世界か。
花の心中が成長していく世界か。
ナツの考察が深められる世界か。
要の凶行が意味を成す世界か。


答えは今日も見付からない。
とうに終わった世界の空っぽな青空には、安らかな光と涼やかな風だけが満ちている。




可能性の樹の枝は空っぽな空にある未来に向かって伸び、
底も見えない程に真っ暗な地にある過去に向かって根差す。





その起点となる種、現在を、少なくとも神は生んだ。

行く先を、もしかしたら、神様も知りたかったのかもしれない。





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最終更新日  2018.02.28 05:01:00
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