Laub🍃

Laub🍃

2012.09.02
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カテゴリ: .1次メモ
綺麗に綺麗に磨いた剣は、灯りを、もともとのそれよりもずっと美しく、妖しく魅せる。
 その為にアタシはずっとそれを磨いてきた。

 アタシ達の村には、魔法の剣があった。
 それを守る為に、村人は死んでいった。
 アタシの幼馴染もそうだった。
 欲に目がくらんだ、数年前やってきた領主に死刑にされた。祠に入れない領主が欲しがった剣を、アタシたちは渡さなかった。それだけだったのに、反対したたくさんの村人が殺された。
 本当は先頭に立ってたアタシが殺される筈だったのに、それを庇うなんてしたから、幼馴染は殺された。
 何人も殺してやっと領主は気が晴れたらしい。アタシは殺されずに済んだ。
 アタシはその剣を、幼馴染の代わりに守ることにした。


 アタシは、剣を憎んだ。
 けれどそれを守る事以外のアタシの存在価値を、意義を知らなかった。
 きっと、他の皆も同じ想いだっただろう。




 だから、それを何の縁もゆかりもない「勇者」が来たからと言って、渡せるわけないじゃないか。
 それが領主の家出息子なら、猶更。

 なのに、アタシの仲間は皆渡すことに賛成した。
 まるで魔法をかけられたみたいに。

 反対すればするほど、勇者を帰らせたくて嫌がらせすればするほど、アタシは孤立していった。泣きながらあいつの名を呼びながら魔法の剣の刺さった岩の前でうずくまるアタシの隣、一人だけ、他の村人と離れて座っている奴が居た。

 そいつは、アタシの目の前で唐突に立ち上がって、魔法の剣を引き抜いた。
 何を、と言う私を引きずってあるいていくそいつは、ぼそりと呟く。

「魔法の剣に反射されたものしか、お前は見られないのか。日の光は、木漏れ日は、月明かりは、そのままではお前の目には入らないのか」


 そう言うとそいつはふと皮肉げに笑って、また歩きだした。止まれと言う制止も聞かずに。
 勇者の目の前に立って、それを渡すのかと思った。

「え」

 そいつは、勇者の胸をその剣で貫いた。

「これで、お前は自由になれるか」



「自由になったお前を見られないのが残念だけど」

 魔法の剣は、勇者の仲間が持って行った。
 元凶になった、勇者を虐めていたアタシはそいつらに殴られ、村から追い出された。

 幼馴染が最期にアタシに向けてきた笑顔と、あいつが最期にしていた笑顔とも嘲りとも哀しみともつかない表情が、代わる代わる押し寄せて、その度に頭を振る。
 アタシは何の為に生きてきたんだろう。

 日の光は、木漏れ日は、月明かりは、眩しくて、人の押し付けがましい温もりよりも、アタシが手に入れられないそれらよりもずっとずっと温かかった。
 あいつは、自由になってこれを見ろと言っていたのだろうか。
 温かさを感じると、自分が生きていると実感する。
 もっとも、何の為に生きているのかは、分からないままだ。
 隣に誰かが居たら、その誰かにこの温もりを感じさせる為に生きていられたら、違ったのだろうか。
 でもあいつらは死んでしまった。

 温もりに包まれ、ぼんやり歩いていると、崖に出た。
 下には村や、周りの森にあった池など及びもつかないほど大きな、大きな水溜り。

 魔法の剣のように、月明かりを綺麗に、綺麗に反射していた。
 ああ、冷たくて冴え冴えとした、残酷なあの光だ。

 人を殺す美しさだ。

 それでもどうやらアタシは、その美しさを増す為に生まれてきたらしい。







 綺麗な綺麗な魔法の剣を持っている、勇者の仲間はその朝気が付いた。
 魔法の剣が更に冷たく冴え冴えとして――――誰かの命を吸ってきたかのような、
美しさを持っていることに。





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最終更新日  2016.11.04 17:19:36
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