ナ チ ュ ー ル

ナ チ ュ ー ル

化学 正四面体からの始まり (5)(6)



★ ファント・ホッフの浸透圧・反応速度に関する研究について
 1884年からファント・ホッフは、浸透圧、蒸気圧などの研究に着手し、1886年に溶液の浸透圧に関して、気体の法則 PV=nRT と同じ関係が成り立つことを発見して、気体と溶液の類似性を明らかにし、浸透圧に関するファント・ホッフの法則 ΠV = nRT   を明らかにした。
1887年ファント・ホッフ、オストワルド、アーレニウスは、物理化学雑誌を創刊する。1889年アウレニウスは、ファント・ホッフが導き出した反応速度常数に関する方程式を使用した「弱酸によるしょ糖の転化に関する研究」を報告している。
   k=Aexp(-Ea/RT)…(1)     すなわち対数をとると
 logk=logA-(Ea/R)(1/T)…(2)  となり
いわゆる「アレニウスの式」である。
(2)式は y=ax + b の一次式が成り立つ。いわゆるアレニウスプロットと言われているのは下図である。

図2-5
頻度因子A,気体定数Rは定数であり、活性化エネルギーEaも固有の値であるので、logkの値は温度によって変化する。つまり、y=b-axの簡単な式と見ることができるのである。温度(1/T)によってlogkの値をプロットしていくと直線のグラフを得ることができる。このときの傾きは-Ea/Rであり、切片はlogAである。つまり、このグラフから活性化エネルギーEaと頻度因子Aの値を求めることができるのである。
 粘度にこのアレニウス式が適用できるため、インキ粘度の温度依存性等について、よく利用させていただいた。

★ 単糖解明・・フィッシャー
 フィッシャーは、24=16個のアルドヘキソースの分離・合成に成功した。グルコース類の分子式は、C6H12O6で炭素Cが6個鎖状に並んだ構造である。ヘキソースは、不斉炭素原子が4個であるから、異性体数は16個となる。


図2-6
※f-16  フィッシャー
エミール・フィッシャー(1852-1919)
ドイツの化学者。E.フィッシャーは「生物化学の父」と呼ばれる。これは彼が生物化学分野で重要な三種類の物質、プリン類、糖類、蛋白質について広範囲な研究を行ったからである。「フィッシャーの投影図」は、1891年にエミール・フィッシャーが糖類の絶対立体配置を表現するために初めて使用した。
フィッシャーの最も重要な研究成果と言えば,糖類の立体構造を確立し,ファント・ホッフとル・ベルが独立に主張していた不整炭素原子理論、炭素正四面体説の強力な実証データを出しことである。

★ メタンCH4 正四面体型分子(tetrahedral molecule)の結合角(bond angle)の計算
このメタン分子の構造は、中心原子Cを立方体の中央に起き、これと結合する4個の水素原子Hを立方体の頂点に交互に並べ、水素原子を結ぶと正四面体構造となる。結合∠が109.47°という数字は化学の多くの本に記載はあるが、何故109.47°になるのか、この説明をされている本が以外と少ない。
まず立方体中の正四面体を配置し、正四面体をメタンとして考えてみよう。炭素原子は立方体の中心に、水素原子は、立方体の頂点A,B,E,Fに位置している。面の対角線AB CDからなる長方形を考えると、長方形は、短辺1,長辺√2の長方形となる。この長方形の対角線ACは√3である。従って、∠AOBが結合角θbとなる。

図2-7
図2-8
結合角θb=2θ tan θ= AH/OH= (√2a / 2) / (a / 2) = √2であるから
tanθ=√2を解くことで結合角の解答を得ることができる。パソコンでのエクセル関数では、atan, sqrt関数を使用し求めることができる。アークtan (√2) = atan(sqrt(2)) でラジアンを求めると、結合角が109.47°と出てくる。
中心角 結合角
図2-9
tanθ= (√2a / 2) / (a / 2) = √2
tanθ= √2
0.955317 =atan(sqrt(2))
54.73561 = θ/ PI()*180
109.471 =2θ
従ってメタン結合角は、109.47°となる。

メタン、アンモニア、水の各結合角は、CH4 109.5°、 NH3 106.7°、H2O 104.5°である。

★f-17ライナス・ポーリング     ポーリングの結合論
ライナス・ポーリング (アメリカ1901~1994年) 
1923年「モリブデナイトの結晶構造」が最初の論文
1926年 イオン半径の発表
1926-1927 ヨーロッパ留学。まずミュンヘン大学でのゾンマーフェルト、ハイゼンベルグに師事し、コペンハーゲンでボーア、チューリッヒでシュレーディンガーに接触。
1928年 雲母、滑石、トパーズなど鉱物の構造を明らかにして、鉱物化学の基本原則 「ポーリングの五原則」を発表した。
1931年に混成軌道を始めて発表した論文「化学結合の本性」20世紀でもっとも引用された科学文献の一つ
1932年 電気陰性度の概念を発表。
1939年 古典的名著『化学結合の本性と分子と結晶の構造』
1946 反核活動開始
1947 「一般化学」出版  多くの大学の教科書として使われた。
1952 - 1953 DNA構造の研究 三重螺旋構造の発表
   ワトソン クリックDNA二重螺旋構造
1954年ノーベル化学賞
1963年ノーベル平和賞

・「ライナス・ポーリング」 ・
ポーリングが、X線結晶解析を学び始めたのは、1912年フォン・ラウエのX線回折の発見により、結晶構造の決定が可能なってから、まだ十年も経っていない頃であった。数ヶ月かけて何種類もの結晶を、研磨して試料を作成する作業は大変で、構造が複雑すぎて解析できないということは、茶飯事であった。しかし、輝水鉛鉱(硫化モリブデンMoS6 ) の解析に取りかかり、モリブデンの周りに6個の硫黄原子が取り囲む構造の解析に成功した。これが、ポーリングの研究者としての出発点であった。

★ ポーリングの結合論
正四面体構造の説明についてはファント・ホッフによって謎解きが進められ認知されたが、しかしながら炭素原子が、p電子を2個しかもっていなのに、原子価が4であるのは、説明が付かないままであった。( 図82-12A ) ファント・ホッフが第一回のノーベル化学賞を受賞した1901年にポーリングは、アメリカ・オレゴン州で生まれている。カルホルニア工科大学に入学し当初結晶学を学び、約30もの鉱物結晶を研究、構造確定している。更に、原子イオン半径について研究している。このイオン半径については、1926年ポーリングと地球化学の父といわれるゴールドシュミットがほぼ同時に発表している。[ 正六面体 イオン半径 参照] 
彼は、1926年から約2年ヨーロッパに滞在し、量子力学を学んでいる。このことがポーリングの最大の業績である量子力学と化学結合論の融合に果たした役割は大きい。1928年にカルホルニア工科大学に帰り取りかかったのが、化学結合の「原子価結合法理論」である。ポーリングは1928年にこの炭素の原子価4の謎に言及し、次のように理論を展開している。「炭素原子は、p電子の内側の2s軌道に2個の電子を持っている。そのうちの1個が2p軌道に引き上げられ、2p軌道に3個の電子が配置、不対電子は2sに1個、2pに3個となり合計で4個となる。この4個の電子がsp3軌道を形成する。」そして、この結合形成をsp3混成軌道とした。形成された4組の電子対は、相互に働く摂動つまり反発力によって正四面体配置をとる。こうして複雑な分子への量子力学を適用した共鳴概念に基づいた混成軌道という理論が構築されていったのである。この理論をかの著名な論文『化学結合の本性( THE NATURE OF THE CHEMICAL BOND )』として公表したのは、『アメリカ化学会誌』1931年であった。この方法は数学的方法により補強され「ハイトラー・ロンドン・スレーター・ポーリング法と呼ばれた。
ポーリングは、その他の混成についても示している。
s+p sp 直線
s+2p sp2 三角形
s+p sp3 正四面体
s+p+d sp2d 正方形
s+p+2d sp3d2 正八面体
s+p+3d sp3d3 正四面体

★ メタンのsp3混成軌道 図2-10

[ (1s)2(2s)2(2p)2 ]
[ (1s)2(2s)1(2p)3 ]
[ (1s)2(sp)3 ]

 メタンの4本のC-H共有結合について考えると、炭素原子は(1s)2(2s)2(2p)2の電子配置をもっていて、炭素の4個の原子価電子はエネルギーの低い順に2s軌道に2個、2px,2py,2pz軌道に2個収容されている[ (2s)2 (2p)2 ]。図式化すると、上図になる。
共有結合の電子は炭素原子、水素原子から1個ずつ供給されるから、炭素が4本の結合をつくるには、1電子のみがはいった軌道が4個必要である。ところが、2s軌道は2個の電子がはいっていて、水素の電子を受け入れる余地がない。もし2px,2py,2pz軌道の、あいている軌道に2s電子が1個移動すれば、[ 2s(1) 2px(1) 2py(1) 2pz(1) ] となって、4本の共有結合を形成できる。
 ただし、球形の2s軌道とそれぞれ直角に交差した3個のx軸y軸z軸の2p軌道がそれぞれ共有結合を形成すると、できた4本の結合電子同士が近接して反発する。そこで、s電子1個とp電子3個が再配列して新たに4個の等価な軌道を形成する。これをsp3混成軌道という。
【C電子配置】
電子配置:[He]2s2、2p2    2s ●● 2p●○●○○○

sp3混成軌道 電子配置 : sp3 ●○●○●○●○

図2-11 メタン 


図2-12

ライナス・ポーリング 「化学結合の本質」
   共有結合のエネルギーは、大半が二原子間の共鳴エネルギーである。共鳴積分の式によれば、結合を形成している二つの原子軌道の重なりが大きいほど、共鳴エネルギーも大きい。


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2_6 氷 四面体

★ 氷の四面体
いまだに、謎の多い物質、水である。1781年頃キャベンディシュは、水素と酸素を混合したなかで電気火花を散らし、水ができることことを偶然に発見し、実験を繰り返し、「酸素1容積と水素2容積とから水が生じる」ことを確認している。1783年ラブォアジェも同じように実験を行っている。また、1785年、赤熱した鉄の管の中に水蒸気を通じると、水が分解されて水素ガスが発生し、酸素は鉄と化合し酸化鉄となる実験によって水の組成を明らかにした。・・鈴木博士
酸素原子Oから2個の水素原子Hが共有結合で伸びて結ばれており、O―H 結合の距離は0.957Å、結合角H―O―Hは104.5°だ。酸素原子を正四面体の中心に、O―H 結合はこの酸素原子から正四面体の頂点方向に伸びている。正四面体の残りの2つの頂点には酸素原子の2個の非共有電子対(孤立電子対:電子が2個ペアになって他の原子との結合性を失ったもの)が配向している。
図2-13

★ クロム酸の四面体
 クロム酸は、ほとんどの化学の教科書に記載されている。クロム酸を図形化すると正四面体の化合物となる。そして二クロム酸は二つの正四面体の頂点で結合した図となる。
図2-14
★ ゼオライトの四面体構造
四面体構造として興味深いものに、ゼオライトがある。ゼオライトの基本単位構造は、Si(ケイ素)を中心に,酸素が四面体の頂点に位置し並んだ(SiO4)4- (ケイ酸四面体)と、Al(アルミニウム)を中心に酸素が四面体の頂点に位置し並んだ(AlO4)5-(アルミン酸四面体)だ。ケイ素は、3s軌道と三つの3p軌道 ( 3px, 3py, 3pz ) とからなるsp3混成軌道を形成し酸素と結合している。図*** この中心にケイ素を位置した四面体の各頂点に酸素を配した(SiO4)4- (ケイ酸酸素四面体)が基本単位である。
基本単位の4つの頂点に位置する酸素が、それぞれ隣の4つの基本単位の酸素と共有することによって、次々と3次元的に連結して結晶構造を作っていく。基本単位の連結の形式によって、いろいろな構造や空孔を持つゼオライトができあがる。

2-15
2-16 基本単位の連結
このさまざまなケイ酸塩のブロックの種類は、おおまかには、次のような構造である。
(1) 個々のSi-O 四面体が独立した単独のオルトケイ酸陰イオンとして存在する。
(2) 二つのSi-O 四面体が一つの頂点を共有したダイマーSi-O 四面体として存在する。
(3) Si-O 四面体が、二つの頂点を共有して連結し、環を形成する。

放射性セシウムの除洗用ゼオライトの開発が愛媛大で進んでいる。磁性ナノ微粒子材料をゼオライトに分散化させた複合材料(磁化ゼオライト)である。ゼオライトにはセシウムイオンを選択的に吸着する能力があるため,水田などに散布し,放射性セシウムを十分吸着させた後,磁石により磁化ゼオライトを回収し放射性セシウムの除染に用いることができる。
★ 右水晶左水晶


**酒石酸について
竹内敬人「プログラム学習・立体化学」
(講談社サイエンティフィク)WWW版
http://ce.t.soka.ac.jp/stereo/Ch6/ch6j.html
http://ce.t.soka.ac.jp/stereo/Ch6/ch6j.materials.html#Anchor2171114


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