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「合格だよ、御主人様。」
一瞬連理が何を言っているのか分からなかった。ゴウカクって・・・。
「だから早く傷治して立ちな。まったく、とろいんだから。」
比翼が荷物から赤い液体の入った瓶を取り出し、血に濡れた私の頬につけた。
「どうして・・・ック・・・だって・・・私、何にも出来なかった・・・ック。」
しゃくりあげながら途切れ途切れに言った。比翼から受け取ったヒールポーションを口に含むと少し痛みが和らいだ。
「呼んだろ、俺らを。」
「・・・え・・・?」
「あれでいいんだよ、テイマの仕事ってそれだろ?」
比翼がしゃがんで私の顔を見つめた。
「あ~あ、そのぶっさいくな顔、早く拭けよな。ブスがもっとブスに見えるぞ。」
そういうと私のマントで顔についた血と涙と鼻水を言葉とは裏腹に優しい手つきで拭き始めた。
「だれも肉弾戦やれなんて言ってないよ。」
連理が近くに座って言った。
「僕らはテイマの盾であり、剣なんだ。だから君の仕事は僕らがどう動けばいいか、それを言うだけでいい。」
「私・・・、力を示せってことかと・・・。」
「もちろん、そう受け取ってもらって良かったんだけど、『テイマとしての力』って意味だよ。テイマの力って笛で殴ることじゃないだろ?攻撃目標定めたり、俺らの攻撃力や防御力を上げたり、回復したり。」
まっすぐこちらを見据えてそう言った。
連理のやわらかい緑色の瞳に、私が映っている。ヒールポーションが効いて傷は癒えてきたが、服は血まみれ、髪はぐちゃぐちゃだ。
「でも命令ってなんか、偉そうだなぁって・・・。自分だけ安全なところにいて、さあ、あなたたち行ってきなさいって、変じゃないかなって。」
「だからってああいう風に1人で行動されたら、僕たちはどう考えると思う?信用してないのかって感じだったよ、実際。」
「アホか、オマエ。司令官が前線立って自分で突っ込んでって、真っ先に殺されたら俺らだって困るだろーが。紙は紙らしく後ろで大人しくしてろよ。」
比翼があらかた血を拭ったあとドカッと座り込み、あきれたように言った。
連理が水で濡らしたハンカチを差し出して、
「じゃあこう思えば?僕らは火力で、君は支援なんだ。体力のないWIZが敵に突っ込んで行って釣りしたり、タゲ取りしたりしないだろ?僕らはソロでも一つのPT。自分の職に適した仕事をすればそれでいいんじゃない?」
そう言われて気が楽になった。そうか、そういうことなんだ。
「俺がテイム時のことを認めないっていったのは、アンタがまだ自分の手を汚してないってことを言いたかったんだ。戦うってアンタが思ってたようなキレイごとじゃ済まないってこと、今はもう分かったよな?」
「ここで『ひょっとしたら敵じゃないかも』なんて甘い考えは捨てた方がいい。さっき君も分かっただろ、ここは殺すものと殺されるものしかいない場所なんだ。少しでも躊躇したら、倒れているのは自分だ。それを忘れないで。」
「うん、分かった。」
人間同士だってそうだ。相手が優しい心を持っていても、本当は戦いたくないと思っていても、戦場では味方以外は全員敵なのだ。こんな場所まで来てずっと甘いことばかり考えていた自分を恥じた。
「ポーション飲み終わった?傷はもう痛まない?」
「うん、もう大丈夫。」
「じゃあ、さっさと行くぜ。ここでちんたらしてたら、奴らまた『塩返せ~』って来るぜ。」
「そうだね。」
そう言って急いで立ち上がると、
くぅぅうう~、キュルル・・・。
洞窟に響き渡きわたりそうな大きな音が・・・。安心したら急にお腹がすいてきてしまったのだ。
「・・・でっかい腹の音だなぁ、オイ。さっきまでわんわん泣いてたと思ったら、もうメシってか?まったく、女ってのはわっかんねぇな。」
「だ、だって、朝ごはんちょっとしか食べてなかったから・・・!」
「はいはい。じゃあ、ちょっと早いけど昼ごはんにしよう。そこの柱の影なら安全そうだよ。」
瀬乃さんからもらったお弁当を広げた。ちゃんと3人で食べれるようにたくさん入っている。パリッと香ばしく焼けた大きめのバゲットが3本、パンに塗る用なのか柔らかく癖のない白いチーズが一塊。大きな干し魚は調理しなくてもすぐに食べられるようにすでに焼いてあった。
「俺、肉のが良かったなぁ。」
「好き嫌いしないの!」
「ちぇ、急に強気になってやがる。食べてやるから、ちゃんと骨とってくれよな。」
魚をほぐして骨を除き、等分に分けた。少し塩気が強くて、それが疲れた体にはちょうど良かった。
残酷な神が支配する、そんな世界に私たちは住んでいる。肉屋で、魚屋で、花屋で、平和な街にだって殺戮は溢れている。この魚だってそうだ。私が殺したわけじゃない。でもこうして美味しく食べ、血肉にしている。戦うことだけじゃない、生きることだってキレイなことでもなんでもない。常に何かの犠牲の上に命が成り立っているのだから。誰かが手を汚して、自分の手に血がついていないから、自分が無垢であるなんて考え方はもうよそう。
強かさを手に入れた代わりに自分の中で何かが消えたように感じた。
それが美しいものだったのか、脆弱なものだったのか、大事なものだったのか、捨て去るべきものだったのか、もう分からない。
分かっているのはもう迷ったりしないということだけだった。
⇒
つづき
小説第三弾終了です。かなり長くなりましたが、ここまでお付き合いくださった方、ありがとうございました。
この回は私がテイマに関して持っていた疑問がテーマでした。『自然系の動物、生物体と共感し、動物と生物体を愛しながら、それらを理解して抱擁』し、『敵対的な生物体を手なづけて味方にすることできる』テイマが、何も思わずサクサクMobを殺すのって不自然だなぁと。テイマしてる人、考えた事なかったです?あら、私だけかな?ヽ(゚∀゚)ノアッヒャッヒャ!
プッチニアはまだ幼く、多感です。まだ子供らしい理想論を持っていて、多感であるがゆえに傷つきやすい彼女が人間的に成長していくところが上手く描ければなぁと思っています。
連理と比翼の性格付けは、分かりやすく正反対な感じにしました。連理の枝→植物→静、比翼の鳥→動物→動っていう単純な割り振りです^^;
連理:理知的。才気走ってる分、ちょっと嫌味っぽいとこがある。
比翼:気が短くケンカっぱやい。でも意外と優しかったりもする。
個人的には比翼が好みです。「オマエ」とか言われて嬲られてみたい(*/∇\*)キャ
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