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「こんにちは」
「あ、プッチニア。久しぶりね。」
テイマさんが狩りの手を止めて、微笑んだ。彼女はタドコロといって、ロマ村ビスルの学校での4年先輩。近所に住んでいたのでよく遊んでもらった優しいお姉さんだ。両親が働いている私の面倒を良く看てくれた。
お金を稼ぐためソルティーケーブB8に通い詰めるようになったある日、狩場を探して通路を通り過ぎるときに、うっかりタゲをとったモンスターを殺してしまった。そこで狩っていた人がいたので横をしたことについて謝罪すると、
「いいよ。その気がなくても、自動的にPETが攻撃しちゃうもんね。同じテイマだから、分かる・・・って・・・ひょっとしてプッチニア?」
「た、タドコロさん!」
「どうしたの。もう冒険者になったってこと?早いじゃない~。優秀だね!」
「あ、えと・・・。」
学校を修了しないままに家出してきちゃったなんて、とても言えない...。連理と比翼がにやついている。こら、ばれちゃうじゃない。ちゃんと普通の顔して!
本来、ロマ村で生まれ育った人間は学校の卒業試験としてマスターの称号を受けるテストをクリアしなければ、冒険者として外に出ることは出来ない。ただビーストテイマー、サマナーいずれにも適性を持たないと判断された者については、外に出て違う学校に通うことも許されている。
才能のある者、ない者の割合は3:7というところ。この判断は通常5、6歳までになされるのだが、私は両親が優れすぎていたために教師陣が『もう少し様子を見ましょう』とずるずるとロマの学校に居残ることになってしまった。本来なら7割の方に入ってるはずの落ちこぼれなのに・・・。
タドコロさんは優秀だったのでスキップをしてかなり早くマスターの称号を得てロマ村を出て行った。旅立ちの日、村の出入り口で行っちゃ嫌だとダダをこねて困らせた覚えがある。こうして同じ狩場で顔を合わせることになるなんて、思いもしなかった。
「プッチニア、頑張るね~。もういいもの出た?」
「いえ、まだ・・・。」
「そっかぁ、もうちょっと装備を整えたら効率いいかもね。」
「はい。装備を買うためにもちょこっとずつでも稼げればな、と思って。ところで、ここのマップで南東の方角に壁のない広い場所がありますよね。あそこってどうやって行けばいいんですか?」
「ああ、古代ヴァンパイアのいるとこね。狭い通路があるんだけど、その先の壁を壊せばいいんだよ。」
「そこの壁って壊れるんですか?」
「うん。攻撃すれば壊れるよ。テイマは力がないからかなり時間がかかるけどね。」
「今度行ってみます。」
「ね、あそこってマスタークエストで行ったことあるでしょ?どうして今頃そんなこと聞くの?」
「・・・。」
しまった。そんな大事な試験で行く場所なら忘れてましたなんて言い訳は通じない・・・。
さっと顔色を変えた私に気付いたタドコロさんが、表情を緩めてこう言った。
「いいよ。何か訳があるんだよね。」
「・・・すいません。」
「マスタークエ、まだならそろそろ受けてみたら?スキルが上がるし、何よりちゃんと卒業しておく方がいいよ。パパとママ、喜ぶと思うから。」
「・・・一人前になってから帰ろうと思ってて・・・。それまで顔を見せるわけにいかないから・・・。」
「マスタークエの称号を授けるのは、あなたのママだったね。でもこれをクリアするのって一人前の証明じゃない?ここでちゃんと狩れてるんだから、大丈夫。行ってきなよ。」
いいんだろうか。私、帰っても・・・。
『強くなって帰ってきます』と書置きを残し、飛び出してきた。あのとき強くなることとは、ロマの学校であの両親の子供として恥ずかしくない成績を残すことだった。でも今、その基準は完全に変わっている。
この世界にはたくさん、すごく強い人達がいる。行きたくてもとても行けないような場所もいっぱいある。強いってとんでもなく果てしないことだと気付いてしまったのだ。冒険者として私はまだまだ駆け出し。そんな自分が『強くなったから戻ってきました』と言える訳もない。
しかしテイマにとって、スキルが上がるというのはとても大事なことに違いない。そのためにマスタークエストを受けることは避けては通れないはず・・・。
逡巡していることを表情から見て取ったタドコロさんが、私の肩に手を置いて
「一人前ってなんだろうね。私もそうだけど、一生親を超えるなんてこと出来ないんじゃないかなって思ってる。きっと親ってそういう存在なんだよ。でもこうやって頑張ってやってますってこと、教えてあげたらきっと安心するよ。」
うつむいていた顔を上げた。彼女のような優秀な人でもそんなことを考えていたんだ。
「行ってきなよ。大丈夫だから。」
彼女の言葉は乾いた大地に水が染み込むように、私の惑った心に浸透していった。甘えていいのかな?私の姉同様のこの人の言葉に。
次の日、お弁当といろいろな装備を整え、ブリッジヘッドに飛び、故郷への道をひた走った。ソゴム山脈まで来ると一気に懐かしさが胸に溢れた。痩せた土地、立ち枯れた木々、熱い砂埃、そして火の種族たち。
ただいま・・・、ただいま。
赤山の頂上に行くと、いつものようにスルタンがこの山と、この世界全てを見渡していた。彼は私の生まれる前からこうしている。そして私が死んだ後もこうしているだろう。
「お久しぶりです。スルタンさん。」
「おお、おおお。プッチニアではないか。どこへ行っていた、何をしていた。」
「いろいろなところへ。いろいろな人に助けられながら。」
「そうか、そうか。」
うんうんと黄金色に輝く体をゆすって、歓迎の情を表してくれた。炎に包まれた彼の老いた顔は子供のときから変わらない。彼は小さいときから私の愚痴をこうやって聞いてくれていた。大事な友達でいて、そして祖父のような人だ。
「はやく両親に会いに行っておいで。喜ぶだろう。」
「ありがとう。」
柔らかく、背の高い草が風にそよぐ広場の真ん中にゴウゴウと高く火柱が上がっている。聖なる火、ロマ村の象徴だ。
ロマの人間はもともとは遊牧民だったという。この場所に定住するようになった今でも、簡単に組み立てられる布張りの建物で暮らしている。火の種族と聖なる火に守られたこの場所は冬でも暖かく、そうした簡易な家でも寒い夜露を感じることはない。
「ママ」
「プ、プッチニア!」
ママの瞳にみるみる涙が溜まっていく。
ごめんね。ママ。ごめんなさい。
「・・・あ・・・ふぅう・・・。」
言葉にならない彼女の震えた体を見て、ママが意外に小柄であったことに気付いた。小さな肩、折れてしまいそうに華奢な体。こんなにも儚げな人だったろうか。
きっと会ったら泣いてしまうだろう、そう思っていたのに、私は何故か冷静だった。
「ママ、私、マスタークエストを受けに来たの。」
「!」
驚いて顔を上げ、目を見開いた。それは道理というものだろう。学校きっての落ちこぼれ。それがわずか2ヶ月のうちに卒業試験を受けようというのだから。
ママは迷っている。マスターの称号クエストを受けること自体に必要な資格はない。ビーストテイマーであるというだけだ。それだけにレベルの低い人間が旅立って帰ってこないことも多々あった。そのときのことを考えている違いない。
「どうすればいい?教えて。」
⇒
つづき
久しぶりの小説、第四弾です。マスタークエで久しぶりに故郷に帰り、ママと対面したプッチニア。これから臨んで行く試練を上手に描ければ、と思います。
今までの小説は終わるまで連続で載せてましたが、今回はかなり長くなりそうなので、飛び飛びに掲載すると思います。
字ばっかりっておもしろくないですしねw( ´∀`)
ブログはアフォ半分・真面目半分くらいで行こうかなという感じです(・∀・)
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