1.現代の若者の戦争観から考える a 若者の戦争観が変化 ・アジア太平洋戦争が侵略戦争だったという意識の変化が生じている。1980年代から日本でもやっと侵略戦争というとらえが定着してきたが、2000年代になると、10代から20代にかけての層が「侵略戦争」とする ・靖国神社参拝についても、最近は外国との関係も考えあわせて、首相に対し厳しい反応をするようになっているが、若い世代は「参拝しても良い」が多くなっている。 b なぜ変化したのか ・戦後、日本では戦争体験者の戦争や軍隊はもうこりごりという意識が、そのまま社会に定着したが、その体験を聞くことが減った(2000年代は80年代の半分)。 ・湾岸戦争あたりから、戦争報道がゲーム感覚で報道されるようになった。 ・戦争物の本、ゲーム、プラモデルなどが姿を消し、間接的にではあっても、戦争の形に接することがなくなっている。戦争をリアルに想像する力が衰弱してきている。 2.イラク戦争の現実から考える a 軍人の二極化 ・イラク戦争は情報戦。パソコンを駆使して作戦を作るエリートと、最前線で戦い死んでいく貧しい階層の軍人。しかも戦死者の三倍の負傷者がおり、特に戦争神経症の軍人が、ベトナム戦争あたりから深刻化している。除隊しても、社会に対応できない人の増加。 b 自衛隊はイラク戦争に耐えられるか ・日本は長い間戦場における殺傷体験がなく、兵隊に適さない若者がつくられてきた。一〇万人当たりの殺人者の発生数からいっても、日本は世界最低。また集団生活を嫌う若者のために、自衛隊側で若者に合わせている部分も出ている(兵舎での個室生活)。このような若者が日常生活から切り離された中で集団生活するのは三ヶ月が限界で、実際にそのサイクルで交代をしている。 ・自衛隊内で自殺する人が増えている。これは不況のあおりで企業から閉め出された人などが入隊し、軍隊になじめず、自殺する。 3.戦後の歴史学から考える a 平和の押し付け 「平和」の中味を考えると、七〇年代から八〇年代では、被害者意識からの平和、九〇年代になって加害面が加わり、九三年以降はアジアへの謝罪も始まっている。しかしこれらには全て戦争の実感が前提にある。体験者が減り、戦争の実感という前提が崩れた今、「平和」が自明の理の世界では、実感を共有しない世代には「平和」が押し付けに感じる。 b 「戦争をリアルに再構築できる」ための歴史教育、平和教育の方法を研究する必要がある。 幸い、最近になって軍隊や戦争に関する研究を、民俗学や教育学の立場など、さまざまな分野から取り組むようになっている。また、地方史研究の中で軍隊・戦争研究が多く蓄積されている。軍隊論や戦争論を新しく再構築する材料は、私たちの前にたくさんある。それをどう消化して時代にあった問題意識を持つことができるのかが、問われている。