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サンガンピュールの物語(女科学者)5話



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 あと一歩のところで久米を始めとしたテロリストを逃してしまったことで、翌日の土浦市役所内にある対策本部には多少ピリリとした緊張感が漂っていた。感情を抑えられない隊員もいたが、それでは久米らの思う壷である。何とか気を取り直して、冷静になって次の作戦に向けた話し合いが行われていた。

 一方、サンガンピュールは昨晩に見かけた謎が頭の中で深まるばかりだった。
 「おかしいねえ・・・、なんであんなところに子供がいたのかなあ・・・。もしかしてあの子が何らかの手がかりを持ってるのかも」
 昨晩、彼女が見かけた少女についてである。あの少女は何者なのだろうか。

 一方、久米らの集団は車での逃走を続けていた。前の日に危うく逮捕されるところだった彼女ら。久米はサンガンピュールに「永田町や霞ヶ関といった男の牙城でテロを起こしたら、なかなか面白い」と語っていた。しかし彼女らは都心方面に向かうどころか、茨城県の外に出ることはなかった。その日は国道6号線沿いを中心にウロウロし、警察の目線を都心方面に向かわせた。
 そして夜・・・。これから高速道路に乗る構えだ。メンバー全員はクタクタである。ちなみにサンガンピュールが見かけた少女もこの車に乗っている。彼女は久米奈緒美の長女、朋美である。
 久米は自分の長女である朋美にウィルスを隠し持たせた。サンガンピュール、警察の捜索をかく乱させるためであるのは言うまでもない。世間を驚かすためでもあった。しかし朋美はまだ小学校5年生程度か。このウィルスがどれだけ危険な物であるのか分かっているのだろうか?それは久米自身も心配していた。そんな中、久米親子とその仲間たちは車で都心とは逆方向の、福島県・浜通り地方へ向かっていったのである。

 久米とその仲間たちは車で常磐自動車道を北上していた。そんな中、長女・朋美が突然こんなことを言った。
 「ねえお母さん、私たちはどこに行くの?」
 母親でもある久米奈緒美は長女に対して厳しい口調で言った。
 「シッ!朋美、これだけは教えられないわ」
 「えーっ、教えてよ、小さい声でいいから」
 「仕方ない子ねえ。いいわ、あなたにも教えてあげるわ。実は私たちは、福島県の矢祭山に行くのよ」
 「えっ、矢祭!?」
 「シッ、静かにしなさいって言ったでしょ!」
 と、声を荒げた母親は何を思ったのか、常磐自動車道から一般道に下り、そして朋美を車から降ろしてしまった。朋美は殺人ウィルスを持ったままだ。

 車が去った後、朋美は思わず叫んだ。
 「お母さーーーん!!」
 そのときはもう日付が変わっていたので、疲れきっていた10歳の朋美はそこの草むらで野宿をすることにした。殺人ウィルスをどうするかは、10歳の少女の手に委ねられている。

 ( 第6話 に続く)


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