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サンガンピュールの物語(女科学者)11話

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 久米らが逮捕されて一週間が経った。町は平和を取り戻し、サンガンピュールやKもいつもの日常に戻った。サンガンピュールは学校に行き、久しぶりに友達とおしゃべりをすることができた。一方のKは仕事を再開。仕事仲間からもと冗談を言われつつも、うまくいっているように見える。
 しかしKには納得できないことがあった。それは第一発見者である自分が、直接あの女科学者たちに伝えたいことを伝えられないことだ。どうしても言いたいことがあった。ついにたまりかねたKは文書を茨城、福島両警察本部へ直接渡したのである。今回の騒動で世話になった土浦の市長にも伝えた。念のためにコピーも残していたというのだから徹底したものだ。

 ある日、サンガンピュールはKが最近になってイライラしているのを不思議に思っていた。夕食のときに聞いてみた。

 「ねえ、おじさん。最近イライラしているように見えるけど、なんでなの」

 するとKはやり場のない怒りを抑えつつ答えた。
 「なあ、あの久米奈緒美が逮捕されてからもう一週間以上経つよな」
 「うん、そうだよね。あれは同じ女としてもほんとに怖かったよ」
 「俺はどうしてもあいつらに言いたいことがある。既に警察には手紙を出したが、取り合ってくれているか心配だ。被告人には、関係のない一般人は入ることができないからね。第一目撃者であってもだ」
 「それは何というか・・・」

 サンガンピュールは、にわかに彼が怒るだろうと感じていた。Kが赤の他人のことを「あいつ」と呼ぶのはよほどのことだ。そして、次のようにまくし立てた。


 「俺が言いたかったのはこうだ。
 ふざけるな!自分たちだけが正義の味方だと思うなよ!!(激怒)正義の味方というのは、反社会的な行動は取らないはずだ。たしか彼女たちの最終目的は、女性の復権だったよね?でも女性の復権のためにどうして俺たち男が滅亡に追い込まれなけりゃいけないんだ!?もっと他の方法があるはずだ!合法的な手段でデモ活動でもやればいいのかな!
 もしテロが起きたら、理由はどうであれ当事者に関係のない多くの人々が犠牲にされる。幸い、あいつらは逮捕されたから大惨事は起こらなかった。テロに対する安全宣言も出されたけれども」

 「おじさん・・・、そんなに熱く語るおじさん、初めて見た・・・」
 サンガンピュールはあっけにとらえるしかなかった。Kの怒りはまだ続く。

 「確かに戦前の日本は男尊女卑的な社会だった。女性には何の権利も保障されなかった。それは歴史的事実としてみんなで反省したい。でも今は違うと思う。男女共同参画社会、つまり男性と女性が助け合ってこれからの社会を作っていくべきだと思う。男性には男性にしか、女性には女性にしか分からない、価値観というものがあるかもしれない。でもあいつら女科学者たちの考えは、男尊女卑を女尊男卑に書き換えただけのもので、全く意味のないことだと思う」

 このコメントと同様の意見を警察への手紙に書いたのだった。
 しばらくしてKはささやいた。
 「サンガンピュール」
 「何なの、おじさん!」
 「この怒りは君にあてた言葉じゃない。気にしないでくれ。・・・僕のこと、憎んでないよな」
 「当たり前じゃん!」
 「そうか、僕は君のことをずっと守ってるよ」
 「・・・うん、分かった。ありがとう、おじさん!」

 ( エピローグ に続く)


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