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サンガンピュールの物語(コーチング)4話



 初顔合わせからしばらく経った日曜日。塩崎ゆうこが練習に付き合った坂口少年の属するチーム、土浦ジャガーズの練習試合だった。ちなみに小学校高学年によるジュニアサッカーの試合時間は20分ハーフとされ、1チームあたりの選手数も8人となっている。
 この日の相手は県南地区の強豪・東土浦ファイヤーズ。嫌な相手と対戦することになったもんだ。だがそれを差し引いても、少年が語ったようにチームのメンバーにガッツは感じられず、結果としてレベルの低い試合展開となった。前半戦を0-1で抑えきったジャガーズ。1点差はまだまだマシな方だと拓也はベンチで語った。後半が始まってから、ジャガーズにはキーパーのファインセーブも飛び出し、しばらく点を許さなかった。そして珍しくゴールも飛び出した。得点すること自体久しぶりだったのだ。そのためかゴールとなった瞬間、イレブンの半分以上が得点者の周りに集まり、必要以上の祝福の嵐。審判がジャガーズに対して定位置につくようにと笛を鳴らし続けるが彼らは上の空で大騒ぎ。得点者はまだ有頂天の状態だ。遂にファイヤーズの選手の一人が詰め寄り、タックル!
 「お前らがつまんねーことやってっから試合が遅れんだよ!集中力切れんじゃねーかよ!ちゃんと考えろよ!」
 このマジギレの一撃でようやく試合再開。ところがこの出来事でファイヤーズ・イレブンの怒りの導火線に火が着いたのか、再開直後から猛攻を見せた。ジャガーズは9分間に3点も許してしまい、スコアは1-4となった。

 結局試合は1-5で負けた。ジャガーズの森山監督が最も問題にしたのは、同点に追いついた時に大騒ぎしたことだ。
 「ただ1点取ったぐらいで喜んでんじゃねーよ!先制したとしても1点リードはうちにとっては全然セーフティリードじゃないし。試合はまだまだ続いてんだぞ!」
 しかし選手の多くは説教が終わってしばらくはしょんぼりするものの、30分も経てば元の木阿弥だ。ゲームボーイで遊んだり、あるいはそのまま帰宅したり。いずれにせよ、ほぼ全員が全く深刻に受け止めていなかった。
 一方で、サンガンピュールの従来の疑問は解決されなかった。なぜ練習熱心な拓也はいつも補欠なのか。森山監督が言うには、拓也は低身長だということ。それが原因で監督の構想から外れていたのだった。過去の練習試合で実際に投入させてみたが、高身長な選手が多いチーム相手には、彼の高い意識や技術も活用できなかった。敵わなかった。これに対してサンガンピュールは悔しい思いをした。自分が(自分なりに)鍛えた選手が試合に出させてもらえなかったこともあるが、それ以上に自分の低身長の身体にコンプレックスを抱いていた。

 そんな中、ジャガーズのメンバーと共にいる彼女を遠くから密かに監視する集団がいた。
 「あいつが今回のターゲットのサンガンピュールか」
 「ええ、変装してるけど間違いないわ」
 「今回は情報と実物をチェックする日だから、後は同志マルーンの勇者に報告するだけだ」
 どこの誰だかは分からないが、サンガンピュールはいつの間にか命を狙われるかもしれない存在になっていた。2年前にロンドンで勧善懲悪の度が過ぎた行動をした結果、逆に市民から嫌われ、ギャングから命を狙われかねない状況となった彼女。その危機が現実にならないためにヨーロッパから日本に来たというのにこれでは意味がない。

 (第5話に続く)


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