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サンガンピュールの物語(お菓子の国)9話



 翌朝、サンガンピュールは地図で示された場所へジェットパックで移動した。実際に飛んでみるとかなりの距離があった。だが限界なんて知らないし、意味が無い。ジェットパック燃料の残量なんて気にしていられなかった。
 「とにかく職人さんたちを救うしかない!」
 彼女は改めて決意した。
 調べてみたらそこは、埼玉県八潮市にある、お菓子の国に加盟する企業の下請け工場だった。その屋上には巨大なバースデーケーキが飾られている。これは果たして何を意味するのか、その時のサンガンピュールは理解できていなかった。
 工場を遠くから見てみると、チクロンBが占拠しているのが分かった。黒いスーツにネクタイという格好のチクロンBメンバーの姿が見えたからだ。足立区のお菓子の国と同様、ここも従業員が軟禁状態となっているかもしれないと彼女は考えた。工場は3階建ての構造だ。場内にいるかもしれないチクロンBに気付かれず、静かに侵入するには外の非常階段を通るしかなさそうだ。ジェットパックで飛行する際の轟音は無視できないからだ(旅客機のジェットエンジンと同様に、空気を吸うことで再生可能パワーを得るジェットパックである。その排気口から出る轟音はすさまじい)。事実、土浦市内をジェットパックで飛行していた時、「百里基地に向かう戦闘機か」と誤認されたこともあるくらいだ。
 彼女は正面突破を避け、いったん右側へ向かって歩いた。そして誰も気づかれないようにフェンスを乗り越えて場内に入った。ソソクサと非常階段に向かい、そこを上がり始めた。目指すは3階の上の屋上である。

 「よしっ、ここまでは順調かな・・・って、エーーーッ!」

 思わず大声を出してしまった。なんと、非常階段の横には火炎放射が可能な暗殺ロボットが設置されていたからだ。具体的にはスーパーマリオシリーズに出てくるクッパをかたどったロボットだった。「クッパ」の口から火炎放射が可能となっていた。彼女の場合、上下一体型のスーツのため、着火したらもうおしまいである。しかも「クッパ」は階段を一段ずつ降りてきた。サンガンピュールは肝をつぶしたものの、改めて冷静になり、ライトセイバーでざっくりと斬り、撃破した。屋上への道を急ぐが、2階と3階の間でまた「クッパ」に遭遇する。同じミスをしない彼女、今度は落ち着いて撃破できた。

 屋上にあがり、見えてきたのは高さが8メートルもある、バースデーケーキを模した要塞だった。彼女の眼には要塞の上にいちごをかたどった何かが見える。そして彼女の前に立っていたのは日数谷と名古路だった。日数谷が言った。
 「ムムム・・・、サンガンピュール、よくここまで来たな!」
 「ここまで来れたのは朝飯前よ!」
 サンガンピュールがこう返すと、再び日数谷が言った。
 「それは素晴らしい。だが!残念ながらここから先へは行かせねえぞ!」
 「職人さんたちはどこなの!」
 とサンガンピュールが問いただした。次に答えたのは名古路だった。
 「ここにいるとでも思ったのか?残念だったな!この建物は囮なのだよ!お前を呼び寄せるための偽物なんだよ!」
 そう、この要塞は囮だった。囚われの職人たちは別の場所にいるのだった。真実が明かされたところで日数谷は言った。
 「そうだ、こいつの言う通りだ。どうしても本当のことを知りたいのなら、お前にミッションを出してやろう」
 「ミッション?」
 サンガンピュールはすぐには理解できなかった。
 「そうだ。それは・・・、この巨大バースデーケーキについてあるロウソクの火を消すことだ。まあ、電気や火の魔法しか使えないお前には無理だろうがよ!」
 サンガンピュールはこの日数谷の一言にカチンと聞いた。闘争心に火が着いた。
 「ううう・・・」
 「どうした?できねえのか?」
 挑発する日数谷と名古路。
 「やってやろうじゃない!」
 「いい度胸だな!」
 そう言いながらチクロンBの2人は彼女の動きを観察するためだろうか、要塞のそばまで移動した。ロウソクは5か所あるが、いずれも高さ6メートルだ。全てを消火しなければならないのだ。
 彼女はジェットパックを使い、直接「ふーっ」と息で消そうとした。しかしかなり熱いのか、それで消えることはなかった。そりゃそうだ。お菓子の国の壊滅を狙うチクロンBがそんな簡単な解決策を提案するわけがない。しかも要塞頂上への道中には先程の「クッパ」がウヨウヨいるのだ。悪戦苦闘するサンガンピュール。通算3機目の「クッパ」を倒した時、重大なことに気付いた。
 やられた「クッパ」からは生物では内臓とも言うべき、機械が見えている。そこに、

 ‘Emergency Extinguisher’

 と書かれている装置があった。
 「これだ!」
 「クッパ」には故障等の事態に備えて緊急消火器がセットされていたのだ。彼女は、撃破されバラバラになったクッパから緊急消火器をまずライトセイバーで穴を開け、消火剤が出せるようにした後、それをロウソクに向かって投げたのだ。すると火は消えた。日数谷と名古路はおじけづいてしまった。「このままじゃやばいぞ!」立て続けに5つのロウソクの火を消してしまった。彼女は遂に、2人に対し答えを出さざるを得ない状況に追い込んだ。

 ( 第10話 に続く)


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