2005.12.15
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不老不死は、人類の永遠の夢。

それは、遥か太古の時代からずっとそう。

でも、叶わぬ願い。

そうやってずっと人類は生きてきた。今だって。

だけど。

ずっと前に。今から5世紀も前に。『不老不死』は存在してた。

存在、とは少し違うかな。作り上げられてた。

それが、『死に至らない病』。

文献も資料も何も残ってないから、詳しいことは何も分かっていない。



それだけは分かっている。

何で、文献も資料も残ってないかって、そりゃ。

握り潰されたんだよ。余りに、危険過ぎるから。

時の権力者はこぞって不老不死を求めていた。

当然、こんなものが広まったら、世界のバランスが崩れる。

戦争も起こるだろうね。それも大きい戦争が。

だから、それを恐れてこの世から『死に至らない病』の存在は消された。

と言っても。

『死に至らない病』そのものが、この世から消えた訳じゃない。

よくある話かも知れないけど。

やっぱりこういうものは『裏の世界』で生き続けるものなんだ。



単なる知的好奇心だけだったのかも知れない。

ひょっとしたら政治的な力の関与だって。否定できない。

何が関係したのかは知らないけど、それでも。





*****

私の方を向かずに、街を眺めながら、ゆっくりと夫は喋り続けた。



おとぎ話を話して、そして私はそれを聞く子どもの様に、

じっと彼の横顔を見つめて話を聞いた。

黙ったまま。

その話は、とても遠すぎて。

母と、夫の身体にいま存在している『病』。

それと、彼がいま話している『病』がなんだか結びつけることが出来なかった。





*****

きっかけは、そう。

父方のじいちゃんが亡くなったこと。

すごく、おじいちゃんっ子だったんだ。俺は。

生まれた時には、ばあちゃんは亡くなってて。

母方のじいちゃん、ばあちゃんも亡くなってて。

だから、俺を『孫』として可愛がってくれるのは、じいちゃんひとりだった。

両親が共働きだったから、俺の面倒は全部、じいちゃんが見てくれた。

すごく、いろんな話をしてくれて、何でも知ってた。

元々、大学の教授かなんからしくて。

でも、頭の固い人じゃなかったし、偉ぶったところも無かった。

俺は中学に上がってもじいちゃんが大好きで、尊敬してた。

前みたいに、じいちゃんにベッタリって訳じゃ無かったけど、それでも。

だから。

じいちゃんが癌になって。それからだんだん弱っていって。

その時に。

『死ぬ』って何だろうって。

どうして、死んでしまうんだろうって。

すごくすごく考えた。

何でじいちゃんが死ぬんだろう。人間は死ぬんだろう。

俺もいつか死ぬのか?

どうして、死ななきゃならない?

ただ、いつまでも笑って、そして大好きな人と居ることが出来ないんだろうって。

もちろん、人がいつか死ぬことなんて分かりきっていた。

けれど、そのときまで真剣に考えたことが無かった。

だんだん、じいちゃんが喋ることすら出来なくなって。

そして、最期のとき。

俺は泣かなかった。その時にはもうひとつの考えが俺の中にあったんだ。

『死』を、俺は認めないって。

大好きで、尊敬してた人を奪う死を。俺は認めたくないって。

死ぬからこそ人生は美しいなんて、そんなのは詭弁でしかない。

死は、終わりで、全てを奪うものなんだよ。

じいちゃんは、それを最期に教えてくれた。

『死』について、俺はがむしゃらに調べた。

正しくは、『不死』について。

馬鹿馬鹿しいと思うだろう?でも、俺は真剣だった。

片っ端から、そう、おとぎ話のようなものから、医学書みたいなものまで。

俺は調べまわった。

けど、『不死』なんて存在しない。

調べれば調べるほどそれがハッキリしてきて。

高校を出る頃にはもう、『不死』について調べる事をやめてしまった。

そして、普通に大学に入学して、普通に就職し、そして…

いつか、普通に死んでいく。

きっと、そういう人生になっていくって、自分でも思った。





*****

夫の悲しくて、寂しい顔を見ていると、私は言葉が見つからなかった。

周りの景色が、少しずつオレンジ色に変わっていく。

いくつもの夫の想いが、心の中に沁み込んで行く気がして、

でも、それは、どこか哀しくてそして強い感情。

口を開くたびに、私の中に沁み込んで行く感情。

私は、それを。

すべて受け止めることが出来るの?

ふいに、寂しくなる。

もし、受け止められなかったら?

私は、ただ。

目の前に居るこの人を。

この人と、歩いていくだけでいいのに。






また、しばらくの沈黙が続く。

その後に。

夫が口を開いた。



「なぁ、俺は、ただ。お前と。愛する人とずっと一緒に居たいだけなんだ」



ええ、私も、そう。


「それすら、叶わない『死』なんて。消えてしまえばいい。だから…」


冷たい風が吹いた。

これから夫が話す事を、私はどう受け止めればいいんだろう。

『死が消えてしまえばいい』

私には分からないかも知れない。

理解出来ないかも知れない。

その時は。その時に、私は。








どこに向かって、歩いていくんだろう。

締め付けられそうになった感情が、くっきりと。今もそのまま残っている。





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Last updated  2005.12.16 02:19:07


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