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2017.07.19

ミシェル・パストゥロー『緑―ある色の歴史―』（英訳版）

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テーマ：最近、読んだ本を教えて！(24672)

カテゴリ：西洋史関連（洋書）

Michel Pastoureau (tranlated by Jody Gladding), Green. The History of a Color

　『青の歴史』（邦訳版の記事はこちら）、『黒の歴史』（英訳版の記事はこちら）に続く、ミシェル・パストゥローによる色の歴史シリーズ第３作（の英訳版）です。購入から3年近く経ってしまいました…。
　本書の構成は次のとおりです。（拙訳。章・節の連番は便宜的に付しました。）

―――
序論
第１章　不確かな色（はじまりから紀元千年）
　第１節　ギリシャ人は緑を見たか？

　第３節　エメラルドとリーキ
　第４節　競馬場の緑
　第５節　聖書と教父たちの沈黙
　第６節　中間色
　第７節　イスラームの緑
第２章　宮廷風の色（11-14世紀）
　第１節　緑の美しさ
　第２節　緑の場―果樹園
　第３節　緑の時―春
　第４節　若さ、愛、希望
　第５節　騎士道の色

第３章　危険な色（14-16世紀）
　第１節　サタンの緑の動物誌
　第２節　緑から緑っぽさへ
　第３節　緑の騎士
　第４節　染色師の桶

　第６節　紋章の緑
　第７節　詩人の緑
第４章　二次的な色（16-19世紀）
　第１節　プロテスタントの道徳
　第２節　画家たちの緑
　第３節　新しい知識、新しい分類
　第４節　アルセストのリボンと劇場の緑
　第５節　迷信とおとぎ話
　第６節　啓蒙の時代の緑
　第７節　ロマン主義の色か？
第５章　なだめる色（19-21世紀）
　第１節　流行の色
　第２節　パレットへの回帰
　第３節　シュヴルールと科学者は緑を好まなかった
　第４節　カンディンスキーとバウハウスも緑を好まなかった
　第５節　日常生活の中の緑
　第６節　都市中心部の自然
　第７節　こんにちの緑

謝辞
注
参考文献目録
―――

　特に印象的だった部分をメモしておきます。

・第１章第１節：ホメロスの詩に色彩の語彙があまりみられないことから、ギリシャ人は色の認識が困難であったという19世紀の研究があり、たとえばナチスは「ゲルマン人は青と緑を区分するから優れている」という主張もしたそうです。当然、パストゥローはこうした見解を批判し、色は社会・文化的なものであることを強調します。ここでは、社会の中の色をめぐり、研究上の論争があるという気づきがあると同時に、そしてそれが政治的な主張の根拠にもなりえるという怖さをあらためて感じました。

・第１章第５節：聖書や教父の著作にみられる色彩の語彙の分析がなされており、興味深いです。またここでは、聖書の翻訳の過程で色彩の語彙も変化してしまうことに注意すべきという指摘が興味深いです。

・第２章：私が関心を寄せる中世に関する議論で、どれも興味深かったです。たとえば第１節では、写字生は目を休ませるためにそばに緑のものを置いていたことが指摘されます。
第２節では、果樹園を扱う中で、植物の象徴性（例えば、ユリ＝純潔・貞潔、バラ＝美・愛、ナラ＝力、など）が紹介されます。第５節では、文学作品には緑の騎士がいるが、現実に緑の紋章を採用した騎士がほとんどいないことを指摘し、その理由として視覚的理由（森のそばでのトーナメントでは緑は見にくい）、技術的理由（緑に染めるのが困難）などが挙げられます。

・第３章第１節：動物誌の中での緑の分析。悪魔の動物の色は、大きく黒・暗（熊、狼など）、緑（ヘビ、ドラゴン、
カエルなど）に分けられるように、緑の比重が大きかったことや、それぞれの動物の象徴性が紹介されます。

・第４章第４～５節：モリエール『人間ぎらい』の主人公アルセストが、舞台では緑のリボンを付けており、それは彼の不誠実さの象徴であったこと、劇場の中での緑の使用は不幸を招くとしてタブー視されていたこと（技術的に緑の染色がまだ困難で、鮮やかではなかったために嫌がられたという面も）、一方で緑が悪を払うという迷信もあったことなど、興味深い事例がいろいろ紹介されます。

・第５章第１節：ナポレオンのお気に入りの色は緑でしたが、当時は、ヒ素を混ぜてつくられた緑が用いられていたそうで、ナポレオンの髪の毛からヒ素が検出されたのは多くの部屋にその緑が使われていたからという指摘がなされます。

　このシリーズは全５冊を予定されており、第４作の『赤の歴史』はすでに英訳も刊行されています（入手済みですが、いつ記事が書けるかは不明です）。第５作は『黄の歴史』になるそうです。

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