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2017.08.05
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Louis-Jacuqes Bataillon, La predication au XIIIe siecle en France et Italie , Variorum, Aldershot, 1993.

 バタイヨンは、中世説教研究で有名な研究者の一人です。1914年生まれ、ドミニコ会士となり、2009年に亡くなられているようです。
 今回、ヴァリオルムの論集をはじめて手に取りました。論文集なのですが、論文は初出のままの体裁で、ページ番号も初出のままなので、ページ上にローマ数字で何番目の収録論文かが示されています。ヴァリオルムのシリーズでは著名な歴史家の、そして重要な論文集が多く刊行されていますので、今後もお世話になりそうです。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
まえがき(David d’Avray, Nicole Beriou)
謝辞

I.中世説教研究への諸アプローチ
II.13世紀の説教及び説教師のための著作の編纂に関する諸問題
III.起草された説教、筆録された説教(13世紀)

V.読解から説教へ―13世紀における聖書注解と説教―
VI.実践的道徳概論と説教の仲介―アルファベット順聖書「語釈」
VII.13世紀聖書語釈からみる人間の振るまい
VIII.大学説教からみるパリ大学の危機
IX.13世紀説教における哲学的言語の使用
X.13世紀説教における「類似」と「例話」
XI.13世紀説教におけるイメージ
XII.13世紀中央イタリアにおける托鉢修道士の説教活動
XIII.13世紀における俗人への在俗聖職者による説教活動―チョバムのトマスからラヌルフ・ド・ラ・ウブロニエールへ―
XIV.聖ボナヴェントゥラのいくつかの説教
XV.聖トマスに帰される諸説教―真正性に関する諸問題―

XVII.聖トマスによる未刊行説教、Homo quidam fecit cenam magnam―序論と校訂―
XVIII.ヤコポ・ダ・ヴァラッツェとトマス・アクィナス
XIX.ジェラール・ダベヴィユ、ユード・ド・ロスニィ、トマス・アクィナスの説教の諸断片
XX.聖トマスの説教と『カテナ・アウレア』Catena aurea

訂正表

写本索引
―――

 第1論文が英語、第12、18論文がイタリア語、その他の論文はフランス語で書かれています。
 今回は、私の語学力による制約と関心から、第1~7,10,11,13論文の計10論文にざっと目を通してみました(内容も理解できずほとんど流し見ただけのものもあります)。簡単にメモしておきます。

 第1論文は、説教史料研究の方法論について論じます。説教集の構成、説教史料の性格(説教師自身のノート、他の説教師のための範例説教、聴衆による筆録)、聴衆の性格、説教の構造といった、研究上注意が必要な点を挙げており、有益です。(このあたり、文学理論の援用や、説教のマスコミュニケーションとしての性格を強調した、ダヴレイによる方法論に関する論文( Nicole Bériou and David L. d'Avray, Modern Questions about Medieval Sermons. Essays of Marriage, Death, History and Sanctity, Spoleto, 1994 所収)と比べてみると面白いです。)

 第2論文は、説教史料の校訂に関する、こちらも方法論的な論文です。特に、聴衆による筆録と、範例説教集についての問題を扱っています。面白いのは、ミシェル・ザンクによる説教の「上流」(説教する前≒範例)と「下流」(説教された後≒筆録)という概念を援用しながら、しかし筆録をもとに範例説教が書かれる事例もあるとして、説教史料の流動性には注意が必要とされています。

 第3論文も同様に、筆録説教と範例説教の比較を行います。範例説教としても筆録説教としても残っている説教について、両者を並べて比較し、メモのような範例にはないことが筆録には残されている場合、筆録は実際に語られたことを忠実に書き取っていることが分かる、といった点を指摘します。(現代日本に置き換えていえば、たとえば、ある講演について、話者は簡単なレジュメを見ながらふくらませて話し、聴衆がその話をできるかぎり書き取った、というイメージです。)

 第4論文は、説教師の仕事道具ということで、範例説教集、例話集(難しい話をなじみやすいたとえ話―イソップ寓話や、人から聞いた最近の出来事など―で説明するという、主に説教の中で用いられた例話の集成)、語釈集(聖書中のある用語の、複数の意味―文字通りの意味、道徳的意味など―を説明するもの)といった史料の性格を論じます。

 第5論文は、聖書注解と説教の関係を論じます。複数の著述家による聖書注解と説教の密接な関係を示し、研究に際して両者に目を配ることの必要性を説いています。

 第6論文、第7論文は語釈集を主要史料としています。

 第10論文は、例話と「類似」という説教中の技術を論じています。冒頭には両者の違いを指摘するとありますが、結論部でそのまとめがなされておらず、現時点では本論文は理解できていません。

 第11論文は、特に興味深く読みました。説教の中では、聴衆の理解を助けるためにいろんなイメージが用いられています。本論文は、飲食、健康・病、老い(老人)、旅(船)などといったイメージについて、具体例を紹介してくれます。たとえば、病と罪をなぞらえて説明する、といった具合ですね。

 第13論文は、中世後期の説教の主な担い手として注目されがちな托鉢修道士(ドミニコ会やフランシスコ会の修道士)ではなく、在俗聖職者による俗人向け説教を分析しており、こちらも面白いです。本論が取り上げるチョバムのトマスについては、 ジャック・ル・ゴフ『中世の高利貸―金も命も―』 で割と取り上げられています。ラヌルフ・ド・ラ・ウブロニエールについては、日本語では川原田知也「13世紀パリ筆録説教にみる説教の構造―ウブロニエールのアルヌルフスの枝の主日説教を例に―」『中世思想研究』51、2009年、43-57頁が参考になります。

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Last updated  2017.08.05 12:55:43
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