高木彬光『影なき女』
~角川文庫、 1977 年~
神津恭介シリーズの短編集です。7編が収録されています。
それでは、簡単に内容紹介と感想を。
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「影なき女」 私立探偵・相良の事務所に、殺人予告の電話がかかってきた。対応した助手の日下部は、相良に報告し、予告のあった家に向かう。しかし、すでに犯行はなされていた。現場は、犯人が逃げ出せる余地のない密室状況だった。犯行方法に気づいた相良は、現場で実験を試みるが、さらに犯行は繰り返される。
「黄金の刃」 神津恭介と松下研三が食事していると、神津の知人が居合わせた。そこで知人の男は、自分は四次元の世界に足を踏み込んだ、殺人を犯しても罪に問えまい、という話をした。後日、男に完全なアリバイがある状況で、殺人がなされる。
「出獄」 松下研三は、道で倒れていた男を助ける。男は、 10 年前に無実の罪で逮捕され、出獄したばかりという。彼は、出獄した直後に不思議な女に出会い、死んだはずの自分の妻に引き合わされたというのだった。
「天誅」 新聞社に寄せられた、殺人予告の投稿を受けて、記者の真鍋はその家に向かった。そこには、知人の女もおり、真鍋は予告時間に現場に居合わせることとなった。しかし、予告時間、居合わせた中の一人が、毒を飲んで死んでしまう。
「ヴィナスの棺」 喫茶店で、神津のコーヒーカップと自分のカップを取り替える女がいた。神津がみると、替えられた後のカップには、ダイヤモンドが入っていた…。女を追うと、女は、自分はある男に殺された女だという。
「薔薇の刺青」 海岸そばの別荘で仕事をしていた松下研三が海岸を歩いていると、バンガローから出てきた女に目がいった。彼女の薔薇の刺青が目を引いたのだった。女と行動をともにしていたはずの男のことが気になり、バンガローに行くと、そこには背中に短刀が突き立てられた男が倒れていた…。
「死せる者よみがえれ」 自身の出生の秘密を隠しながら、作家として大成した山名孝二は、数年ぶりに初恋の女と出会う。しかし、それが悲劇の始まりだった。後日、女は、不仲の夫を殺してしまったと連絡をしてくる。彼女を守るため、偽装工作に協力した山名だが、遺体が発見されたとき、現場には山名の関与を思わせるものが残されていた…。
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読了から感想を書くまでに時間が空いてしまったので、十分なメモができませんでした。逆に、印象に残っているのは表題作のほか、「黄金の刃」と「死せる者よみがえれ」の2作と再確認しました。
中でも、「死せる者よみがえれ」が最も印象的でした。表題作の密室のような、大がかりなトリックがメインではありませんが、初恋の女性を守るために動く山名さんが、何者か(初恋の女性その人?)に陥れられていくサスペンス性に手に汗握ります。また、山名さんの「出生の秘密」の問題は、現代でもまだ尾を引いている問題と思われます。
解説の権田萬治さんが書かれているように、「新しい社派的な方向の萌芽が秘められている」という点で、興味深い物語でした。
高木さんの社会派作品はまだ読んだことがありませんが、これをきっかけに、関心もわいてきました。
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