加納朋子『トオリヌケ キンシ』
~文春文庫、 2017 年~
加納朋子さんによる、ノンシリーズの短編集です。
それでは、簡単に内容紹介と感想を。
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「トオリヌケ キンシ」
「トオリヌケ キンシ」と書かれた札を無視して路地を進むと、そこには同級生の家があった。教室では話をしたことのない彼女と、おばあちゃんと、過ごす時間が増えていく。しかし、「おれ」は引っ越しすることになり…。
「平穏で平凡で、幸運な人生」 声が聞こえ、多くのものの中から目的のものを見つけることができる「私」は、それは「共感覚」だと葉山先生に教えてもらう。いろんなことを葉山先生に教えてもらうが、ある日、先生の乗った飛行機の墜落事故が新聞で報道され…。
「空蝉」
あるひ、お母さんがバケモノに変わってしまった。優しくて、料理も上手なお母さんが、怒鳴り、たたき、料理もしなくなってしまった……。児童虐待の記憶をもつ「僕」は、義母ともうまくいっていなかった。ある日、義母の振るまいに虐待の記憶が呼び起こされ、「僕」は急いで先輩に連絡をとる。
「フー・アー・ユー?」
人の顔を識別できない、「相貌失認」の僕は、苦労して生きてきたが、高校生になり、はじめにそのことを打ち明けて、生きやすくなった。ある日、隣のクラスの女子生徒から告白をされることになるが、彼女も何かを抱えているようで…。
「座敷童と兎と亀と」
親しくしていた老夫婦の奥さんが亡くなった。ある日、「私」はご主人から奇妙な相談を受ける。「座敷童」が出るようだ、と。物音はするし、置いていたものがどこかに消えてしまい、仏壇へのお供えも減る。一度見に来てほしい、と。怪訝に思いながら、「私」はその家を訪れる…。
「この出口のない、閉ざされた部屋で」
「神聖なヒキコモリ部屋」にこもっている「俺」は、「明晰夢」を見る訓練をしていた。そんなある日、「俺」は女性から告白される。はたしてこれも「夢」なのだろうか。
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病気や、人と変わった体質や能力(?)をもつ人々の物語です。
なかでも「空蝉」はすごかったです。冒頭、全文ひらがなで、やさしかったおかあさんの変貌が描かれるところの苦しさ、その後も恐怖や不安を抱え続けながら主人公に、つらい思いで読み進めました。さらに、後半で全ての世界がひっくり返る衝撃もすごかったです。重たい話ですが、これは印象的でした。
その次に、「フー・アー・ユー?」が置かれているのは嬉しかったです。「相貌失認」という大変な体質(?)でありながら、明るく生きている主人公が素敵でした。また二人の恋の行方も楽しみながら読めました。
「座敷童と兎と亀と」も、決して軽い話ではありませんが、主人公の明るい性格から、楽しく読めました。
本作は、「第4回日本医療小説大賞」にノミネートされた作品だそうです。
感動の作品集でした。
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