米澤穂信『リカーシブル』
~新潮文庫、 2015 年~
米澤穂信さんによる、ノンシリーズの長編です。
それでは、簡単に内容紹介と感想を。
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父親が会社で横領し、失踪した。新年度から中学1年生になるわたし―越野ハルカは、父の再婚相手である義母の故郷の坂牧市に引っ越してきた。
ハルカは、クラスにとけ込み、浮かないようにすることに尽力する。リンカという、町を案内してくれる友人もできた。一方、気がかりなのは義弟のサトルの言動だった。いつも自分に起こった嫌なことばかり話するサトルが、学校に行きたくないと言い出した。原因は、通学路の橋だという。そこから、人が落ちたというのだ。
ハルカのまわりに起こる奇妙な事件についても、サトルは「見たことがある」と、真相を口にする。サトルに、本当に予知能力があるのか。少しかわった社会の先生にそれとなく尋ねると、先生は町に伝わる、未来がみえるというタマナヒメの伝承について教えてくれた。
後日、社会の先生が事故にあってしまう。ついには、ハルカ自身もクラスメイトから疎んじられ始め…。
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物語はハルカさんの一人称で進みます。父が不祥事で失踪し、優しい義母は自分を置いてくれている。しかし、弟のサトルとは馬が合うわけではなく、家でももやもやした気持ちを抱え、学校でもなんとか自分の居場所を作ろうともがいています。
そんなハルカさんが、排他的な町でいろいろな疑問を抱いていきます。弟の予知能力は本物なのか。タマナヒメ伝説の意味とは。そして、先生の事故の真相は。
密室とか、アリバイとか、大がかりな不可能状況とか、そういった事件はありません。語り口も、淡々としていると言って良いと思います。それでも、不安感だったり、焦燥感だったり、また町が抱えるもやもやしたものだったり、そうしたものが相まって、とにかく物語に引きつけられました。
先生が事故にあったあたりからは、緊迫感も次第に増してきて、一気に読んでしまいました。
これは面白かったです。良い読書体験でした。
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