~講談社ノベルス、 2010 年~
講談社創業100周年記念出版の書き下ろし作品。俊足でたてがみがあり、成雄という名前の主人公は、 『山ん中の獅見朋成雄』 にも登場します(本作との直接のつながりはなさそうですが)。
それでは、簡単に内容紹介と感想を。
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西暁の河原家の庭で、 14 歳くらいの僕が馬から生まれた。西暁太郎と名づけられた僕だが、河原正彦に「ナルオトヒコ」からとった成雄と名づけられ、河原成雄となる。とりあえず小学校に通うも、勉強面はなんなくクリアし、飛び級を重ね中学生になる。しかし暴力事件を起こし、校長直々の道徳の特別授業を受けることとなる。
ある日、僕は夢を見る。悪い樹が出て来る夢。その夢で見た少女は実在していて、彼女は蛇に乗っていて、名前は楡という。楡に会いに児童園に行くが、そこでも暴力事件を起こしてしまう。
夜中に僕に会いに来る楡に誘われ、僕は自分の本当の家を案内される。放火や殺人で、家族は殺されてしまい、父親はどこかに失踪しているというが……。
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なんともあらすじが書きにくいですが、大きく動き始める前くらいまで略述してみました。
舞城さんの作品を読むのは久しぶりで、本書も購入からずっと読めていなかったのですが、読み始めると一気に物語に引き込まれました。記憶も何もない 14 歳くらいの少年がとつぜん馬から生まれるというなんとも荒唐無稽な設定ですが、荒唐無稽ながら考えさせるのが舞城さんの作品のすごいところだと思います。
あえて上にも書きましたが、一番印象的だったのは成雄さんが道徳の授業を受けるところです。すでに多くの本を読み、知識はすぐれていた成雄さんですが、道徳では「なぜ?」となることばかり。ここにとにかく共感しました。以前に人類学の文献を読んだときにも感じましたが、ふだん当たり前と思っていることを相対化してくれて、少し立ち止まらせてくれる、そんな貴重な経験が本書でもできました。
『山ん中の獅見朋成雄』の記事を読み返して、その作品が「音」をテーマにしていたことを思い出しましたが、一方で本書は、「名前」が大きなテーマになっていると思います。それは、基本的に各章のタイトルが名前になっていることからもうかがえます。
良い読書体験でした。
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