有栖川有栖『鍵の掛かった男』
~幻冬舎文庫、 2017
年~
火村英生先生&作家アリスシリーズの長編です。文庫版で約 730
それでは、簡単に内容紹介と感想を。
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有栖川有栖は、著名な作家、影浦浪子から依頼を持ち掛けられる。彼女が愛用するホテルに5年間住んでいた男―梨田稔が、首を吊って死んでいるのが発見された。警察は自殺と断定したが、何度も梨田と話をしている影浦には、とても自殺とは思えない。この事件について、火村英生とともに再調査してほしい、という。
大学入試の時期で多忙な火村が動けるまで、有栖川は一人で調査を進めることとなる。ホテルのオーナーと支配人も、梨田が自殺したということには疑問を感じており、快く調査に協力してくれることとなる。警察からの情報、梨田が亡くなった夜に宿泊していた客たちから聞き取りを行いながら、有栖川は、過去のことをほとんど語らなかった梨田の人物像に迫っていく。
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と、火村英生シリーズの中では異色の作品となっています。そもそも、亡くなった人物は自殺だったのか他殺だったのか、という点が出発点ですが、ほとんど自分の過去を語らなかった「鍵の掛かった男」である梨田さんは何者だったのか、という点も、大きな謎として現れます。
大掛かりな密室トリックやアリバイトリックがあるわけではありませんが、丹念に調査を進めて少しずつ梨田さんの過去が浮かび上がっていくあたりは実に見事で、もちろん驚きも味わえます。
有栖川さんの作品は謎解きものとして気軽に楽しめることが多いですが、本作は、非常に重厚であり、味わいながら読み進めました。現時点で、火村先生シリーズの長編では一番好みの作品かもしれません。
良い読書体験でした。
( 2020.11.09 読了)
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