アンソロジー『誘拐』
~角川文庫、 1997
年~
誘拐をテーマにしたアンソロジー。8編の作品が収録されています。
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有栖川有栖「二十世紀的誘拐」
織田・望月のゼミの教師の家から、その親族の絵が盗まれた。その絵の身代金は、千円。メンバーたちが犯人の指示のままに行動すると、絵は無事だった。盗んだ時の犯人は手ぶらだったはずなのに、折り目すらない状態で…。
五十嵐均「セコい誘拐」
1歳の娘が誘拐された男は、「セコい」方法で乗り切ろうとするが…。
折原一「二重誘拐」
覆面作家の西木香が一人の女性に捕らわれの身になってしまった。女は、自分の登場する作品をかけという。一方、女の外出中に確認すると、電話には誘拐のやり取りが録音されていて…。
加納諒一「知らすべからず」
ひき逃げ事件の被害者のかばんには、大量の札束が。そして、誘拐犯からの指示書も持っていた。誘拐事件の可能性があるため、慎重に捜査を進める刑事たちだが…。
霞流一「スイカの脅迫状」
葬儀にかける直前、お通夜の間に、遺体が「誘拐」された。棺の底には、脅迫状とともにスイカが置かれていた。また同時期、「被害者」の知人が首を吊って死んでいるのが発見される。
法月綸太郎「トランスミッション」
ある朝かかってきた間違い電話―それは、誘拐を知らせるものだった。完全に人違いのまま用件を喋り終えた犯人にかわり、僕は本当に子供を誘拐された人物のもとへ連絡をとる。それが、奇妙な事件の始まりだった。
山口雅也「さらわれた幽霊」
20
年前に息子が失踪し、脅迫状が届いた女優のもとに、霊と話せるという男が現れる。直後、息子を名乗る人物から電話があり、 20
年前と全く同様の脅迫状が届けられる。果たして、幽霊が誘拐されたのか。
吉村達也「誰の眉?」
公園で遊んでいて男の子が誘拐された。誘拐した人物は特徴的な眉毛をしており、「ダリノマユ?」と男の子に聞いていたという。父親は、状況から、疎遠となっている祖父が犯人とわかっているが、祖父はかたくなに否定する。精神分析医の氷室想介がたどり着く祖父の思いとは。
―――
有栖川有栖「二十世紀的誘拐」は、 有栖川有栖『江神二郎の洞察』(東京創元社、 2012
年)
に再録(内容紹介は同記事から再録)。
法月綸太郎「トランスミッション」は、 法月綸太郎『パズル崩壊』(講談社ノベルス、 1998
年)
に再録(内容紹介は同記事から再録)。ノベルスタイトルには「 WHODUNIT SURVIVAL 1992-95
」との副題がありますが、本作は結局真相が割り切れないところがあります。
その他、折原作品はかつて目を通したことがありますが、あらためて楽しめました。(西木さんの性格は苦手です。)
五十嵐均「セコい誘拐」は、結局??こういうことかな、と思うところはありますが、すっきり割り切れない部分も残りました。
「スイカの脅迫状」「さらわれた幽霊」は、誘拐される対象が斬新で、解決も楽しく読みました。
「誰の眉?」は 有栖川有栖『ダリの繭』
をもじった作品で、作中にも有栖川公園が出てきたりと、面白かったです。吉村さんの作品はブログ開設前に数冊ほど読んだことがありますが(それもブログ開設前に手放してしまっています)、氷室さんシリーズの作品は今回初だったので、アプローチの在り方など、興味深く読みました。
真相がすっきりしない作品もありますが、「誘拐」一つとってもこんなにバリエーション豊かな物語ができるのかと、全体的に楽しめました。
( 2020.12.04 読了)
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