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2022.04.23
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大黒俊二/林佳世子(責任編集)『岩波講座 世界歴史 03  ローマ帝国と西アジア 前3~7世紀』
~岩波書店、 2021 年~


 岩波講座 世界歴史シリーズの第3期の第3巻。表題通り、古代ローマ帝国と西アジアの状況について、通史的・共時的に様々な観点から概観されます。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
<展望>
南川高志「ローマ帝国と西アジア―帝国ローマの盛衰と西アジア大国家の躍動」
コラム 冨井眞「考古学の存在感とリアリティ」
<問題群>
藤井崇「ローマ帝国の支配とギリシア人の世界」
コラム 中川亜希「史料としてのラテン語碑文」
三津間康幸「ローマ帝国と対峙した西アジア国家―アルシャク朝パルティアとサーサーン朝」
コラム 桑山由文「ナバテア王国の興亡とローマ帝国」
池口守「古代世界の経済とローマ帝国の役割」
<焦点>
春田晴郎「西アジアの古代都市」
髙橋亮介「ローマ帝国社会における女性と性差」
田中創「ローマ帝国時代の文化交流」
コラム 佐々木建「ローマ法の後世への影響」
南雲泰輔「「古代末期」の世界観」
大谷哲「内なる他者としてのキリスト教徒」
井上文則「三世紀の危機とシルクロード交易の盛衰」
コラム 井上文則「忘れられた西部ユーラシアの歴史像―鈴木成高と宮崎定市」
―――

 岩波講座世界歴史第1期、第2期で見られたように、ヨーロッパ古代史は「ギリシア・ローマ」とまとめられがちですが、今回のシリーズでは、古代ギリシアを扱う巻と古代ローマ時代を分けて、さらに「地中海世界」として地中海沿岸部の歴史に重点を置くのではなく、「ローマ帝国」として帝国の広い版図と西アジアとの関係にも目配りをすることを特徴とします。
 展望論文は、そうした本シリーズの意図(もちろん、こうした意図には、「地中海世界」の歴史を強調していた研究史に対する批判の流れを踏まえています)を掲げた後、ローマの歴史のはじまりから西ローマ帝国の滅亡、そして「古代末期」の時代までを概観したうえで、近現代の歴史叙述などにおける「ローマ帝国の記憶と表象」を論じます。ケルト人、ゲルマン人という集団のとらえ方(近現代史で政治的に扱われた反省など)や、

 <問題群>の部では、藤井論文はローマ帝国におけるギリシア人のアイデンティティを探り、三津間論文は西アジア国家の観点からローマ帝国との関連性を見て、池口論文はローマ帝国期の経済活動の在り方を論じます。
 <焦点>の部では、春田論文は「都市」を表現する語の観点を中心に西アジア都市について論じ、髙橋論文はローマ帝国における女性の活動の様相を主に碑文史料とパピルス文書から描きます。田中論文はギリシア文化、ラテン文化、キリスト教の3つの観点から、ローマ帝国期のそれぞれの文化交流について論じます。南雲論文は、表題に「世界観」とありますが、哲学的な観点ではなく、世界図などを史料として地理的な認識について論じており、興味深く読みました。大谷論文は「迫害された」キリスト教徒というステレオタイプを批判し、「キリスト教徒が、ローマ帝国において『内なる他者』として生きた状況を」描写する、こちらも興味深い論考。最後の井上論文は「3世紀の危機」と言われる時代について、シルクロード交易の観点から、「危機」の因果関係まで踏み込んだ考察を行っています。
 以上、簡単なメモになりましたが、コラムも含めて勉強になる一冊でした。

(2022.04.14 読了 )

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Last updated  2022.04.23 14:45:24
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Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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