存生記

存生記

2010年01月10日
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「アウシュビッツ行最終列車」をDVDで見る。タイトル通りアウシュビッツ行きの列車に乗せられたユダヤ人たちのドラマ。回想シーン以外は息苦しい密室劇が続く。人でいっぱいの車両には、バケツ一杯の水、便器用のバケツがあるだけだ。水をどう分けるか、入手するか。しまいには母親は自分の尿を飲んで赤ん坊に授乳する。座して死を待つより脱走を企てる者がいる。見つかれば全員殺されるので反対する者がいる。多数決を提案するものがいて、そんな時間はないと反対する者がいる。生存と自由をめぐる集団の混迷状態は、今の日本にも通じるものがある。子供に希望が託されるラストも既視感がある。

 やはり暗い戦争映画はドイツに限ると思うほど、気が狂う者、自殺する者と阿鼻叫喚の地獄絵図である。良心のあるドイツ人もいれば、息子が戦死して虚無的になっている機関士もいて、単純な善悪二元論に落とし込まない終戦間際の雰囲気が出ている。

 日本の「満員電車」ほど満員ではないのが意外だった。ろくに座れないほど立ったままの状態で移動させられたという西部戦線を列車で移動したアメリカ兵の話を聞いたことがあるが、この映画の護送列車はそれほど混んでいない。実際には車両ごとに混雑状況は違ったのだろう。

 床を必死に削って叩く身振りにすべてが集約されている。目的地に着くまでに穴を開けなければならない。現代のモダンな列車に閉じこめられたら、手持ちの道具ではとても床に穴など開けられそうにない。現代でも「働けば自由になれるArbeit Macht Frei」のかどうかという問いかけは続いている。





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最終更新日  2010年01月10日 17時46分43秒


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