寂症状

灰色の空-5-




「すごい偶然だね。」彩は呟くように言うと、僕は頷いた。

「世界がこんなに狭いもんだとは知らなかったよ」まあでも、考えられなくも無かった。たぶん彩はあの公園の近くに住んでいて、よく行くんだろう。そして僕が、偶然にも、今日その公園に行った。それだけのことだったんだけれど、清美が亡くなってから以来の、初めて話す人が彩だったことは、確かに偶然だった。

「おねーさんは?」

「え?」

「妹の話によると、雅史さんは綺麗なお姉さんといたらしいから。」彩は僕の方を見ずに、言った。

僕は彩の方を一瞬見ると、目の前にある地面へと、視線を変えた。「彼女は、もう。。。いない。」

「え?」あやは耳を疑うように目を丸くし、僕の方を見た。

この、今日会った人に話すべきなのだろうか。この人に僕の苦痛を分かってもらえるだろうか。いや、分かられてたまるもんか。ただ、少しでもこの苦痛を話すことによってなくせるのだったら、いくらでも話せるという覚悟に気付いた。そして、僕は始めてあの日のことを語るために、口を開いた。





あれはひどく曇った夜だった。僕と清美は、ちょうど三周年ということで、外食をした帰りだった。風が強く吹いていて、誰もが不機嫌になるような天気の中で、清美は楽しそうに歩いていた。

「見て、私どこかへ飛んで行っちゃいそう!」腕を大きく広げて、無邪気な笑顔で僕に言った。「気持ち良いー!」

僕はただそれを24の大人にそう簡単には出来ることじゃあないだろう、と思いながら、笑顔で見つめていた。

その時だった。暴風のせいか、どこかから大きい看板が僕を目掛けて飛んできた。「うわっ。。」風があまりに強く、その看板はあまりにも早く飛んできたので、よけることが出来なく、当たる寸前に目を強く閉じた。。


「雅史!」


一瞬、全ての動き鈍くなった。よく映画である、『スローモーション』とかいうやつだろうか。そしてその酷く長い間に、起こったのだ。

清美は僕の方へと走り、僕を強く突き飛ばした。

そして時間はまたいつもと同じ速さになると、清美は頭から大量の血を流し、僕の前で倒れていた。

「。。。」まだ状況がのみきれず、ただ清美を見つめる。「清美?」

僕はしゃがみこみ、清美の肩をやさしく叩く。そして、反応が無いと、僕は少し焦る。「き。。。清美?」

そして一気に現実が僕の脳内へと吹き込んでいった。そして僕は後ろへと落ちると、尻餅をついた。清美が。。。「。。。清美が死んだ。」

口にしてみるとそれはとても重い言葉で。その言葉と共に涙がこぼれた。最後に泣いたのはあの子犬の映画を観た時だろうか、と、そんなくだらないことを考えていた。今思うと僕は相当混乱していたのだろう。そしてまだ実感が湧かない中,ゆっくりと救急車を呼んだ。



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こんな事だったのです。まだまだ逝くよ~!(by。竜太郎)


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