ね、君が行きたいところへ行こうよ

ね、君が行きたいところへ行こうよ

第五話 大事なもの





特に約束をした訳ではなく、
そう、いつもここで会うことにしようとか、
毎日話しをしようとか、
必ずここで待ってるとか、
そんな事は一言も口にしてはいません。




でも、なんとなく気付くといつもここに来て、
毎日飽きることもなく色々な話しをして、
そんな毎日がとても幸せで愛しい日々として積み重ねられていた・・・
それだけのことでした。




「コトリさん、どうしたんだろう・・・。」

クマは心配になりました。
何かあったに違いない。
きっと、コトリさんにとって悲しいこと。

クマは祈るような気持ちで空を見上げました。







「クマさん・・・」
ようやくコトリが来るまで、クマはどれだけの流れ星を見たことでしょう。
その全てに、コトリのことをお願いしていました。




「コトリさん・・・」
なんとなく言葉が続かなくて、クマはコトリを見つめました。







「ごめんなさい・・・。
心配かけて・・・。

私ね・・・。」





泣きそうなコトリを、クマは思わずその大きな手で包みこみました。
傷付けないように、そっとそっと・・・

この小さなコトリを
頬を撫でる冷たい夜風からさえ、守ってあげたかったから。


コトリの鼓動が、手の平から伝わりました。
小刻みに震えるコトリを、クマは大事そうに抱えました。







クマは、ふと思い出していました。

「大事なものを大事にするには、本当に繊細な優しさが大切なんだよ。」






大事に思うあまり、力が入りすぎてしまうことがある。
昔、やっと見つけた小さなホオズキの実・・・。
嬉しくて、ぎゅっと抱きしめて壊してしまった。



赤い実は砕けてしまった・・・。
赤い実は壊れてしまった・・・。

泣きながら手の平を見つめるクマに、そばにいた誰かが教えてくれたこと。






大事になればなるほど、静かに耳をすまさなければいけない。
何かに怯えているのか、
何かを悲しんでいるのか、

そっと、鼓動を聞くこと。


自分を知り、力の加減をすること。
壊してしまわないように、そっとそっと抱きしめること。






いつしかコトリは、クマの手の平の中、
静かな寝息を立て始めました。


安心したように、クマに身を任せ眠っていました。





コトリの涙の粒を、手の平に感じながら
クマは月明かりの下、いつまでもそうしていました。


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