ニコラウス・アーノンクールによる祝辞 私は、モーツァルトの交響曲が真の祝辞であると考えておりますので、その前にご臨席の皆様に対しご挨拶を申し上げたいと思います。 私たちがこれから演奏する交響曲は、最後の三つの交響曲のうち、真ん中にあたるものとして作曲されました。これらの交響曲は、間違いなく一組のものです。そして、どうも人間をある目的地へと導く道のようなものを示しているようです。 愛と同時に「荘厳さ」を示す調性である変ホ長調の交響曲から始まり、モーツァルトは全てに疑問を投げかけるト短調交響曲で奈落の底に私たちを導き、その後輝かしいハ長調のジュピター交響曲で全てを至福のうちに解決し、少し前には精神的に動揺していた聴衆を調和へと解き放つのです。40曲以上あるモーツァルトの交響曲のうち短調のものは二曲しかなく、その両方ともがト短調です。ト短調は当時、死の調性、あるいは悲しみの調性と呼ばれ、実際にそう感じられていました。 まもなくみなさんが耳にする最初の主題からしてじかに主音符で始まる音が一つもなく、どの音にもアッポジャトゥーラという上または下からの前打音がついています。それによって、見かけは非常に単純で当たり前のものが捕らえづらくぼやけたものになり、波立つ水を通しているかのように聴こえます。第2楽章はジュピター交響曲のフーガを少し紛れ込ませた主題で始まりますが、調性は変ホ長調で、第1楽章の悪夢が拭い去られ、言うなれば「より良い世界への希望」がやってくるよう祈るかのようです。 < back created 28.01.2006