☆f4♪LOVE アンクミの徒然日記

☆f4♪LOVE アンクミの徒然日記

母の愛  前編






時に言葉は無力だが 言葉が大きな力を持つ事もある

彼から伝わる溢れるほどの愛情
言葉の一つ一つが
その手の温もりが
キラを闇の世界から救い出してゆく 闇を照らす光 それが零

キラを苦しめていたあの悪夢も今は 零の優しい言葉でそれほど見ずに済んでいる ただ継父がキラの心から消えたわけではない

継父が現れても 何処からとも無く零の優しい言葉が聞こえてきて 夢は終わる


キラの心の琴線に触れた零
いく千の時が流れようとも キラと零の心を結ぶ糸は切れることは無い


再び結ばれた二人の心 
その姿を毎日のようにキラの家の近くの公園で目にする 母

その幸せそうな我が子の姿 
幸せになって欲しい ただそれだけが母の願いだった

自分の犯したただ一つの過ち
あの男と再婚さえしなければ
キラが光を失う事も無かったのに
貧しさゆえ選んだ安易な行い

彼と知り合った頃のように明るくなった我が子を見て母は
「キラ・・お母さんを許してね 私が再婚さえしなければ
お前がこんな辛い思いをしなくても済んだのに 本当にごめんなさい」
声を詰まれせながら 母がそう言う
「お母さん 何を言うの 私一度だって辛いなんて思った事ないわよ いつも私の事だけ考えてくれた だから私本当に幸せよ」

母も同じように苦しんでいた事を知ったキラ
幼い私を抱え 生きる事に必死だった母
そんな母を責める事が誰に出来よう

その日キラと母は遅くまで話していた

父の死 そして私を抱え 生きていく事の辛さ
母は私に もう一度父親をと そう考えての再婚だったのに

何度も泣きながら私に謝る母
私以上に苦しんでいた 母

心の重荷をけっして見せなかった母
その深い愛情をキラは知った

キラの中にあった暗闇 そして又母の中にもそれは存在していた
しかしその闇にも 一すじの光が射している


キラの未来には 母の深い愛情と零の愛が溢れている
いつものように 公園で過ごす二人
母との事を零に話しながら キラは思っていた
光を失った時 自分の中で何かが失われたと思ったが
何も失ってはいなかった むしろ多くを手にしたと

「キラ お母さんを大切にしなくちゃな 俺もお前の側から離れたりしないから」

零は母の事を考えていた 俺の母さんどうだったんだろうと
俺を愛していてくれたんだろうか?
その答えが欲しかった

キラと別れた後零の足は自宅に向かっていた
母と過ごした家 
父の事を遠ざけ 訪れる事を拒否続けたが
キラとお母さんの話を聞いて 何故か母に会いたくなった
あの部屋にはまだ母がいるようで


父が母の部屋をそのままにしている気持ちも少しは解るような気がする

ゆっくりとドアを開け 中に入る
そこはあの日と何一つ変わっていない
母が愛したピアノ 沢山の楽譜 その中に混じって 童話の本もある 良く読んでくれた 
星が輝く時も 雨が窓を叩く日も

ピアノを弾きながら時折見せた悲しげな表情
その意味も 今は知った

棚に並んだ楽譜や本に手を這わせながら 母の心が解ればいいのにと
その時 手に触れた一冊の本が回りの本と違う事に気付いた
装てんはしっかりしているが 何度も何度も触れたため 所々皮が擦り切れている
背表紙には「エリーゼのために」と書かれている 著者の名も無い

よく母が弾いていた曲 でもこんな本を見るのは初めてだ
手に取り中を開くと それは 日記だった 見覚えのある母の字
静まり返った部屋に 自分の心臓の鼓動だけが聞こえる
日記・・ 父は何も言っていなかった
有る事を知っていれば 俺に話していただろう
見ただけでは それと解らないようにしてある事から この日記は 母の秘密だったのだろう

一度は開いた日記を零は慌てて閉じた 
母の心を知る事が怖かった 自分に対する母の気持ちを知る事が
日記を読む事をためらわせている

この中に書かれている事は 母の本当の気持ち
それを知る事が零は怖かった 
握り締めた本をじっと見つめる零

何時しか外は夕闇に包まれていた 暗い部屋に一人佇み
じっと見つめ続ける手の中の日記

どんな事実も受け入れていこう 心が望むままに


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