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「第八章 遠眼鏡亭にて」のジョン・シルヴァーとジム少年の会話で、シルヴァーが雇い主トリローニさんのことを「トリローニ船長」と云っています。
「ピューだ!たしかにそういう名前だった。ああ、見るからに因業な野郎だったな、あいつは!その黒犬というのをとっ捕まえたら、 トリローニ船長 にはいい知らせになる!ベンは足が速いんだ。あんな足の速い船乗りはまずいねえ。あいつなら追いつくさ。とっ捕まえる、絶対にな!船底まわしの話だと?おれが船底まわしをさしてやらあ!」と。
郷士(または大地主)トリローニさんは宝探しに出発するための船と船員を設えた中心人物だが船長ではないので、この「トリローニ船長」というのは変ではないか。
そう思って佐々木直次郎さん・稲沢秀夫さん訳の旧版の同箇所を見返すと、なんと同じくトリローニ船長と訳されていました。
「そうだった!」とシルヴァーはいまではすっかり興奮して叫んだ。「うん、ピューだ! 確かにそういう名前だった。ああ、あいつはぺてん師らしかったな、まったく! とにかく、もしあの黒犬をつかめえれば、トリローニ船長に、ええお知らせができるわけだぞ! ベンはなかなか脚の速い男だ。水夫仲間じゃベンくれえ早く走る男はあんまりいねえからな。あの男ならどんどんやつに追いつくよ、きっと! やつは船底くぐりの話をしてたんだと? このおれがやつに船底くぐりをやらせてやるぞ!」
原文でもキャプテン・トリローニとなっているので翻訳ミスではないようです。
"It was!" cried Silver, now quite excited. "Pew! That were his name for certain. Ah, he looked a shark, he did! If we run down this Black Dog, now, there'll be news for Cap'n Trelawney ! Ben's a good runner; few seamen run better than Ben. He should run him down, hand over hand, by the powers! He talked o' keel-hauling, did he? I'll keel-haul him!"
同じ箇所を偕成社文庫の金原瑞穂さんは「トリローニ隊長」と。
岩波少年文庫の海保眞夫さんは「船主のトリローニさん」と訳しています。 原文があきらかにおかしいということで、そのまま訳さずに修正がなされたのでしょう。
この新潮文庫新訳版では、なぜ修正がなされなかったのか?
「船底くぐり」という用語が出てきて、鈴木恵さんの新訳版では「船底まわし」となっています。
この「船底くぐり」とは刑罰の一種ですが、具体的にはどのようなものだろう?
罪人の胴体にロープをくくり付けて舷側から反対側の舷側へと潜らせるのか?
ロープで縛った罪人を海に投げ落として、そのロープを反対側の舷側から引っ張りあげるというものか?
息が続かずに溺死するか、船底にはフジツボがびっしりと付着しているのでこすられると無惨なことになるだろう。縛り首の刑につぐ重刑かもしれない。
原文keel-haulingの意味は、竜骨と、引っ張る、たぐる、ですね。
hauling under the keelともいうらしいので、ロープを着けて罪人を自分で潜らせるのではなく、ロープを船底を潜らせての向こう側から引っ張るのかもしれない。
ほかに「置き去り刑」(無人島に置き去りにする)という用語も出てきますが、いかにも「海賊」や「海洋冒険小説」らしさのある用語です。
先にも書きましたが、「宝島」を読むなら偕成社文庫、あるいは岩波少年文庫、福音館文庫がいいのでしょう。児童向けとあなどってはなりません。判型も大きく(文庫となってるけど文庫判ではない)蔵書に最適です。
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