あたしの気まぐれな毎日

【告白、そして永遠の別れ】

夜中に突然かかってきた電話。Ｋから。
Ｋはあたしの心のお守りだった。何か辛いことがあっても
『Ｋがいるから大丈夫。相談に行こう。』って。
実際、Ｋはすごい力を持っている人だった。他の人に対しては知らない。
でもあたしにとってはスゴイ奴だったのだ。
なんせ、苦しい時にいきなり電話すると、声聞いただけであたしが何を必要としているか
すぐにわかっていくれて、求めているものを与えてくれたのだ。
落ち込んでたり元気のない時、悩んでる時、人はその時によって求めるものが違うと思うんだ。
励ましや叱咤だったり、笑わせて欲しかったり、ただしゃべりたいだけしゃべりたかったり、
無言で泣きたかったり。
あたしは気まぐれでわがままだったから、いつもその時によって求めるものが違っていた。
だけど奴はいつも、声聞くだけで、顔見るだけで、わかっちゃう。

そしてその時々で適切な対応してくれた。それは、その時付き合っている彼氏にすら
理解してもらえなかったのに。
あたしはＫの女版、Ｋはあたしの男版って、お互いに認め合ってるくらい似てたから、
きっとお互いの気持ち、手に取るように判ったんだと思う。

そんなＫからの電話は思いもかけないものだった。『俺のことどう思ってんの？』
って言う問いに『特別な人だよ、Ｋは。お兄ちゃんみたいに思ってる。』って
答えたあたしにＫは言った。
『俺はずっと前からお前のことが好きだ。彼氏と別れて俺とやり直さないか。
俺のほうがお前のこと理解してやれる。』

今までにないくらい、めちゃくちゃに酔っていた。

本当のことを言うと、あたしもＫのこと大好きだった。
奴の親友だった前彼が家庭の事情で引っ越して別れた後、寂しがってるあたしを
ずーっと見守ってくれて、前と変わらず可愛がってくれた。
いつの間にか好きになっていた。だけど、前彼の親友と付き合うって、
とっても罪悪感があったし、Ｋには中学時代から付き合ったり別れたりを繰り返してる
腐れ縁みたいな彼女がいたから。
あきらめて当時しつこく言い寄ってきた男と付き合い始めたんだった。

あたし達は『好き』に時差があったんだ。あたしもホントはＫとやり直したいって思った。
だけど当時付き合っていた彼氏に申し訳ないしもう情も沸いていた。
それにＫは刺青を背負った人だった。あたしに対する優しさはまったく変わることは
なかったけれど、サラリーマンの家に生まれ育った大学生のあたしと、
刺青のある男が結ばれることが想像できなかった。親の反対は目に見えていたし。

結局あたし達は『この電話はなかったことにしよう。元通り友達で。』って電話を切った。
だけど一度でも口にした言葉、耳にした言葉は『なかったこと』にはできなかった。
それ以来すっかりぎこちなくなって、疎遠になっていった。
会いたい時もあった。相談したいこともあった。
でもＫの好意を利用して甘えるのはいけないことのような気がしたから
自分から前みたいに気軽に電話したり会いに行ったりできなくなった。
そして、それが永遠の別れになった。

その後１年もたった頃だった。ある日、いつもどおりバイト帰りに駅から歩いていると、
先輩に会った。『かおりんちゃん、葬式行った？事故で、死んだんだよ、アイツ。』

ナニイッテンノ？ウソデショ？

意味がわからなかった。支えられるように事故現場に行くと小さな祭壇ができていて
花や缶ジュースでいっぱい供えられていた。

イッタイナニガオコッタノ？

旅行で留守にしていたし、共通の友達が少なかったあたしには連絡は来なかったのかもしれない。
Ｋは自分の友達（つまり昔の先輩たち）にあたしが会うことを望んでいなかったから。
『お前は大学生で、まっとうに生きていけるんだから、いつまでも族上がりと
付き合っちゃいけない。』って。
ある意味、その手の先輩たちから守ってくれてたのもヤツだったんだ。
あたしがまっとうな人生を歩めるように。

頼る人、誰も思いつかなかった。だって、いつも辛い時に頼りにしていたのは
Ｋだったから。そのＫがいなくなって、あたしはどうすればいいんだろう。
あ、そうか、彼氏がいた。やっとのことで彼に電話すると、
『ごめん。俺も脳みそぐちゃぐちゃになってる事故見ちゃって。
しかもそれ、友達だったんだ。お前の事かまってやるゆとりない。』

ソッカ。キミニハタヨレナイノカ。

立ち直れないあたしは大学にもいけなくなった。それは大学4年の10月で、
卒業のかかった大事な時期だった。彼氏とも疎遠になった。
年が明けてやっと思い切って学校にいった。なんせ卒業試験だったからね。
行かないと卒業できない。だけど、卒業してもあたしの未来はお先真っ暗だったよ。
自分の知らない男の死のショックから立ち直れない彼女を受け入れられる男なんて、
あんまりいないよね。
そんな男に幸せにしてもらうこと想定して就職活動もしてないし。
だいたいこの状況で社会復帰できるのか？ってくらい凹んでいた。
だけど思ったより彼は逞しい奴だった。『俺が結婚して幸せにしてやる。
もうちょっと待っててくれ。仕事である程度自信がついたら、親に挨拶に行くから。』
って言ってくれたんだ。ありがたかった。この人と一緒に生きたいと思った。その時は・・・・

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