あたしの気まぐれな毎日

あたしの気まぐれな毎日

【更なる別れ】


彼はそれから狂ったように働き出した。
外資の保険会社に勤めていた彼は、出世して社会的に認められたら
あたしの両親に挨拶に来るって言って頑張っていた。
実はあたし達はちょっとした行き違いから親に付き合いを反対されていた。

そのうちあたしは心が冷え切っちゃった。
彼を好きという気持ちよりも、失ったKを思う気持ちが強くなった。
やっぱり死んだ人って、二度と会えないからこそ会いたいし、
いいところばっかりデフォルメされていく。
で、あたしにとってはKを思う気持ちが強くなって、
生きてるのに側にいてくれない人よりも大事に思えてきた。
で、別れ話を切り出したんだ。でも、彼は同意しなかった。
もう少し待ってくれ、もう少し、って言われて・・・
会って優しくされると揺らぐんだ、決意が。

でも、精神的な疲れから対人恐怖症気味になっていったあたしは、
いよいよ決意したんだ。
だって、その頃には彼と一緒にいても悲しい気持ちでいっぱいに
なってたから。
一緒にいられないから寂しいって言うのは当たり前だけど、
一緒にいるのに寂しいって、ホントに絶望的に寂しいんだ。

もう、彼はあたしの心を温めてくれる人じゃなくなっていた。
もしあのとき、彼がもっと時間を作って側にいてくれたら?
たぶん結果は早かれ遅かれ同じことだったと思う。
結婚することなく別れてよかったんだ。

それであたしの決心はNYへの一人旅。
にぎやかなサンクスギビング、クリスマス、年末年始のNYは
自分を見つめなおすにはぴったりだった。
身を切られるような冷たい空気で、疲れきっていたあたしの
心の澱は洗い流されていった。禊っていう感じ。
寒行みたいな感じ。(ほら、真冬に滝に打たれるやつ!)

一人になった寂しさはあまり感じることはなく、むしろやっと
一人になって、Kの死に向かい合えた気がした。
本当に愛していたんだって。
死んでしまった人を美化して思い続けるという一般的な人間の
感情は抜きにしても、彼のことを愛していることには変わりない。
と思う。そして、いつまでも心の支えであることには変わりがない。
残された者として、時々思い出して心の中で温めなおすこと、
故人を愛しく思うことは当たり前のことだし。
彼のことは、今でも心の引き出しにしまって、いつでも取り出せるように
鍵はかけていない。
そう、大けがしたあと、何年経っても消えることなく、
一生体に刻まれた、傷跡のように。
それは薄く、白く、たとえもう傷が癒えても、
時々天気の悪い日にしくしく痛んだりするような。



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