January 25, 2008
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◆前回までの小説のあらすじ◆は、今回の記事の下のコメント欄をご覧くださいえんぴつ

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 紗英と同居を始めて、一週間が過ぎた。
くるみとは先週の金曜日、紗英のことを従妹だと説明して以来、お互い忙しくて会っていない。あれから紗英と僕が一緒に暮らし始めたなんて、まさか夢にも思っていないだろう。僕だって、まさかこんなことになるとは全くの予想外だ。
 僕はこの同居を、くるみに隠しておく自信がなかった。下手に隠していたら、後で知ってしまった時に何と言い訳しようと取り返しのつかないことに成り兼ねない。僕はその方が怖かった。だから変に誤解されてしまう前に、くるみには話しておこうと思っていた。
 だが、どう言えばいい?

 リビングのソファでぼんやりとテレビの画面を眺めている僕の横に、夕飯の後片付けを終えた紗英が雑誌を持ってやってきた。
「明日は、くるみと出かけるから」

 紗英は僕の方を見もせずに、雑誌のページをめくった。
「一応さ、くるみには話しておこうと思うんだ。僕たちのこと」
「そうね、後から知って、変に誤解されても困るものね」
 この同居のせいで僕は頭を悩ませているというのに、紗英の態度はあまりに素っ気なく淡々としていた。何だよ、それだけか?
 この時、僕が「くるみに話す」と言ったことに対して紗英がどういう態度に出るのか、紗英の本音みたいな部分を探っていたのかもしれない。
 テレビでは今人気のお笑い芸人がコントをやっていた。紗英は雑誌から顔を上げて、それを観ながら笑っていた。
「大体どうして僕と同居するなんて言い出したんだ?」
「え?」
 僕の唐突な質問に、紗英は一瞬戸惑った。
「そりゃあ、僕にはお母さんの形見のペンダント壊しちゃった責任があったけど。でも離婚して、お母さんが亡くなられて、一人じゃ寂しいからって、普通男と同居するか?親戚とか友達の所とか、他にも行くとこあっただろう?」
「ここじゃなきゃダメなのよ」

「だってね、ここって見晴らしいいし、日当たりもいいじゃない?」
「それだけ?」
「うーん、あとはね、コンビニも近所にあるし、交通の便も割といいしね」
 呆気にとられた僕を軽く笑いながら、紗英は続けた。
「本当はね、一人でいるのは辛いけど、だからと言って幸せそうな家族の中にいるのはもっと嫌だったの。私だって離婚したくてしたわけじゃないし、仲の良い夫婦とか、子供とか見るのは余計に寂しくなっちゃいそうでしょ。独身の女友達もいないわけじゃないけど、そういう子は実家で家族と一緒に暮らしているしね。友達のお母さんとか見ちゃったら、今はまだちょっと辛いかなと思って」

「吾朗ちゃんが一人で暮らしてるっ知って、吾朗ちゃんならいいかなって。元カレとの同居ってとこは確かにちょっとひっかかったけど、逆に気心知れてるから楽かなって思えたし。それと吾朗ちゃんには恋人がいたから。吾朗ちゃんは恋人がいるのに、他の女に手を出すような人じゃないから、安心かなーって」
 最後の言葉はそれだけ僕を信用してくれているのか、それとも釘を刺さされたのか?
 いずれにしても紗英にとって僕はただの同居人らしい。同居して部屋を貸すこと以外、何も求められていないのであれば、変に身構える必要はなさそうだ。僕は不思議と肩の荷が下りたような気がした。
 だがそんなに簡単に、あっさりと割り切れてしまえるものなんだろうか?
「ねぇ、喉乾いちゃった。何か飲む?」
「冷蔵庫に缶チューハイがあっただろ?それのライチ、持ってきて」
「オッケー」
 とにかく、明日くるみには話しておこう。くるみならきっと分かってくれるはず。
 紗英が誰かと同居したがっていたということと、その理由。そして僕が紗英のお母さんの形見の品を誤って壊してしまったこと。そのお詫びも兼ねての同居であって、それ以外の理由は何もないこと。期間限定、二ヶ月間だけの同居だということも言っておいた方がいいな。
 ただ今思えば、咄嗟のこととは言え、紗英を従妹だと紹介したことは失敗だった。僕とくるみが結婚したら、即ばれるじゃないか。そうかと言って、他に都合のいい続柄も思いつかない。
 とりあえずは仕方ない。明日は従妹だと強調しないように、かといって従妹であることを否定もしないようにして、誤魔化すしかないか。
「はい、ライチどうぞ」
「ありがと」
 缶チューハイの炭酸が、プシュっと弾けて心地よく喉に沁みた。(つづく)


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Last updated  January 26, 2008 08:31:02 AM
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