January 17, 2009
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◆小説のかなり大雑把なあらすじ・登場人物◆ は、記事の下のコメント欄を。
  最初から、または途中の回から続きを読まれる方は、 ◆ 一覧 ◆ からどうぞ。
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 泣き出したくーちゃんの背中に手を当てて、私はただただ謝っていた。
 謝れば謝るほど、くーちゃんは泣き崩れていくように見えたけれど、他に私にできることは何もなかった。
「ねえ、吾朗ちゃんともう一度やり直してみたら?」
 くーちゃんが落ち着いたのを見計らって、そう声をかけた。
「今ならまだやり直せると思うし、吾朗ちゃんだってまだくーちゃんのことを…」
 二人とも私のことで色々動揺してただろうけど、落ち着きさえすれば元の鞘に、そう思っていたのに。
「今、やり直すつもりはないの」
 俯いていた顔を上げ、くーちゃんは少し眩しそうに窓の外に目をやった。
「変な話、私ね吾朗君と別れてから、気持ちが軽くなった気がするの。初めは紗英さんや吾朗君を恨んでいて、全部二人のせいだって思って、悔しくて苦しくてたまらなかった。でもね」
 寂しさを帯びた瞳。でもその横顔は、冬のやわらかい陽の光の中で晴れ晴れとして見えた。
「完全に吹っ切れたわけではないけれど、何て言うか、別れたんだから変な心配とか不安とか、そういうものはもういらないんだって、ある意味安心したというか…。気が付いたら気持ちが楽になってたの。こんなこと思ってもみなかったから、自分でもびっくりしたわ。きっと別れる前が、あまりに一杯一杯になり過ぎていたからだと思う」
「ごめんね、そこまで追い詰めちゃって」
「ううん」
 くーちゃんは静かに首を横にふった。
 窓の外に見える花壇には、葉牡丹が規則正しく植えられている。その真紅にも近い深いピンク色が、殺風景な景色にほんの少し彩りを添えていた。
「私を追いつめたのは、私自身だったと思う。前に友達にも忠告されたことがあったんだけど、今になって分かった気がするの。紗英さんが病気だからとか、吾朗君の妹だからとかってことで、気を使って言ってるわけじゃないの。気持ちが楽になったら、自然とそんなふうに思えたの」
 周囲に存在を誇示するような華やかさは葉牡丹にはなかった。どちらかと言えば地味に見える。でも冷たい土の上にしっかりとその身を置き、寒さの中でも懸命に太陽の光を集めようとする姿には、頼もしいものがあった。
 今のくーちゃんに似ている。そんな気がした。
「でも私が現れなければ、こんなことには…」
「もう、しつこいなぁ」
 私の言葉を、くーちゃんは笑顔で遮った。
「紗英さんが現れなければ、こんなことにはならなかったかもしれない。せめて話してくれてたらって思う。確かに本当のこと知っていたら、あなたや吾朗君の顔を見るたびに私は泣いてたかもしれない。でも何もかも隠したままなんて…。紗英さん、何だかフェアじゃないよ」
「ごめん…」
 くすくすと笑うくーちゃんの言葉には、余裕のようなものが感じられた。
 ひょっとして、いつの間にか、私の方がたじろいでいる?
「あなたが吾朗君の妹だっていう話を聞いて、私もショックだった。でもそれ以上に吾朗君のことが心配で。吾朗君、酷い状態だったから。私たちの関係がどうのなんて、言ってる場合じゃなかったの。ひょっとするとね、そのおかげで私と吾朗君の関係が妙に落ち着いたのかもしれない。今はお互いの距離を保つことができて、いい感じなの。恋人でもなく、他人でもなく、でも大切な存在」
 スッキリした顔でくーちゃんはそう言った。
「本音を言えばこのまま元に戻ってしまったら、また同じこと繰り返しそうで怖いの。だからまた付き合うのでも完全に離れてしまうのでもなく、居心地がいいこの距離をしばらくは保っていたい。いつかもっと自分に自信を持って、吾朗君と向き合えるようになれたらいいなと思う。それまで待っていてとは言えないし、その時に友達としてなのか恋人としてなのか、どうしたいのかは今は分からない。もちろんお互いに、他の誰かを好きになっているかもしれない。それでももう人のせいにして誰かを責めたりしないつもりだし、後悔もしないわ」
 その言葉には強い決心が込められていた。
「それにね、これからの関係がどう変化したとしても、あなたのお兄ちゃんのことを見捨てたりはしないから、紗英さんも安心していてね」
 私は花壇のプレートに書かれていた説明を思い出した。そこに書かれていた葉牡丹の花言葉は「慈愛」「物事に動じない」「祝福」そして「つつむ愛」。
 もう大丈夫。くーちゃんは前に向かって歩き始めたんだね。そう思った時だった。
「いつまでも待っているって言ったら、かえって負担になりそうだから、僕も待たないことにするよ」
 声に驚いて振り向くと、いつの間にかそこに吾朗ちゃんが立っていた。
「吾朗君…」
 驚いているくーちゃんに、吾朗ちゃんは笑いかけた。
「これから先、僕たちの関係はきっと色々と変わっていくと思う。だから僕はただ待つことはしない。でもその時々の僕たちの関係は大切にしていきたい。例えくるみの気持ちが誰に向けられようとも、それも受け入れて、いつでもくるみの力になれるような僕でいられたらって。理想論かもしれないけれど、そうありたいと思うんだ」
「うん…」
 大きく頷いたくーちゃんの頬に、光の粒が転がり落ちた。
 あーあ、吾朗ちゃん、またくーちゃん泣かせちゃった。ホントくーちゃんは、泣き虫なんだから。
 こっちまで泣き虫がうつりそうになって、私はくーちゃんから視線をそらした。
 言った吾朗ちゃんは、かなり照れくさそうにしている。
 今は黙って行かせてあげるんだね。例えくーちゃんが向った先にいる人が、吾朗ちゃんとは限らなくても。
 吾朗ちゃんにしては、まあまあの出来? 「よくできました」ってところかな。
 窓辺にほんのりと広がる温もりに包まれて、私たちは優しい冬の中にいた。このまま、今が永遠に続けばいいのに。ずっと、ずっと、永遠に。(つづく)


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読んでくださり、ありがとうございました!


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今回のくるみと吾朗の想い、なかなか思うように表現できなくて…
表現したかったのは、男女の恋愛ではなく、
お互いを思いやる愛 だったのですが。(^^;)

男女間ではこうした関係って、実際には難しいのかもしれません。


でもかつてお互いを一番大切に思っていた恋人どうしだからこそ、
遠く離れてもお互いに、相手の成長や幸せでいることを願い合える
そんな存在でいられたらな、なんて思うんです。
甘ちゃんなんでしょうかね~、私。(^_^;)

さて、今回登場した“葉牡丹”というのはこれ

花言葉は“愛を包む”

花言葉は本文に書いたものの他に「思慮深い」「愛を包む」「利益」など。
…って、「利益」? 何でまたこんな現実的な言葉が…(●▼●;)

葉牡丹は結球はしませんが、キャベツの仲間。
中国三国時代、諸葛孔明が戦場で兵士の食料用に栽培したことから、
「利益」 という花言葉が生まれたそうです。

原産はヨーロッパ。日本では江戸時代から栽培されてきました。

葉の形状から、次の3つのタイプがあるそうです。
 名古屋系…葉の先が大きく縮れる
 東京系…葉が縮れず平滑になる
 大阪系…名古屋と東京の中間

ご存じの方も多いと思いますが、色付く部分は葉っぱで、
「本当の花」は、春に咲く黄色い花。

以上、知って得するわけでも何でもない、ぽあんかれの葉牡丹情報でした。
ちなみに私が葉牡丹に詳しいのではなく、全部ネット情報です。

こんなふうに陰に隠れて(?)結構下調べなんかもしちゃってたりします。
あんまり本文には役立っていませんけどね~。笑

それではまた、順調に更新できれば続きは次の週末に♪(*^^)v


今日もありがとうございました ブログ管理人・ぽあんかれ


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Last updated  January 19, 2009 02:23:42 AM
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