プレリュード

プレリュード

2007年09月12日
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カテゴリ: クラシック音楽
作曲家と言っても人間。 恋もすれば借金もします。 いや、芸術家であれば尚更普通の人よりも繊細な精神をお持ちなのかも知れません。 それ故に恋に心を焦がし、その燃えさかる恋の炎が名曲を生み出したのかも知れません。

ドイツの詩人ハイネは「恋に狂うって! 何を言ってるんだね。 恋そのものが狂気なんだよ」という有名な言葉を残しています。

今日からしばらくの間、恋に身を、心を焦がした有名作曲家とそこから生まれた名作エピソードをお楽しみ下さい。

さてそのトップ・バッターにイタリアの作曲家ジュゼッペ・ヴェルディを選んでみました。

1851年の暮のこと、ヴェルディはソプラノ歌手ジュゼッピーナと手を取り合ってフランス・パリに逃げました。 その時にはヴェルディの妻マルガリータはすでに亡くなっていました。

その恋の顛末は?

亡くなった妻マルガレータはヴェルディの後援者の娘でした。 そして、歌手ジュゼッピーナは当時イタリアの最高のソプラノ歌手だったそうです。 ヴェルディは彼女にアビガイッレ役を歌わせるためにオペラ「ナブッコ」を書いたとも言われているくらいに、ジュゼッピーナにぞっこん惚れていました。

妻が亡くなり、自由の身となったヴェルディに猛烈な恋心がわきあがりました。 二人の心に恋の炎が棲みつくのにそんなに時間がかからなかったのです。

1849年にもう二人は同棲生活を始めました。 しかも亡き妻との住居のあるプッセードという町で。 前述のようにヴェルディの支援者の娘がヴェルディの妻。 その妻が亡くなったばかりなのに、もうソプラノ歌手と同棲しているのですから、世間の二人への風あたりは相当強いものでした。 



その彼女と狭いイタリアの片田舎で同棲を始めたのです。 当然支援者は娘が亡くなり、失望しているところに、婿殿が風評の悪い歌手と同棲をしていますから、面白くなく、確執が生まれてきます。

いたたまれなくなったヴェルディはジュゼッピーナと1851年の暮にフランス・パリに逃げてしまいます。 そこでヴェルディは作曲、彼女は音楽教師として生計を立てていました。

そのパリ滞在中に二人が観劇したのが演劇「椿姫」でした。 これはデュマ・フィスが書いた小説「椿姫」で大ベストセラーとなっていたそうです。 この小説をフィス自身が五幕の戯曲に改作して演劇としても売り出して、大成功を収めていた芝居でした。

ヴェルディは当時オペラ「イル・トロヴァトーレ」の作曲に勤しんでおり、忙しく時間を割いていました。 そこへ恋人ジュゼッピーナが囁いたのです。 「椿姫」をオペラ化して欲しいと。 しかし、ヴェルディにはとてもそんな時間がありません。 恋人の督促もあり短期間で書きあげたようです。 それでも観劇から1年は経っていました。

「ドミ・モンド」と呼ばれる貴族のパトロンから愛される高級娼婦の物語ですが、夜会で純真な若者と恋に落ちて、パトロンから寄与される一切のものを捨てて、パリ郊外に住居を構えるヴィオレッタとあるフレード。 しかし贅沢になれたヴィオレッタは売り食いで生計を立てています。 アルフレードの収入だけではとても食べていけないのです。

そこへアルフレードの父ジェルモンが、息子が不在時に訪ねてきてヴィオレッタに別れを乞うのです。 妹たちの結婚に傷がつくから別れて欲しいと。 泣く泣くパリに帰るヴィオレッタ。 何も知らないアルフレードはヴィオレッタに復讐を誓い、パリの夜会賭博で買った大金をヴィオレッタに投げつけてしまいます。

絶望のうちにヴィオレッタは肺を患って息を引き取る悲しい結末です。

この薄幸の「ドミ・モンド」の日陰の自分を重ねたのでしょうか、ジュゼッピーナはヴェルディにささやき続け、「イル・トロヴァトーレ」で忙しいヴェルディにこの「椿姫」を書かせてしまいました。

1853年3月6日、この「椿姫」はベネツィアで初演されていますが、ヒロイン役が大柄の歌手でとても薄幸の女性のイメージからかけ離れていたのが原因で大不評だったそうです。

「第1幕への前奏曲」「乾杯の歌」 ヴィオレッタのアリア「ああ、そはかの人か~花から花へ」、ジェルモンのアリア「プロヴァンスの海と陸」、ヴィオレッタとアルフレードの二重唱「パリを離れて」などが、聴きどころの名旋律でしょう。

ヴェルディがジュゼッピーナの惚れなかったなら、二人で戯曲「椿姫」を観なかったならば、この不朽の名作オペラ「椿姫」はこの世に出ることはなかったかも知れません。



めでたし、めでたし。

私の愛聴盤(CD)

 カルロス・クライバー指揮バイエルン国立管弦楽団・合唱団
イレアーナ・コトルバシュ(S)プラシド・ドミンゴ(T)シェリル・ミルンズ(B)

POCG30149 1976-77年録音
(ドイツ・グラモフォン原盤 ユニヴァーサル・ミュージック POCG30149 1976-77年録音)



映像ではこれ!

POBG1017
(グラモフォン原盤 ユニヴァーサル・ミュージック POBG1017 1982年制作)

テレサ・ストラータス(S) プラシド・ドミンゴ(T) コーネル・マックネイル(Br) ジェームズ・レヴァイン指揮 ニューヨーク・メトロロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団

舞台映像でなく、オペラ映画。 ゼッフィッレリの演出が秀逸な作品で、ストラータスの美貌と容姿が美しく、映像なら断然このDVDに限るとまで断言できる素晴らしいオペラ映画です。






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最終更新日  2007年09月12日 23時49分14秒
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Re:ヴェルディの恋から生まれた「椿姫」(09/12)  
たけぽ2001  さん
かの椿姫はこんなエピソードがあったんですね。
忙しい中で書き上げられた作品とは思えません。
そういえばパヴァロッティ氏がなくなりましたね。
(2007年09月13日 00時01分53秒)

Re:ヴェルディの恋から生まれた「椿姫」(09/12)  
いちき(おぺきち) さん
こんばんは
ヴェルディとジュゼッピーナは長いお付き合いだったんですね。私が男性だったら翻弄される恋は嫌ですが、魅力的だったのでしょうね。

クライバーの椿姫は本当に何度聞いても飽きない名盤ですね。
ストラータスの花から花へは迷いのシーンが見事ですし、舞踏会のシーンも豪華で見ているだけで、満足できちゃいますね。 (2007年09月13日 02時13分58秒)

たけぽ2001さん、ありがとうございます  
とも4768  さん
たけぽ2001さん
>かの椿姫はこんなエピソードがあったんですね。
>忙しい中で書き上げられた作品とは思えません。

ほんとにこの恋がなければ生まれなかった名作オペラですね。 人の恋は何を生み出すのかわかりません。

>そういえばパヴァロッティ氏がなくなりましたね。

1970年代にさっそうと現れたパヴァロッティの雄姿が鮮やかに思い出されます。レコードデビューはオペラアリア集で、その中でも「トロヴァトーレ」からのアリア「見よこの恐ろしい火を」のスリリングなハイCの凄い高温の魅力を今でも愛聴しています。

一つの時代が終わったような気がします。


(2007年09月13日 04時19分38秒)

いちき(おぺきち)さん、ありがとうございます  
とも4768  さん
いちき(おぺきち)さん
>こんばんは
>ヴェルディとジュゼッピーナは長いお付き合いだったんですね。私が男性だったら翻弄される恋は嫌ですが、魅力的だったのでしょうね。


男性が最も魅かれるタイプの女性なんでしょうね。破滅型の奔放な女性ほど男は魅かれるといいます。

>クライバーの椿姫は本当に何度聞いても飽きない名盤ですね。

70年代の古い録音になりましたがやはりクライバーの尋常でない演奏とコトルバスの悲しい女の表現がいいですね。

>ストラータスの花から花へは迷いのシーンが見事ですし、舞踏会のシーンも豪華で見ているだけで、満足できちゃいますね。

映像では装置・演出などに魅かれるディスクですね。それにもう一つアンナ・モッフォの映像化されたのもとても好きです。
(2007年09月13日 04時25分23秒)

Re:ヴェルディの恋から生まれた「椿姫」(09/12)  
ピア2753  さん
ともさん
お上手な文章なので今度椿姫を聴く時には一味味付けをして聴く事になりました。楽しみです。

>男は概してこういうタイプの女性に弱いのかも知れません。

これって多くの男性があてはまるのかしら?(笑) (2007年09月13日 21時06分53秒)

復活されたのですね!  
okimi734  さん
遅くなりましたが、ブログ復活おめでとうございます。

トロヴァトーレと椿姫という二つの傑作は同時期に書かれたという話は
聞いたことありますが、こういうエピソードがあったとは!

恋多き天才だったのですねえ。

(2007年09月24日 14時08分42秒)

okimi734さん、ありがとうございます  
とも4768  さん
okimi734さん
>復活されたのですね! 遅くなりましたが、ブログ復活おめでとうございます。


ありがとうございます。 まだ毎日の更新はできていませんが、頑張ります。 よろしくお願い致します。

>トロヴァトーレと椿姫という二つの傑作は同時期に書かれたという話は
>聞いたことありますが、こういうエピソードがあったとは!

>恋多き天才だったのですねえ。
-----

これからも作曲家の恋を採り上げていきますが、やはり芸術家は人並みはずれた神経の持ち主で、「恋多き」があてはまりますね。

(2007年09月24日 23時09分05秒)

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