プレリュード

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2010年10月08日
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「名曲100選」    ブルックナー作曲 交響曲第8番 ハ短調

私の「ブルックナー体験」は古い。 今から50年前くらいでしょうか。 EMIからシューリヒト指揮 ウイーンフィルハーモニーの演奏で交響曲第9番が新録音されてリリースされました。 雑誌「レコード藝術」に新譜レコードとして紹介されており、音楽評論家村田武雄氏が聴感を書いておられブルックナーの音楽について、このシューリヒト指揮について述べておられたのが非常に印象に残って、翌月に貯まった小遣いでLP盤を早速購入しました。

それまで交響曲といえばハイドン、モーツアルト、ベートーベン、ブラームス、シューベルト、ドヴォルザーク、チャイコフスキーなどの有名曲ばかりを聴いている頃でした。

聴いてびっくり。 これほどの大規模な交響曲があるのかと仰天(まだマーラーを聴く前です)。 すっかりブルックナーに魅せられて高校から帰宅するとすぐさまステレオ装置の前で聴き入る毎日でした。

しかし、それも一時のことで長い間この第9番のLPだけ所有して、それだけを時々取り出しては聴いているという年月が長く、1980年代になってやっと「ブルックナー開眼」となりました。 

アントン・ブルックナー(1824-1896)の創作ジャンルはほぼ交響曲に限られていると言っても過言でないほど、現代では彼の作品を演奏する再現芸術家は指揮者とオーケストラにほぼ限られています。 彼は、生涯に11曲のシンフォニーを書いていますが(9番は未完)、世に認められたのは第7番からで「大器晩成型」の典型的な例の作曲家でした。

この第8番は彼の遺した11曲の交響曲の中でも最高の傑作と呼ぶにふさわしい曲だと思います。 最も美しい、またもっとも壮大な伽藍のような、まるでアルプスを仰ぎみるようなスケールを誇る作品です。 楽器編成は大きな規模に拡大されて、ハープが3台要求されていたり、ホルンが8本要する大交響曲です。約85-90分を要する大曲です。 

金管楽器が咆哮し、ティンパニーが鳴り響き、弦楽器が唸るような波動で音楽が進みます。

彼自身「私が書いた曲のなかで最も美しい音楽」と語っており、第3楽章「アダージョ」は特に美しさが際立っています。 とにかく演奏時間が長い作品ですから、初めて聴かれる方はきっと戸惑うと思います。この「アダージョ」楽章だけでも25-27分はかかりますから、モーツアルトやハイドンの交響曲なら1曲分になるでしょうか。長いと思えばこの「アダージョ」からお聴き下さい。まさに「天上の音楽」とでも表現できるほどの絶妙な美しさに溢れた音楽です。

彼は敬虔なカトリック教徒だったそうですが、この曲(他の交響曲にも言えることですが)には禁欲的な深い精神性と、パイプオルガンのような広大な音楽宇宙と重厚さが備わっている傑作です。 終楽章は聴いていて音響の渦に巻き込まれるような気分になります。宇宙の広がりを感じさせる稀有な音楽だと思います。



ブルックナーの交響曲の特徴は顕著で、その例はいくつか挙げられます。

(1)「ブルックナー開始」とよばれる曲冒頭の音楽の特徴で、弦楽器のトレモロから始まり、雄大な第1主題が浮かび上がってくるという書き方(原始霧とも呼ばれています)で、彼の交響曲のいくつかに顕著に表われています。 聴く者に何かが始まるという予感を与え、やがて宇宙の鳴動のような巨大な音楽が姿を現す前の開始音楽のことです。

(2)「ブルックナー休止」という特徴があります。 普通、楽章主題が別の主題に移行する時には「経過楽句」という中間的な旋律を用意して、そのあとに別の主題を表します。 ところがブルックナーはその「経過楽句」を使わず中間的な旋律を用いないで、管弦楽全てを休止させています。唐突に楽想が変わってしまいます。 これもおそらくオルガンを使って作曲をしていたために、そのオルガン的な音楽がもろに表現されているのだと思います。

(3) 「ザクエンツ」と呼ばれる、ひとつの音型を繰り返しながら、音楽を盛り上げていく手法も用いられていて、繰り返し演奏されるやり方はいたるところに見られます。

ほぼ全交響曲曲がこのスタイルで書かれており、8番もその例に漏れません。 おそらくこれほど一貫したスタイル・書式を貫き通した交響曲作曲家は、他に誰一人としていないと思います。 それほど頑固に「スタイル」を守った人でした。

その彼がウイーンで最初に熱狂的に迎えられたのが、この第8番の交響曲でした。ウイーンの音楽好きに熱狂的に迎えられるという歴史的成功を収めた初演だったそうです。そのときブルックナーは68歳。 上述のように大器晩成型の最たる例でしょう。しかもその4年後に彼には死が忍びよっていたのです。



愛聴盤

(1) カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 ウイーンフィルハーモニー

UCCG3605 (415 124) 1984年録音
(ドイツグラモフォン原盤 ユニヴァーサル・ミュージック UCCG3605 1984年録音)
「ブルックナー開眼」を果たした記念碑的CD。 ブルックナー音楽世界に心酔した演奏。このCD購入後にブルックナー徘徊が始まった。

色々な演奏を聴いてこのジュリーニ盤の良さを再認識。 ウイーンフィルの美音を伸びやかに、しなやかに、晴朗そのものに、端麗に響かせた秀演。 現在2,000円で一番廉価なこの曲のCDか?




4276112 1988年録音
(グラモフォン・レーベル 4276112 1988年録音 輸入盤)

カラヤン節全開の演奏。カラヤン美学と呼ばれる「華麗」「豊麗」「端麗」「研磨仕上げのような美しさ」が全編に溢れた美演。 カラヤンを好きとか嫌いの次元ではなく、この曲を好きな人は一度は耳を傾けたいウイーンフィルとの遺産とも言うべき演奏。



(3) オイゲン・ヨッフム指揮 バンベルグ交響楽団

ALT022 1982年東京ライブ録音
(ALTUSレーベル ALT022 1982年東京公演ライブ)

コンセルトヘボーとの東京公演の「第7番」も超名演でしたが、この「第8番」も少し粗さがあるバンベルグをここまで引っ張っていくヨッフムの底力というか、神が宿ったかのようなアダージョ楽章の言葉に尽くしがたい美しさ、終楽章の開放されたかのような大伽藍建築をを想わせる演奏には言葉さえ出ない。




BVCC37608 2001年ベルリン・ライブ
(RCA原盤 BMGジャパン BVCC37608 2001年 ベルリン・ライブ)

この人の演奏会は2回聴いている。一度はロンドン・ロイヤルフェスティヴァル・ホール、もう一回は大阪シンフォニーホール。 その演奏会でこの「第8番」を聴いているが、このCDの演奏にはるかに及ばなかった。 この演奏を聴いているとまさにヴァントに「神が降りた」としか言いようのない名演奏などという月並みな言葉で表現できないほどの強烈な経験をしました。 私はベスト・ワンという演奏批評での言葉を使うのが好きでありませんが、このCDに刻み込まれた演奏はまさに「ベスト・ワン」と言い切れるでしょう。 このCD購入後聴き終わったあとは、言葉をはさむ余地もないどに、ただただ装置の前で呆然となっていました。

(5) 朝比奈 隆指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団

OVCL00061 2001年7月東京ライブ
(Extonレーベル OVCL00061 2001年7月東京ライブ)

何度も演奏会場に足を運び「ブルックナー体験」をさせてくれた日本人指揮者でありながら、N響のメンバーたちに「最もドイツ的演奏」と言わしめた朝比奈 隆のおそらく最後のブルックナー第8番。 何度も聴き知った演奏、そして何度も感動させられた演奏。 ただただ頭が下がります。


(6) クナッパーツブッシュ指揮 ミュンヘンフィルハーモニー

MVCW14001 1963年録音
(ウエストミンスター・レーベル MVCW14001 1963年録音)

クナッパーツブッシュのワーグナー演奏は凄い、と感動するのですがこれはどうもわからない。 決して感動しないという意味ではなくて他のCDに比べると感動の度合いが低いのです。


(7) ベルナルト・ハインティンク指揮 ウイーンフィルハーモニー

UCCD2113 (446 659-2) 1995年録音
(Philipsレーベル 445659 1995年録音 海外盤)

この演奏にはただただ「美しい」という言葉がぴったりでしょうか。 「第8番のCDなら何がいいですか?」と訊かれると、第1に推したいのがこのCDです。録音も優秀です。

(8) ロブロ・フォン・マタチッチ指揮 NHK交響楽団

COCO7376 1984年東京ライブ
(DENONレーベル COCO7376 1984年 N響定期ライブ)

マタチッチの激しさがオーケストラに乗り移ったかのような、眼を見張るばかりのN響の演奏。深い感動を呼ぶ1975年に次ぐ名演。 コロンビア・ホームページでも見当たらないのでもうプレスした盤が売り切れたのか、廃盤になったのか?






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最終更新日  2010年10月08日 14時13分42秒
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