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2016.08.16

悪徳弁護士・御子柴礼司を主人公にした中山七里のミステリーを読んだ。

○ストーリー
御子柴を真人間へと生まれ変えさせてくれた人物・稲見が殺人の容疑で逮捕された。車椅子生活で老人養護施設で暮らしていた稲見が，介護士と争った末に花瓶で殴殺してしまったというのだ。自供し全面的に罪を認める稲見を救うため，御子柴は必死の調査を行う。そこで見えてきた真実とは？

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「贖罪の奏鳴曲」「追憶の夜想曲」に続く，御子柴礼司の第3作目だ。依頼者の利益を守るためには手段を選ばない強引さで煙たがられていた主人公・御子柴だが，彼の過去はあることがきっかけで社会的に知られるようになってしまった。

これではシリーズが続かないのではないかと心配していたが，その状況も踏まえた第3作となっている。当然ながら御子柴は社会的に厳しい扱いを受け，ほとんどの企業顧問も契約解除となり，事務所の経営も苦しい状況になっている。

そんな逆境の中で，彼は殺人事件の容疑者となった恩師を救おうとする。

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なんだかいい奴になっちゃったな，御子柴。

知人，さらに見知らぬ人からも責められる御子柴，その一方で変わらずに彼を支援してくれる人々がいる。それが中山七里の他のシリーズの主人公たち，というのがなかなかファンへのサービスとなっているが，ひっそりと感じ入る御子柴。

また罪を甘んじて受けようとする恩師に対して，自分の実力の無さを苦悩する御子柴。

第1作で登場した際の嫌な奴っぷりから考えると，驚きのいい奴になってる。もうちょっとクールでも良いなあ。

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容疑者が裁判の場で罪を認めてしまうという完全に不利な状況の中，御子柴はいつもの派手さ，ケレン味を捨てて，地道に事実を積み上げ，裁判員へ情を訴える作戦へと切り替える。

そして彼はある手法を用いて，無罪の主張を行う。日本でも法廷ミステリーは増えてきたが，正当防衛ではなく，この手法は珍しい。

そう言えば，「カエル男」で刑法39条はもう使ってしまったので，中山七里がまだ使っていないカードって残り少なくなっているんだよな。

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ミステリーとしてのどんでん返しがあるのは，中山七里作品としてはおなじみだが，完全な逆風状態から主人公・御子柴がずっと挽回していることも読者としてはうれしい。願わくはこの評価が法廷の中だけでなく，社会にも波及すると良いのだが。

殺人事件だけでなく，老人養護施設の問題，そして○○○○の問題も描いた作品となっていて，読後感はなかなか重い。けれども登場人物たちがそれぞれ穏やかに現実と向き合っている姿が描かれていて，最後には御子柴を認めてくれるのが救いだった。

オススメだ。

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