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私
:この本は、何かの書評で知り、 屠畜の知的街道
に連なる本として図書館で借りて読んだよ。
前に読んだ本は、 内澤旬子著「世界屠畜紀行」解放出版社
だね。
この本の著者の 佐川光晴
氏は、 1989年、北海道大学法学部を卒業
する。
A氏 : バブル経済の最盛期 だから、 大学生は売り手市場の頃 だね。
私
:東京の 小出版社に就職
するが社長と編集長とケンカして 1年で失職。
土木工事の日雇いみたいなことをしてから、 大宮にある屠畜場に入社
する。
A氏 : 一般的に知られていない職場 だから 潜入ルポ を書くためかね?
私:
まったく、そういう意図はなく、 偶然、職安の紹介で入社
したという。
この仕事は、よく知らない人は、 工場の匂いだけで、逃げ出す
という。
ましてや、初日、 牛や豚の血が飛ぶ職場
に入ったら、長続きはしない。
著者も、最初は、学歴からして、 デスクワーク
をするように会社は考えていたようだが、それを断り、 最初から現場作業
をする。
初日、作業服に着替え、現場に下りていくと、 作業長
から「 ここはおめえみたいな奴の来る所じゃねえっ!」
と
怒鳴られる。
仕事は ナイフ中心
だから 怪我
も多い。
著者は、不思議に長続きして、 10年余をこの現場一筋に働く。
A氏 :しかし、せっかく 北大を出て、屠場の作業者 とは、 家族などの反対 はなかったのかね。
私
:著者は、別に 被差別部落民
ではない。
父親は学研に勤めるが、組合結成で、会社に嫌がらせを受けた経歴があったという。
その 父親も母親も別に反対しなかった
という。
すでに結婚していたが、 奥さんの反対もないし、奥さんの両親は教員なのに、反対もなかった
という。
A氏
:珍しいね。
俺は昔、ある 大手のハム会社の総務課長
に会って世間話をしていたら、「 私は自分の仕事にコンプレックスがあるんです
」と言っていたがね。
私
:著者は 2000年
に、 この屠畜場での10年ほどの体験をもとに書いた小説「生活の設計」で 新潮新人賞
を得る。
そして、屠場との仕事もしながら小説を書くつもりが、その後、小説の仕事が多忙になり、会社をやめ、 職業小説家
となる。
A氏 :小説家には変わった人生の人が多いが、この人の人生も変わっているね。
私:
この本は、屠畜作業を著者が 求道士のように学んでいく過程
が中心だね。
著者は、「 屠畜
」とあえて言わないで、作業をした実感から「 屠殺
」という。
著者が働いていた 大宮の屠場は機械化
が遅れていたようで、最初の皮剥ぎ作業は台の上でやっていたようだね。
大変な力仕事、手作業
だが、機械化し、単純化した作業でなかったことが救いになったかもしれないね。
著者は、 10年間で体重が増加
したそうだが、 メタボ
でなく、 筋肉の増加
だね。
A氏 :まぁ、我々の肉を食べるという行為に、屠殺という裏があることを知らないとね。
私
:それにしても、この著者は、 10年も屠殺作業を追求
する。
相手は 自然物の動物。
肉を切るほうも 自然が生んだ身体
。
道具のナイフも 職人が作る精巧なものだ
。
自然物同士のぶつかりあい
だね
。
野球の イチロー
が、身体の限りを動かし、職人が作ったバットで、相手投手の多様なボールに長年対応してきた姿と似ているね。
著者には、そういう ヒタムキさ
があるね。
だから、作家となっても 毎年のように 芥川賞候補
になっているんだろうね。
父親は組合活動で左遷されながらも裁判で戦い、働き盛りを犠牲にしても、勝訴したという。
その「 親父の背中
」をなんとなく見ていたからなのかね。
人生いろいろ、一生は1回、嘆いてばかりいても時間はたつばかりだ。
戦えば道が開けることもある。
そういうものだろうね。
この本は、牛の屠殺作業がメインだが、俺には 著者の生き方 が新鮮に映ったね。