May 22, 2008
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カテゴリ: 身辺雑記
棺の中の知人に、参列者全員が花を添えた。

札幌の火葬場は過密で混雑しているので、火葬場ではもう顔を見ることはできない。だから、それが知人の顔を見られる最後の機会だった。

きみの上にはただ花ばかり

葬儀は無宗教で行われた。祭壇は作らず、棺を取り囲むように花が飾られた。読経のかわりに同僚や友人のスピーチが、焼香のかわりに献花が行われた。

きみの上には、ただ花ばかり

通夜にあたる「偲ぶ会」には200人弱が参会した。

同僚の音楽の先生は、クラリネットを演奏した。アメージング・グレースの崇高な調べが心に染み入った。飲み友だちでもあった元同僚は、知人からプレゼントされたという歌のテープを紹介した。会場に、知人の歌声が鳴り響いた。

後ろの席の若い男性は1時間強の「偲ぶ会」の間中、声をあげて泣いていた。昨年卒業した元教え子ということだった。人間は、あんなにも泣き続けることができるということを初めて知ったが、もし自分が死んだとき、家族以外のだれが、あんなに泣いてくれるというのか。

「源氏物語」の時代、男性の魅力と価値を測る最大の尺度は「泣き方の優美さ」だったという。ぼくが女性なら、彼のような男性を夫に選ぶだろう。



きみの上には、ただ、花ばかり

献花の間中、知人が好きだった井上陽水の曲を流した。「すべての人に感謝します」という内容の歌詞がリフレインされる「ありがとう」や、「グッド・ナイト」という言葉で終わる「最後のニュース」、文字通りそうなった「五月の別れ」などが、不思議なほどマッチした。

ブラスの効果的でかっこいい間奏のある「青空、ひとりきり」が、なぜかひどく哀切に響いた。

きみの、上には、ただ、花ばかり

がん細胞は、ひどくアタマのいいやつらしい。しかしその割にバカだ。宿主に寄生して共存すればいいのに宿主を殺してしまう。宿主を殺してしまうから、自分も焼かれてしまう。

「偲ぶ会」のあとの、いわゆる「通夜ぶるまい」には、70人ほど残っただろうか。葬儀会社の会場係は、こんなにたくさんの人が残ったのは初めてと驚いていた。

きみ、の、上、には、ただ、花、ばかり

知人は、学生時代から絵を教えていたので、せんせい、と呼ばれていた。

弔辞を述べる機会がなかったのでここに書く。

せんせい、あなたにあえてほんとうによかった。

素朴で、純真で、子どものように爛漫で、底抜けに人の好かったあなたは、しかし物事の本質を見抜く知性も合わせもっていた。



その奇跡に18年間も立ち会うことのできた幸運にはお礼の言葉もない。

ありがとう。そして、さようなら。





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最終更新日  May 24, 2008 09:23:13 AM
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