勝手に最遊記

Stay　―6―

「妖怪達が暴走したあの日か。」
「そうだ。オレの顔に残っている傷跡は、女房がオレを殺そうとして付けたもんだ。」
晴掩は皮肉な笑顔を浮かべ、

「この村には大勢妖怪が住んでいたんだ。・・・皆、気のいい連中だった。
人間との交わりが禁忌だと知っていても、誰一人気にしていなかった。」

晴掩はグッと酒を飲み干した。

「あの飛だって・・。女房は妖怪だったんだ。二人の間に赤髪の赤ん坊が生まれたって・・
オレ達は祝福していたさ。幸福そのものだったからな。それがあの日・、飛の女房は自分が生んだ子供を
喰っちまった。・・・止めようとした飛の片目を奪い、逃げって行ったがな・・。」

「・・・そんなことが・・・。」桃花の胸が詰まる。

「以来、この村は“妖怪狩り”をしている。他の町からも遠いからな。殺らなきゃ殺られる。
・・・妖怪の恨みも買っているから、砦を造り自衛しているって訳だ。」

「なるほどな。」三蔵は表情も変えずに頷く。

「昨日、今日、会ったばかりのアンタ達の言葉も信用出来ないのも
そういう過去があるからだ。・・・分かったか。」

晴掩は立ち上がり、
「明日は早い。・・・もう寝ろ。」そう言って、桃花を寝床に案内した。

立ち去ろうとした晴掩に、
「晴掩さん。」桃花が話し掛けた。「・・何だ。」

「あたし・・頑張ります。」「？」

「どんなに危険なことでも、頑張ります！悟空ちゃん達を信じてもらえるように・・頑張りますから！」

そう言って、布団に潜り込んだ桃花を晴掩が驚いた顔で見ていたが、
・・・フッと優しい顔をして、バリバリ頭を掻きながら去っていった。

一方、悟空達は眠れぬ夜を過ごしていた。

質素ながらも夕食が出されたのだが、驚いたことに悟空がいらないと言い出した。

「お前っ、熱でもあんのかよ！？」ふざけた口調だが、悟浄の目は心配している。
「悟空・・気持ちは判りますが、食べておかないと・・。」

「八戒・・・俺、思うんだけど・・。」「何ですか？」

「やっぱり強行突破したほうがいいんじゃないのか！？
死ぬかもしれない儀式を桃花にさせるなんて・・俺、できねぇよ！」

「・・・悟空。悟空は桃花さんを信じてないのですか？」
「エッ？」
「儀式をすると言いだしたのは、おそらく桃花さんでしょう。
村人に僕らを信用させるために、桃花さんは儀式をすると言った。
出逢ってまだ２週間足らずの僕らのために・・。」

悟浄も黙って頷いている。

「・・・それは・・・。」悟空が言い淀む。

「彼女が命がけで僕らを信じているんです。僕らが強行突破してしまえば、彼女が僕らを信じたことが
無駄になってしまいます。・・・判りますね？」

「・・・八戒。」

「そーだぜ！一応、三蔵様が付いてるんだからよ！猿は余計なこと考えず、
メシでも喰ってればいいんだよ！！」
悟浄が悟空の髪をクシャクシャッと掻き回す。

「・・ん！判った！！よぉ～し、メシ喰うぞぉ～！！！」
「アッ！ソレは俺の分じゃないかよ！？」
「うるせー！俺は育ち盛りなんだよ！」
「何だとバカ猿！お前には・・。」

やっといつものように（？）食事を始めた悟空を見て、八戒はホッとしたが

『お願いしますよ・・三蔵。』
やはり、祈らずにはいられなかった・・。

――――――――――――――そして、儀式の朝が来る。

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