勝手に最遊記

勝手に最遊記

Making ―6―



「アイツが元々人間だったって言う事は知ってるよな?」
フーッと紫煙を吐き出し、
「八戒が人間を捨ててまで助けたかった、愛していた女の名前が“花喃”。
・・・・八戒と別室に行った女を見て、八戒が呟いたぜ、花喃・・って。」

「あの女が“花喃”!?」悟空が驚く。

「―――に、似てるんだろ?全くいつまでたっても・・・。」
悟浄が苦い顔で笑う。
『・・・俺もヒトのこと言えないケドよ。』

「八戒ちゃん・・・・。」
桃花の脳裏に、八戒との会話がよぎる。

―――サクラとの戦いが終わった後、八戒の部屋で二人で話しをしていた時――

「もっと前に気付いておけば良かったんですけどね。」
少し、落ち込んだ顔で八戒が言う。

「でも、しょうがないよ。あんなに精巧に出来てたら。
お医者さんに診てもらっても、人間じゃないって判らなかったんだし・・・。」
桃花は笑って、
「悟空ちゃんは、鼻が利かなかったってショック受けてたけど。」
と言った。
実際、サクラは香水を身につけて居て、悟空の嗅覚も利かなかったのである。

「いえ。最初、百眼魔王の名前を聞いて、動揺したのがいけないんです。
・・・僕の最愛の人を奪った張本人ですから。」
窓に視線を向けて八戒が言う。
「僕の双子の姉で、愛した唯一人の人を・・。」

そのまま八戒は黙ってしまった。

桃花も詳しい話は聞けなかった。―――聞いてはいけないと思った。

『自分にも言えない過去がある。』

聞いて欲しいときに、聞いてあげればいい・・・。


誰もが傷を背負っている。

背負いながら生きている。

「八戒ちゃん・・・・。」
それでもこれ以上、傷つかないで欲しい・・・お願いだから。


八戒は六畳ほどの小綺麗な部屋へ通されていた。

部屋の広さには不釣り合いなほどの大きい窓があり、半月がよく見える。

八戒はその月に吸い寄せられるように窓へと佇んだ。

「今夜は月が綺麗ですね・・・。」
月光のみに照らされる景色は思いのほか明るく、よく見えた。

「貴女のお名前を・・・。」八戒が言いながら振り返ると、

女が自分の洋服を脱ぎ初めていた。

「!・・・何・・を・・?」

女は八戒に構わず、洋服を・・・そして下着まで取り払い、
八戒の前に裸体を晒した。
月光に照らされ、褐色の肌が・・・躰が闇に浮かび上がる。

華奢な肢体・・・愁いを帯びた優しげな顔・・・“花喃”

八戒が衝動に駆られる。「・・・・花喃っ・・・!」

女が自ら八戒の腕の中に躰を滑り込ませる。

そして八戒を優しく抱き寄せ、
「ええ・・。“花喃”って呼んでも良いわ・・・。」そう呟いた。

瞬間、八戒が女を強く抱き締めた――そして、

「うあああぁぁっっっ!!!」
女を突き飛ばし、自分の拳(こぶし)を窓硝子へ叩きつけた。

ガッッシャアアァァンッッ・・・・硝子が粉々へ砕け散り、破片がキラキラと光を
撒き散らしながら弾け飛ぶ。

八戒の拳から、血がボタボタと床へ流れ落ちる。
まるで涙を流すかのように・・・。

女はその光景を、震えながら見ていた。




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