ミステリの部屋

ミステリの部屋

2007年08月29日
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猟奇的なファンによる、小説を模倣した大量殺人。
この事件を境に筆を折ったチヨダ・コーキだったが、ある新聞記事をきっかけに見事復活を遂げる。
闇の底にいた彼を救ったもの、それは『コーキの天使』と名付けられた少女からの128通にも及ぶ手紙だった。
事件から10年――。売れっ子脚本家・赤羽環と、その友人たちとの幸せな共同生活をスタートさせたコーキ。
しかし『スロウハイツ』の日々は、謎の少女・加々美莉々亜(かがみりりあ)の出現により、思わぬ方向へゆっくりと変化を始める……。



若きクリエイターたちが一緒に暮らし始めた「スロウハイツ」。
中には才能を持ち成功した者もいれば、自分の才能を信じているがまだ夢を実現させられない者もいます。

トキワ荘を思わせるこのアパートで、手塚治虫のような存在はチヨダ・コーキです。
彼の小説は若者に圧倒的人気を誇り、作品はチヨダブランドと言われています。
ところが彼自身は人とふれあうのが苦手で、書き始めると食べることも着替えることも忘れて何日も部屋から出てきません。まるで世間を知らない子供のような人物です。

アパートの大家は売れっ子になりつつある脚本家の赤羽環。
チヨダ・コーキのファンですが、人にも自分にもきびしく、思っていることをはっきり言います。友人の作品がいいと感じたら応援するけれど、ダメだと思ったら容赦なく批判の言葉をぶつけます。そこまで言うの?と思うくらい。

ほかには漫画を描き続ける狩野や、映画監督を目指す正義、画家の卵のスーなどがいて、彼らが迷い、夢み、時にぶつかりながらも仲良くくらしている様子が描かれています。


時にはトラブルもあるけれど、友人達がいるから何とかなる、みたいな……。

青春小説が好きな私はそれだけの話でもかまわないと思っていましたが、下巻に入って話が加速していき、「二十代の千代田光輝は死にたかった」に行き着いたときにわかりました。

この物語にも謎解きはあったのです。

上巻から張り巡らされていた伏線が、一つ一つ取り上げられていきます。
ああ、あれはこういうことだったんだ、と思い当たり、ミステリとしてはすっきりとした気分になるはずのこの場面ですが、泣けました。とても泣けました。

意地になるくらいにひたむきな人は、これまでの辻村さんの作品にも登場してきましたが、読んでいるうちに痛々しくもなってきます。
でも、人にはない才を持ちながら、どうしようもなく不器用な彼らが、今回はとても好きになりました。

最後の場面の明るさが素敵で、今も胸に残っています。


(ほかの作品にでてきたあの人も登場します♪)











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最終更新日  2007年08月30日 19時27分40秒
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