卑劣の道、極めます(仮)

愛の四畳半劇場【番外】



 戦乙女に手を引っ張られるまま、若き聖騎士は走り出した。

「行きましょう。」

 その強引過ぎる誘いに苦笑しながらも、聖騎士は承諾した。

「いっくよ~!!」

 聖騎士の「聖なる護り」もうけきらぬうちに戦乙女は駆け出している。

 あわてて後を追いながら、聖騎士はどこかこの状況を楽しんでいる自分に気づいていた。

 どのくらい時がたったのだろう。それは「狩り」と言うには和やかだった。

 戦乙女は声をたてて笑いながら元気に跳ねまわっている。

 その戦乙女の後を追い掛ける聖騎士の顔にも笑顔がある。

 ふと戦乙女は立ち止まって振り向いた。その瞳はいたずらに輝いていた。

「つかまえられる?」

 言いながら、身をひるがえして走り出す。

 一瞬、呆然とした聖騎士だったが、次には後を追って走り出していた。

「待て待てー!」

 おいかけっこが始まった。戦乙女は捕まりそうなギリギリのところで聖騎士の手をかわしている。本気で逃げれば、あっというまに聖騎士の手の届かないところへと行けるのであろうが。

 聖騎士にもそれはわかっていたのだが、そのせいで本気に火がついたようだ。

 岩場を駆け上がろうとした戦乙女が、バランスをくずしてよろめいた。倒れるほどではなかったが、聖騎士はその機を見逃さなかった。

「つかまえた!」

 よろめいたところに腕をつかまれて、戦乙女は呆気なく聖騎士の手に落ちた。

「あっ。」

 戦乙女の顔の間近に聖騎士の顔があった。

 戦乙女の顔が朱に染まる。

 聖騎士は慌てて、戦乙女の身を解放した。

「ごめん・・・・・。」

 身を離して謝罪する聖騎士に向かって、逆に戦乙女は身を寄せた。

 戦乙女の気持ちに、聖騎士はやっと気がついた。

 だが、聖騎士の頭の中には、すでに戦乙女とは別の人が住み着いていた。

「僕には・・・・・。」

 戦乙女もそれを知っていた。

「士羽ちゃんじゃなきゃ、ダメなの?」

 戦乙女はすがるような目で聖騎士を見上げていた。

 聖騎士は戦乙女の肩に手をかけ、ゆっくりとその身を引き離した。

「君を幸せにできるのは、僕じゃないんだ。」

 穏やかだが、その決意は揺ぐことはないのだろう。戦乙女にもそれはわかっていた。

 わかっていたからこそ、その真摯な瞳に惹かれたのだから。

 沈黙はそう長くは続かなかった。先に口を開いたのは戦乙女だった。

「にょほちゃん。」

「はぃ?」

 戦乙女の顔に笑顔が戻った。

「士羽ちゃん、幸せにしてあげてね。」

 聖騎士はうなずいた。

「君も幸せに・・・・・。」

 戦乙女は切ない目を聖騎士に向けた。しかし、それも一瞬、またいつもの明るい笑顔で片目と閉じてみせる。

「大丈夫。雨、かわいいから♪」

 聖騎士は釣られて微笑んだ。

「ん、余計な心配だったかな?」

 当たり前、というように、戦乙女がうなずく。

 聖騎士は道具袋の中から何かを取り出した。

「これを・・・・・。」

 聖騎士の手には黄色に光る石が握られていた。人々に幸運を与えるといわれている奇跡の石。

 聖騎士はその石を戦乙女の手の中に落とした。

「綺麗ね・・・・・。」

 その石を大事そうに両手で包み込んで、戦乙女がつぶやく。

「君に持っていてほしいんだ。」

 聖騎士の優しさ。戦乙女には嬉しくもあり、そして、辛くもあった。

「ありがとう・・・・・。」

 戦乙女は顔を上げることが出来なかった。我慢できずに一粒だけこぼれてしまった涙に気づかれてしまうから。

 甘く切ない、受け入れられることのない思い。

 それは、風に消えてしまったが、その思いは確かに少女をまたひとつ大人にしたのだった。


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9月15日、カイヌゥスにて。

 にょほさんが雨ちゃんにまで手を出してきましたw

 今回はちょっと台詞を付け足したところもあります。でも、まあ、おおむね道からそれてはいないかとw

 プレゼントされた「奇跡の石」は、士羽の頭、叩いちゃいましたけどね^^;



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