卑劣の道、極めます(仮)

雨のち晴れ



 つい声をかけてしまった。

 クロノス城の転送ゲートを出たところに、まだ駆け出しの聖騎士がふたり、呆然と立ちすくんでいた。

 別に若い子たちだからって話し掛けた訳じゃない。何となく、何処かで見たような子たちだったし、お節介なのかもしれないけど、こういうの見過ごせない性格なんだもん。

「あ、雨さん・・・。」

 どうやら向こうでもあたしを見知っていたみたい。年上の方の聖騎士があたしの名を呼んだ。

 んと、誰だったかしら・・・。

 記憶をたどっていくと、ひとりの戦乙女の顔が浮かんだ。

「ああ、ココちゃんとこの弟さん。」

「にるるです。」

 金色の鎧の聖騎士がぺこりと頭を下げる。

 明るい栗色の髪がふんわりと揺れた。瞳の色も明るくてかわいらしい感じの子。

 もうひとりの銀色の鎧の子にも見覚えがあった。士羽ちゃんと同じギルドの子だ。やんちゃな感じが抜けきらない深い緑の瞳がきれい。

 でも、その瞳から今にも涙が溢れそうになっている。

「何かあったの?」

 するとにるるは一枚の紙を差し出した。青い縁取りのあるその紙に見覚えがあった。

「誓約書?」

「はい・・・。」

 青い縁取りのある紙・・・それは師弟関係の誓約書だった。

 魔力が込められていると言われているその紙にお互いの名を書き記すことにより誓約がなされる。コエリス神に師弟として認められるという、胡散臭いもの。ローリンじぃさんが売ってるとこが一層、そう思わせるんだけど、お守りみたいなもんなんだろうね。みんな、持ってる。

 ただ、にるるが見せている紙には何も書かれていない。

「誓約が、消えてしまったんです。」

「あん・・・・・。」

 どうやら、この子たちは誓約を交していたようね。

 魔力が込められているというのはまんざら嘘ではなくて、誓約を交わしただけで長い間、何もしないでいると書き記した名前が消え無効になってしまうのだ。

 若いふたりは自分のことに夢中で、関係の方がおろそかになっていたみたい。で、気づいた時には遅かったと。

「仕方ないんですよね・・・・・。」

 にるるはがっくりと肩を落としていた。お弟子さんの方はショックで何もいえないみたい。

「まあ、そうなんだけど・・・・・。」

 何となく苦笑い。あたしも師匠と呼んだ人と縁が切れた時、結構へこんだもんなぁ。

 でも、まあ、その経験がここで生きるのかな。

「復縁したいの?」

「ええ、出来るものなら・・・。でも、名前が書けなくて・・・。」

 そうなのよね、片方が書いて、次にもう片方が書くと・・・・・、あら不思議、また消えちゃうんだよねぇ。

「ふーん。」

 にるるの手から紙を受け取り、ひらひらと振ってみる。別になんの仕掛けもないように見える紙なのにさぁ。

 ふたりともお互いを思いやらなったことを後悔しているみたい。

 ・・・・・・・・・・。

 仕方がない、助けてやるか。

「ねぇ、君。」

 うつむいたままの銀装備くんの顔を覗き込む。

「えっ?」

 銀装備くんを驚いて顔を上げた。

 その手にペンを握らせる。

「ここに名前書いて。」

「でも・・・・・。」

「いいから、早く。」

 銀装備くんは勢いに押されて署名した。『あきやん』、そか、そんな名前だったっけ。

「ありがと。」

 あきやんからペンを奪い取り、すかさず名前を書き込んだ。

「じゃーん!」

 あたしとあきやんの誓約書が完成した。

「よろしく、お弟子♪」

 ふたりの聖騎士は呆気にとられてあたしの方を見ている。

「あ・・・、雨さん・・・・・。」

 にるるが情けない声を出す。

「まあ、見てなさいって。」

 そんなにるるに向かって片目をつぶってみせる。

 そして、おもむろに誓約書を破った。

「何を・・・・。」

「これで、誓約は無効になったわ。」

 そう、これで短かったあたしとあきやんの師弟関係は終り。

 自分の手荷物の中から、新しい誓約書を取り出し、にるるに手渡した。

「はい、あげる。」

 ペンも一緒に渡す。

「名前、書いてごらん。ふたりとも。」

 わけがわからないというように首を傾げながらも、にるるは名前を書き込んだ。

 あきやんも震える手で署名していく。

「あっ!」

 にるるの表情がみるみる明るくなる。

「消えない!!」

 にるるの言葉にあきやんもやっと気がついたみたい。

「ほんとだ・・・・・。」

 誓約書を食い入るように見つめている。

「よかったね。」

 そんなふたりが微笑ましくて、ついついあたしも笑顔になる。

 こんな邪道な方法もあるのよね。ま、経験が物をいったわけだけどさ。

「今度はちゃんとしないとダメよ? わかってるよね?」

 無邪気に喜んでいるふたりに釘を刺す。こんな方法、使わないに越したことはないのだ。

「ありがとうございました。」

 ん、大丈夫だろう、この子たちなら。今度はきっと、お互いを大事に出来るはず。

「じゃあね。」

 無事、復縁も出来たし、もういいだろう。あとはふたりで今後のことでも話し合えばいいんだし。

 それに、たまには狩りに行かないと。師匠が帰ってきた時に怒られちゃう。

 マエルじぃさまに声をかけようと歩きだす後ろから、にるるの声が追いかけてきた。

「雨さん!」

 振り返ると、真剣な顔したにるるがいた。

「おいら、頑張るから。頑張って、雨さんに恩返しする。おいら、おいら・・・・・、いつかきっと、雨さんを守れるようになる!」

 ・・・・・・・・・・。

 びっくりしたぁ。まだまだだって思っても、立派に男の子なんだなぁ。

「うん、待ってるよ!」

 内心、ドキドキしながら、余裕を装って手を振る。ボロが出ないうちに、逃げるに限る。

「どうしたな?」

 マエルじぃさまが不思議そうな顔であたしを見ていた。

「顔が赤いぞい?」

 ・・・・・・・・・・。




 でも、でも、まだまだだよ。

 何たって、オトコはディバからだもんね♪

-------------------------------------------------------

 復縁のお手伝いをした時に、何となくこんな話が浮かびました。

 まあ、ココちゃんが「たまには四畳半に入れてくれ」と言っていたので、にるるで遊ばせてもらっちゃいました^^;




© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: