買書とつんどくの日々

買書とつんどくの日々

2020年02月07日
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カテゴリ: 読書
最後の手術から二週間後に息を引き取るまでのあいだに、潤一は人が送る生涯のおよそ半分に相当する時間のなかにいた。気がつくと時子と暮らしているマンションのベッドのうえにいてぱちりと目が覚め、何度か瞬きを繰り返した後、両手両足を確かめるように動かしてから体を起こし、それからリビングへ出ていった。時子はいつものようにこちらに背を向けて朝食のための野菜を刻んでいる最中で、彼に気がつくと明るい声でおはようと言った。潤一はまだぼんやりする頭でソファに腰をおろしておはようと返事をし、時子の背中をまじまじと見つめ、なにか大切な話が、忘れずに話をしなければならないことがあったように思うのだけどもうまく思い出すことができず、大きくひきのばしたあくびをひとつしたあと、時子のそばへ歩いていってグラスに水を入れて飲んだ。
(川上未映子さん「十三月怪談」(「愛の夢とか」所収)P183)




独立した短編集ですが、一作一作のほとんどが話のつながりが見えづらくて、とりあえず少なくとも2回は読みました。
特に、視点がころころ変わって、同じ場面なのに違う話が最後に一つになる「十三月怪談」は、きつねにつままれたような話ですが、ほんとのところはどうなんだ、ってやっぱり言いたくなるような話です。そんで、もちろん大島弓子さんの「四月」ではなく、べたに東日本の「三月」でもなく、また阪神・淡路の「一月」としないことに、なんらの含みがあるのやろうけど、「十三月」ってなんやねん。まあすべからくそういうこってす。
(と、書きながら、「十三月」とゆうのは、「一月」と「三月」を組み合わせたもんやないやろか、それに、「一月」と「三月」を足したら「四月」やないか、もしそうならちょっとこわいな、などと考えてしまいました)

ともかく、どこかしら死の匂いをただよわせているような趣きの作品にあふれていて、「お花畑自身」など、そのまま埋葬の話ととれますし、好みからいうと、読後感の良かった「愛の夢とか」も、「テリー」はほんとに生きている人だったのかな、などと思いました。

で、引き続き、「 あこがれ 」を読んでいきます。







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Last updated  2020年02月07日 08時38分37秒
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