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イスティスの隠れ家
-真名の探索者- 終章
『蒼き石の物語外伝』-真名の探索者- 終章
真名の探索者 6『覚悟の意味』
「つまらん」
「「「・・・・・・はい?」」」
私と村長、エイムの声が、いっそ見事とも言えるくらいに重なった。
聞き間違えか? 今の発言は。
だが、誰が見ても・・・どうみても、この場にそぐわない言葉を彼は言い放ったのだ。
「何故貴様等は戦わん」
表情だけ見れば・・・ぶすっとした印象を受ける。
・・・怒っているのか?
実は、私は彼が怒ったところをみたことがない。
二ヶ月も共に旅をしていたというのに、彼は怒ったことがないのだ。
彼の名を探すため、敢えて怒りを誘うように行動したこともあるが、彼はどんな言葉にも、どんな行動でも鼻で笑いとばしてきた。
だが、今彼は怒っていた。
いや、違う。問題は今、そこではない。
・・・戦う、だと?
「私の見たところ、貴様の部下たちの力量はすばらしい。おそらく一日も鍛錬を怠ることなく、力を蓄えてきたのだろう」
これまた珍しく、彼は人を褒めている。
「何より、あの吼将の力もあれば、十分国を取り返せるくらいの人間は集まってくるだろう」
彼はゆっくりと歩き出す。壁へ。
「しかも、だ」
不意に彼は、壁に『真の剣』を突き刺した。
「ふむ」
彼は一体何をしている?
「手錬の暗殺者だな、村長?」
「・・・その通りだ」
村長は壁から剣を抜くフェイレートに苦虫を噛むような声で呟く。
よく見れば、僅かだが彼の『真の剣』に血がついている。命をとらぬ程度に脅したのだろう。
どうやら私達は信用されていないらしい。当然と言えば当然だが。
「だが、これで表の武勇だけではなく、裏の武も証明された。さすがは暗殺者の村だな」
表の武とは、すなわちアーレフ将軍率いる騎士団。裏の武とは村長たちの事を言っているのだろう。
「それなりに戦力が整っているな。いざとなれば、こちらから攻められるわけだ」
吼将軍と表裏の武。戦力としては、それなりの物であると言える。
だが、その中でも、決定的に足りないものがある。
「後は掲げるべき者だな」
掲げるべき者・・・それは、彼らをまとめる『主』の事。
騎士を率いるのはアーレフ将軍。闇を動かすのは村長。
だが、『主』は、知識や力、実力などなくてもいい。『主』とは、彼らの大義名分となる者だから。責任負う者なのだから。
しかし、掲げる者としての資質を、この二人は持っていない。
この場合、その役目は担うのは当然、皇帝自身だろう。だが、傷で弱っている皇帝の姿は掲げるにはあまりにも弱い。
ならばどうする?
「名はなんと言う? 皇女」
「エイム・・・エイム=ザッディです」
「貴様に覚悟はあるか?」
そう、彼女だ。彼女しか掲げる者としての役目を担う事は出来ない。
皇帝の娘。亡国の悲劇を知る皇女。
「・・・私しか、出来ない事なのですね」
それを彼女は理解しているのだろう。若いながらも聡明だ。
「そうだ、エイム。貴様しか出来ない。貴様しか資格はない」
フェイレートは、まるで言い聞かせるように彼女へ言葉をぶつけていく。
「しかし・・・」
おそらくそれは、彼女自身も考えていた事なのだろう。
何度も迷い、何度も考えた事なのだろう。
「怖いか? 怖いだろうな」
掲げられる事で起こる恐怖。戦いの場で、日常の生活で暗殺されることの恐怖。
王国と戦うことで死んでいく弱き人々。
彼女はそれを、一度見てきているのだ。恐怖もひとしおだろう。
「だが、王国に支配されていった者たちはさらに恐怖していただろう」
「それは・・・!」
「皇帝とは」
フェイレートは、どこか遠くを見るように呟く。
「守る者なり」
その言葉に場は止まった。
その呟きに、この場の誰もが息を飲んだ。
「・・・アーレフ将軍。いるのだろう?」
鈍い音がして、扉を開ける音が響いた。
そこから、アーレフ将軍と『雷剣』グランジェスが現れた。
どうやら村長がここに来る際に彼らのロープを切っていたようだ。
凍らせ、動けなくして放置していたグランジェスは、氷からどう抜けたのか知らないが、鎧下のみで現れた彼は私を軽く睨む。
「貴様はどうなのだ、吼将?」
「我ら騎士はハーヴェイ皇帝とエイム様の命に従うのみ」
吼将は静かに、だが響く声で言い放つ。
「村長。貴様らの村はどうする?」
「我が武村は代々皇帝の寵愛を受け、今日まで生きてきた。その意思は、村の誰も裏切らない」
「いい覚悟だ」
フェイレートはニヤリと笑う。
正直少し不気味だ。彼はおそらく、笑いなれていないのだろうな。
フェイレートはそんな私の考えを無視するように、エイムを見る。
「後は貴様の覚悟だけだ、エイム」
「・・・・・・」
どうやら私は彼をまた見誤っていたようだ。
彼は・・・大した詐欺師だ。
今の話から、ここまで彼らを扇動してしまうとは。
だが、彼女の意思が決まる前に、動きがあった。
「村長!!」
そこに一人の女性が飛び込んできた。
見るからに村娘なのだが、どうやら彼女も特殊な訓練を受けた人間のようだ。動きに隙が全くない。
「何事だ」
「ハーヴェイ様が・・・皇帝の様態が!!」
その言葉で、その場へ一気に熱が溜まり始めた。
・・・事態は急変し、流れは止まることはないようだ・・・・
そして私達を・・・いや、私を巻き込み、『事態』という何かが動こうとしていた。
真名の探索者 7 『真の』
そこは皇帝の寝室とは思えないほど、質素な作りをしていた。
ここは村長の家。その地下だ。
時刻としては深夜の時間帯となる。
皇帝は、ここにいた。その身をベットの上に横たえ、静かに目を閉じている。
「父上・・・・!!」
エイムは目を閉じる皇帝の手をとり、座り込んでいる。
皇帝は痩せていたが、まだ白髪も少なく、歳も五十を越えているようには見えない。
しかしその顔はすでに血の気はなく、死の色が濃い。
今ここには私とフェイレート、エイム、村長、グランジェスがいる。
フェイレートは扉の近くにおり、アーレフに関しては強硬に皇帝の下へ駆けつけると主張するが、目立つという事でフェイレートに止められた。
いや、気絶させられたというべきか。
正直に言えば、私がここにいること自体が場違いなのだが、村長の許可を何とか得て、ここにいる。
私は見ておきたかった。
皇帝と呼ばれる者、呼ばれた者の最後というものを。
彼らはその地位の中で、真名として『王』や『皇帝』を与えられる。
『王』・・・そして『皇帝』・・・それは真名の中でも特に限定されたものに付けられる。
王族であるものや、あったもの。それ以外の理由で与えられる事例もあるが、様々な条件がある。
その条件の中で共通して、特に重要なある資質が求められる。
それは『王』としての、『皇帝』としてのカリスマと、全てを背負う『覚悟』という名の資質。
「・・・エイム・・・か」
私達がここへ到着してからしばらく経って、うっすらとだが、皇帝は意識を取り戻したようだ。
「父上!?」
その様子をエイムはしっかりと見ている。
皇帝は静かに、この場にいる者たちを見渡す。
そして、己の身体の状況を感じ取ったのか、皇帝は静かに呟いた。
「・・・どうやら、私はここまで、か」
身体が少し縮んだように感じた。
「父から継いだ国を・・・取り戻せず・・・終わるのか・・・・」
その声ははっきりとしているが、しかしどこか悲しげに響く。
「情けない限りだ・・・妻や子を殺され、さらには国さえ奪われ・・・」
皇帝は右腕を上げ、ゆっくりと空を掴もうとして・・・腕から力が抜ける。
エイムはそれを見て、泣きそうな顔になった。
「だが娘よ」
強い力が込められた声と共に、皇帝は、エイムの正面を見る。
「お前は、振り返るな。私の敵討ちなど考える必要はない」
「父上!?」
「お前は、お前の生を全うするため、生きよ。私や兄弟姉妹たちの事を考える必要はない」
「し、しかし!」
皇帝は、ゆっくりと息を吐く。
死は、近い。
「・・・村長・・・迷惑をかけた。ありがとう」
「ありがたき幸せでございます」
村長は膝を折り、ゆっくり頭を下げる。
「グランジェス。お前たちにも迷惑をかけた・・・アーレフはうるさいかもしれんが、あれはあれでお前達を気にかけているのだ」
「・・・はっ!!」
涙はない。だが歯を食いしばりすぎて切ってしまったのだろうか。口から血が流れている。
「アーレフに・・・友に伝えてくれ・・・長く生きてくれと」
そして皇帝は私を見た。無関係の私を。
「私の知らない者よ。どういう経緯でここにいるかは知らないが・・・私の死を看取っていただくことに礼を言う」
驚いた。
・・・この人は、まさに皇帝だ。
彼はこの場にいる全ての者に、声をかける気なのだろう。
例え消えつつ命であっても、皇帝としての職務を全うするために。
そして彼の目は、扉に背を預け、目を閉じるフェイレートに向けられた。
一瞬。皇帝の目に驚愕の色が宿った。
「まさかこの目で、もう一度貴方を見ることが出来るとは思いませんでした。フェイレート殿」
「「「!?」」」
「まったくだ」
何故皇帝と呼ばれた者が、フェイレートの名を知っている!?
いや、あまつさえ皇帝に敬語さえ使わせるとは・・・
「貴方は・・・変わらないのですね・・・」
「ふん。変わらないのではなく、変われないのだ」
「そうですか・・・」
その声と共に、皇帝の顔に苦痛の色が現れる。
だが、彼はそれに耐え、フェイレートへ、最後の言葉を、言う。
「貴方がいれば、私に不安は・・・ない」
皇帝は目を閉じる。その顔には苦しみではなく、達成感と安心感があった。
ゆっくりとその体から力が抜けていく。
後に残されたのは、生者たちの悲しみだけだった。
・・・若干二名は、違うようだが・・・
言わずもがな、それは私とフェイレートの事だった。
「国を・・・取り返します」
エイムが皇帝の部屋から出て、開口一番に言った言葉がそれだった。
目は赤いが、取り乱した様子はない。
しかし・・・
「落ち着いてください。エイムさん」
私は口を開く。
「今の貴方は感情を暴走させています」
「そんな事は・・・!!」
「馬鹿か貴様は。そいつのいうとおりだろう」
フェイレートが私の言葉を肯定する。
「き、貴公ら、皇女に対して失礼ではないか!?」
グランジェスはわめくが、今はそんな場合ではない。
「貴方のお父上のお言葉を忘れましたか? 振り返るな、と」
そこで、彼らはハッと何かに気づいたようだ。
そうだ。はっきり言って、今彼女を抑えるのは身内である村長やグランジェスではない。
第三者である私とフェイレートだ。
肉親を失った悲しみは、冷静な判断を鈍らせる。
そうした感情に身を任せた者はロクな運命を辿らない。
今は冷たく熱された鉄を叩いて鍛えて、刃にするときだ。
「おい、暫定気持ち『皇女』」
暫定気持ち、とは・・・笑えない言葉だ。
「貴様は、どうしたい?」
「それは・・・」
「さっきみたいな馬鹿な答えをするなよ? 父親の名を汚すだけだ」
彼は本当に口が悪いな。
苦笑をかみ殺しつつ、私は彼女を見る。
おそらく今、彼女の中では今まで経験したことがないほどの葛藤が渦巻いているだろう。
人を試す、ということは実に不条理なことだと私は思っている。
真名の探索者としては、これほど不敬な考え方はないだろうが、事実私はそうした考えを持っている。
おそらく今のエイムも同じ事を考えているだろう。
何故、私が? 何故、さっきの答えではダメなの? 何故、この人は私にそんな事を聞くの? 何故、何故?
つらい感情。つらい状況は、時に人を歪ませる。
それは容易に、憎しみや悲しみや悔しさへと、感情は変わる。
そして今、その感情さえも試す者が。フェイレートが彼女を見ている。まっすぐに。
「・・・私は・・・わた、しは・・・」
そこで彼女は崩れ、膝が折れる。
「悔しいのです・・・悔し、い」
こぼれる涙を、だが私とフェイレートは見ない。
「父上を、兄弟を、姉妹を、奪ったものたちを・・・許せない、許したく、ない!!」
その声には強い力があった。
「父が守っていたこの国を、皆が、私は好きなんです。大好きなんです・・・!!」
全力の叫び。
それは彼女の中で爆発した末に出た『真の言葉』。
「おい、『ヘディン』」
「なんですか?」
「彼女は、『何だ』?」
・・・分かっている癖に・・・
内心の苦笑いを噛み殺し、私は彼へ質問の回答を返す。
「決まってるでしょう。正真正銘、『皇女』ではないですか」
私とフェイレートは頷きあう。
そしてフェイレートは、動く。
「き、貴公、どこへ!?」
「外に敵がいる」
「な!?」
その通りだ。どうやらすでに王国の者たちが近くに・・・少なくともこの村の周辺にいるのだろう。
空気が先ほどから熱を持ち出している。
グランジェスや村長ほどの者が気付かないのは、彼らもこの状況で混乱しているためだろう。
「おい、村長」
「・・・」
その言葉に何かを察したのか、村長は沈黙のままこちらを向く。
「今すぐ動ける人間・・・いや、全員を集めて、この村からあの砦へ脱出させろ」
「・・・どうしようもないようだな」
「ああ」
村長はため息を吐き、姿を消す。
「おい、騎士」
「な、なんだ」
「何をぼけっと突っ立っている。早く皇女を脱出させろ」
「し、しかし」
フェイレートはそれに取り合わず、そのまま外へ出る扉まで歩いていく。
「アーレフに伝えろ。彼女は、決意した、と」
その言葉の意味を読み取ったのか、彼の顔に理解の色が広がる。
「・・・承知した」
私は膝を折った彼女を起こした。
「エイム様」
静かに、だが強い言葉で彼女を『起こす』。
「フェイレートが認めましたよ」
まだ涙が止まぬ皇女は、私の顔を見る。
今は彼女に微笑み、安心させることが大事だ。それが感情の揺れを少なくさせる。
「いくぞヘディン」
フェイレートの呼び声を聞き、彼女から離れ急く声に、私は静かに答える。
「さっき、名前を初めて呼んでくれましたね?」
それに彼は不器用にニヤリと笑い、振り向く。
「私は、恥ずかしがり屋なものでな」
「嘘つきはいけませんよ?」
そんな言葉を言い合いながら、私たちは部屋を出る。
戦いはあまり好きではない。
だが、苦手ではない。
そして何より、今は弱音を言っている場合ではない。
事態は動き、これからは戦いの時間となる。
剣士と魔術師は、往く。
いざ、戦場へ・・・
真名の探索者 8 『闇夜に踊る者』
フェイレートが戦う舞台は村近くの丘。時刻は夜。
王国軍はこの丘に広がる平原の奥に陣を構えていた。
私でも感じ取れるほどの殺気。それはすでに彼らが今すぐにでも動く証明だとも言える。
そして、戦いは彼の咆哮による光刃から始まった。
すでに敵の先遣隊は村のすぐ近くまで来ており、今にも攻めてこようとしていた。
数で言えば百を越しているように見える。
どうやら彼らは村ごと皇帝を消すつもりだったらしい。
卑怯、とは言えない。なぜならこの村は帝国時代から続く武の村。
大人はもちろん、子供といえども、戦いに特化した訓練を幼い頃から受けているのだ。侮ることはできないのだろう。
だが、少人数が大人数に常に押し負けるわけではない。
その現実が、まさに今目の前で実現していた。
「おおおぉぉぉぉ!!!」
獅子奮迅とはまさに彼の事を言うのだろう。フェイレートは光刃で敵に強襲をかけた後、そのまま突っ込んでいった。
・・・凄まじい・・・
先ほどのアーレフたちとの戦いとは違い、彼は今容赦というものをしらない戦いをしている。
一歩進んで敵を一振りで沈めた後、背後から来た槍の一撃を避け、そのまま回り込み一振り。
四方から剣が突きこまれたと思えば深く身を沈め、鉄靴ごと『真の剣』で斬り落とす。
数で押しつぶされそうになれば、光刃で逆に相手を吹き飛ばす。
疲れを知らないその戦いぶりに、私は一瞬見とれてしまったが、状況はそれを許してくれない。
今私がいるのは戦いの場から僅かに外れた場所、森だ。
フェイレートに指示され、私はここで敵を待ち伏せている。
戦略としてあの村を消すとすれば、大隊で押しつぶし、森に逃げた者たちを単機で討ち取ることが常套。
ならば、この森にもある程度兵が割かれているはずだ。
あの数を用意していることからも、敵は徹底的な村の消滅を望んでいるらしい。
そして・・・・敵は来た。
ゆっくりと、静かに忍び寄って村人を待ち伏せしようとしているのだろう。
だが甘い。
村人たちはすでに村長の手引きによりほとんどが村に用意されていた隠し通路からアーレフたちの砦へ脱出している。
古くから他国の攻撃を受けている村だからこその備えと言える。
王国軍も、まさか家のひとつひとつ全てに地下通路があるとは分からなかったのだろう。
今、木の上から、そんな彼らの姿を見ている。
木々によって暗く閉ざされた森の中とはいえ、彼らの姿は目立つ。
「むしろ、森の中で迷彩さえしていない防具で来るほうがおかしい」
兵士たちを見ながら呟きつつ、私は先ほど分かれたフェイレートの会話を思い出す。
「言うなれば、我々は捨て駒の『役目』をする」
「『役目』、ですか」
フェイレートは村の入り口・・・敵地へ向かう道中でそんな言葉を言い出した。
「こういった戦いで、仕掛けられた側はどう動くべきだと思う?」
「素早く撤退することです」
道理でしょう? という意味も含めて私はフェイレートに返事を返す。
「あたりだ。ならば、仕掛ける側はどうする?」
「殲滅戦であるこの戦いですからね。逃がさないように周囲を囲います」
村長たちの地下通路は、ここから遥かに離れた場所まで掘り進められているらしい。
そうした確認は事前に村長に確認していたのでその点についても私は全く心配をしていない。
「そうだな。しかし、もしいくら待っても村人たちが脱出をしようとしなければ・・・どうする?」
私はその言葉にハッとなる。
確かに今から私達が王国軍とぶつかりある程度撹乱に成功したとしても、私達が守っているはずの村人が逃げようとしなければ当然彼らは怪しく思い、包囲の輪を広げるだろう。
そして、状況にまず気付くのは待ち伏せしている者たち。
私の内心の表情を(信じられないことに)読み取ったのか、フェイレートは言葉を続ける。
「だが、もしどこか一箇所でも攻撃を受けていることを連中が知ったらどうする?」
「攻撃されている場所に兵を集めます」
「なら分かるだろう」
「私が攻撃する役をするのですね」
彼はニヤリと笑う。
「平原から大群で来る兵の攻撃に耐えられるのは、私しかいないからな」
大した自信だ。
だが、彼の言葉には何とかしてしまいそうな、妙な説得力がある。
「お前の力を見せてみろ。ヘディン」
私は肩を竦め、彼と別れたのだった。
回想から戻り、私は動く。
外套を外し、枝の上を思わせない動きで、きしみさえあげずに立ち上がる。
今、私は村から拝借した暗殺者用のぴったりとしたスーツに身を包んでいる。
村長が言うには防刃はもちろん、矢などの、点の衝撃にも強い逸品だという話だが。
さて・・・
私は、木々から音もなく飛び降りた。
「レピテイト」
落下の速度を魔術で落とし、私は着地する。
そのまま高速詠唱を続けて行う。
「へイスト」
空気抵抗を極限まで減らし、その身を完全に風となし、視認できない速度まで一気に走る。
この術を極めた者であれば、この走りはそのまま衝撃波となるようにも出来る。
だが今は隠密行動。静かに、だが早く。
私は標的を見定める。標的はまだこちらに気づいていない。
次は無詠唱魔法。
「チリングタッチ」
腕に冷気がまとわりつき、それはゆっくりと私の手のひらから腕にかけて舞い踊る。
私に気づかぬ標的の背後に周り、素早く首を掴む。
変化は一瞬。
兵は一瞬で首から凍りつき、そのまま絶命する。
一瞬で凍傷に陥った喉は、断末魔を漏らすことさえ許さない。
魔術師とは、ある意味生粋の暗殺者なのかもしれない。
氷の魔術を極めた私は、ふとそんな事を考える。
あまりいい印象を持てないな・・・
だが、今はその考えを振り払う。
敵はまだまだいるのだから。
それから数分後。
私は息を切らしながら周囲を見回す。
敵兵の気配は・・・ない。
すでに数十を越す兵を闇の中で葬っている。
王国軍も進軍の途中で私の存在に気づき、部隊を密集したが、逆にそれを利用して部隊ごとチリングブレイクで完全に凍りつかせた。
代償は魔力の全放射であり、残りの魔力も少なくなっていたため私はこの魔術を選択した。
グランジェスの時とは異なり、今目の前には氷の彫像がいくつも立っている。
この魔術はもともと小規模に攻撃することよりも、大規模な範囲魔術としての色合いが強い。
私がやむなくグランジェスにこの魔術を使ったのは、この魔術でしか彼を生かして止める自信がなかったためだ。
だが、今はその手加減という名の高度な操作は必要なく、彼らを一気に殲滅するのに好都合だった。
・・・しかし、どうやらそれは失敗だったのかもしれない。
増援だ。
数十という数ではない。百は越すであろう人数が今、私の目に写る。
非常にまずい状況だ。
おそらく仕留めそこなった敵兵が仲間を呼んだのだろう。
私の武器は魔術のみ。隠密行動であるため、音を発する可能性のある武器の類は一切持ってきていない。
・・・ここまでか?
だが覚悟は決めない。私は生き残ってみせる。僅かな可能性でも足掻く。
まだ、彼の名を見つけていないのだから・・・!!
後ろへ駆け出そうとしたときだった。
「がぁぁぁぁ!!!!」
近づいてくる敵兵から、突如悲鳴が上がった。
・・・なんだ?
「大丈夫か」
一瞬身を固めたが、その声が村長のものであることに気づく。
「魔力は残ってないですがね」
どうやらあの悲鳴は彼、いや彼らが行ったものらしい。
僅かに、人の気配をそこかしこに感じる。
「貴公はなかなかの使い手だが・・・あくまで表の使い手だな」
「あくまで真似事ですからね」
「暗殺者の本当の働きを見せよう」
次の瞬間、村長の気配は完全になくなっていた。
恐るべき速度、そして気配の無さ。
初めてあったときはただの老人だと思っていたが、あの砦で音もなく私たちの近くに来ていたことを改めて思い出す。
凄腕。
アーレフ将軍とは全く違う資質ではあるが、その強さは別の方面で彼を遥かに越えるものなのかもしれない。
そして、そんな彼を長として今までついてきた村人たちもまた、そこらの兵よりも遥かに腕が立つのだろう。
森は静かであり、音は近づいてくる王国軍から発せられる金属音のみ。
だが、次第にそこから次々と悲鳴が上がる。
・・・あの増援は、哀れな結末を迎えてしまうようだ。
生粋の暗殺者たちから逃れることは、ほぼ不可能だ。
それを一度、帝国は嫌というほど味あわされている。
フェイレートやアーレフほどの腕ならともかく、もし私が彼らに襲われれば、生き残ることはまず無理だろう。
ここは彼らに任せて、フェイレートの元へ行こう。
私は邪魔にしかならないからだ。
ここは彼らの踊る場所となってしまったのだから。
蒼き石の物語 9『我が使命/白き石』
戦いの意味は最終的に目的を遂げること。遂げた者たちが生き残ることだ。
私は、そういう意味では目的を遂げた。
だが。
村へ戻ると、そこはすでに火をかけられ、建物という建物は全て燃えていた。
そして火が焼いているのは建物ばかりではない。
人だ。
見た限り、村人らしき者が何人か倒れているが、その多くはイージス王国の兵たちだ。
フェイレートは丘で戦っていたはずだが・・・
これは一体?
しかし私はすぐにこの惨状を作り出した者たちに出会う。
ザッディ帝国の紋章を胸鎧に刻み込んだ騎士たちだ。
「おお・・・貴公、生きていたか」
言葉をかけてきたのは先頭に立っていた『雷剣』グランジェス=アーソート。
「何故ここに貴方達がいるのですか?」
「アーレフ様の指示で、陛下の御身体を迎えにきた」
「アーレフ殿は?」
「あそこだ」
彼の見上げた先は丘。
そこに、猛々しく戦う一人の騎士がいた。
『竜頭の吼将軍』アーレフ=クワイエル
ここからでも分かる、凄まじき剣気。
一つ間違えれば狂気とも言える奮闘振りで、彼は丘の上で次々に敵を葬っている。
フェイレートがどんなに強くても、あくまで一人。彼を無視して通り抜けたものたちもいるようだ。
だが、そのほとんどがアーレフ将軍やグランジェスたちに討ち取られてのだろう。
とはいえ・・・・
「将軍に近づくことは・・・無理そうですね」
「ああ・・・今あの御方は、陛下の無念の思いを糧に戦っている」
愚か、とは言えない。悲しみは憎しみとほんの少し違うだけだ。
感情の矛先を変えれば、それはまさに怒りと力へ変わる。
感情は昂ぶる物。喜怒哀楽全てはベクトルが違うだけで実は同一の物だと私は思う。
老いたとはいえ、彼はその事を知っているのだろう。その感情の昂ぶりさえ利用し、彼は奮闘する。
歴戦の猛将、まさに彼はその名に恥じぬ戦いだ。
「すでに陛下の亡骸、村人も撤退した。将軍も村長もある程度敵を撹乱して勝手に引くと言われ、撤退を厳命された。貴公も引け」
すでにこちらは目的を達成しているわけか。
だが、ひとつ気になる事があった。
「フェイレートは?」
「・・・・・・・・」
沈黙の意味が分からず、私は少し困惑する。
「貴公に一つ問いたい」
「何か?」
「フェイレート殿は・・・人間か?」
何を馬鹿な、と答えようとした瞬間だった。
光が空を覆い、爆音が鳴り響いた。
そして、今。私はグランジェスが言った質問に答えられなくなった。
あれは間違いなくフェイレートの仕業だろう。
だが、剣士である彼がどうやって?
彼が光刃という特殊な力を操ることは知っていたが、あれは今までの光刃とは比較にならないほどの威力だ。
メテオという魔術が最奥義として存在する。
私は過去に、その魔術を極めた人間に出会ったことがある。
そして実際に、それを見た事も。
今の爆音はその際発生した音に比肩している。
「・・・私にも分かりませんね」
一瞬。恐怖という言葉が浮かんできたが、それはすぐに消えた。
私はグランジェスに向き合う。
「私は彼がどういう人間か知りません。だが・・・少なくとも一つだけ、確実に分かっている事があります」
「それは?」
「私は仕事に忠実で」
彼が何者であっても、関係ないことがある。
「探索者であるという事実だけです」
そう、私は『真名の探索者』
名を求め、探す者。
それがどのような結果になるかは知らないし、分からない。
だが、私達が求めているものはひとつ。
名を持つにふさわしき者たちに真にふさわしき二つ名を与えることだ。
「・・・・・・・」
グランジェスはしばらく黙り込み、不意に腰につけていた薬品を私に突き出した。
「これは?」
「フルチャージポーションだ」
フルチャージポーション。
ごく一部のルートでしか取引されない秘薬の一つだ。
その効果は高く、服用するだけで全魔力が回復と言われる。だが効果と同じく値段も高く、そうそう手に入る品ではない。
「・・・いいのですか?」
「貴様が『探索者』であると同時に、私は『騎士』だ。騎士は、『守る者』だ」
それを私に押し付けるように手渡し、彼は兵たちに振り返る。
「幸運を」
小さな声と共に、彼は走り出した。
『騎士』・・・・か・・・・
その言葉に私は微笑する。
受け取った秘薬の蓋を開け、そのまま一息に煽り空の瓶を投げ捨てる。
そして、去ったグランジェスとは逆方向に走る。
・・・走れ、走れ!!
まだ私は彼を知らない。理解していない!!
向かう場所は・・・戦場だ。
そこにあるのは死の一言だけだった。
アーレフ将軍をかわし、敵兵を乗り越え、私は丘の上に広がる死の平原を睨む。
地平線が見えないほどの大きさを持った平原は、今そこかしこに大きな穴が穿たれていた。
そして彼はいた。
彼はしっかりとした足取りで立ってはいるが、やはり多くの敵を相手にしたためだろうか。
剣を地に突き刺し、その柄に手を乗せている。
正面にはいまだ数百を越す兵が陣取り、彼を睨んでいる。
彼の全身は深くはないものの、いくつかの傷があり、出血をしている。
こんな彼の姿は共に旅を始めて、見たことがない。
だが、大勢の敵はそんな彼を。たった一人の剣士を、恐れている。
私は彼に駆け寄った。
「フェイレート!!」
「ヘディンか」
「大丈夫、ではないですね」
「見た通りだな・・・・さすがの私も、あれだけの人数となると疲れる」
周りに転がる無数の兵たちの屍を見れば、その言葉の凄まじさも理解できる。
「もうここはいいでしょう。私たちは撤退するべきです」
今前線に立っているのは驚くことにフェイレートと私、そしてアーレフの三人だけだ。
「いや、駄目だ」
「しかし・・・!?」
「あれを見ろ」
彼の視線は、正面の兵ではなく、さらに奥を見ている。
私が見たその視線の先には・・・
「増援・・・・」
百や二百ではきかない・・・あの軍勢は千をはるかに越えている。
「これほどの数を・・・イージス王国は投入してきているのか・・・」
私は、背に伝い落ちる冷たい汗を感じた。
もう駄目だ、という言葉が浮かぶ。
絶対絶命。
フェイレートさえ、数百の軍勢にここまで傷を負っているのだ。これでは・・・
おそらくエイムたちが無事撤退したとしても、この軍勢から逃れることは出来ないだろう。
「終わり・・・ですか」
「馬鹿か貴様は」
フェイレートに引く気はない。
「しかし・・・・」
「貴様はしかし、や、だが、が多い」
・・・っく・・・
「私はな」
ふと、フェイレートは言った。
「あの馬鹿皇帝に、不安はない、と言われてしまったのだ」
驚くべき事に、この傍若無人の男が皇帝の言葉を守っていることに気づいた。
「一方的で、勝手な言葉だが・・・」
フェイレートは、言う。
「私はその言葉を守ってやる・・・!!」
・・・私は・・・
・・・今・・・
少しだけ、彼を理解した。
彼は、正真正銘の、馬鹿であると。
「っく・・・くくくくく・・・・あっはっはっはっは」
「む。狂ったか?」
私は笑いを抑えられない、抑えられるはずがない。
あれほど私を悩ました彼が、実に意地っ張りで、馬鹿なのだから。
「い、いえ・・・くくくく・・・く、狂って・・・ませんよ? くくくくくく」
「・・・馬鹿か貴様は」
貴方ほどでは、と言いそうになったが、やめておく。今怪我をするような言葉は控えたほうがいい。
ああ・・・それにしても、ここまで笑ったのは、何年振りだろうか!!
だが、どうやら正面にいる敵兵たちを、私は笑ってしまったことで挑発してしまったようだ。
「さ、て・・・どうしましょうか?」
挑発されたと勘違いした王国兵の殺気が膨れ上がりつつある。
「ふむ・・・・・」
フェイレートは静かに目を閉じる。
私はそれを邪魔しない。いや、邪魔させない。
正面の兵をかき分け、騎士らしき人物が馬に乗りこちらへ突進してきた。
私は秘薬によって魔力が戻っていることを確認し、無詠唱を行う。
「ダイヤモンドカノン」
私の前に数十の先端が鋭く尖った氷塊が現れ、馬もろとも騎士を串刺しにする。
ウォーターキャノンの強化形。チリングブレイクと同じく、私のオリジナルスペル。
炎の魔術を始め、地、光、闇の魔術を一切使えないという代償に、私は全ての氷系魔術の強化をすることが出来る。
そして、私の魔術を見てフェイレートは何か思いついたようだ。
「ヘディン」
「なにか?」
「お前、氷の魔術は得意か?」
「ええ」
その即答に彼はニヤリ、と笑う。
最初は不気味に思えたが、この場では力強い限りだ。
「今から私が言う事が出来れば・・・私は当然として、貴様もあの皇女や村人、騎士共も助かる」
「ほう?」
「今から私のとっておきを見せてやる。だから貴様は『あいつらを全員止めろ』」
・・・馬鹿な、とは言わない。無茶だ、とも言わない。
彼がそれを求めているのなら、しろと言うのなら、私はやってみせよう。
私は暗殺者用のスーツにつけていた小型のバックから、瓶に入ったモノを出した。
『古代竜の心臓』
公社から買うことが出来る、最高級の品。手に入れるだけでも厄介な手順を踏まなければいけない上、その効果はたった二分。
しかし、効果は絶大だ。
「行きますよ」
「ああ、『頼む』」
その言葉に、私は喜びに近いものを得る。なんとも言えない気分だ。
私はソレを握りつぶし、湧き出た血を飲む。
そしてその心臓を放り投げ、印を作る。
『我が声を聞け 水と風の英霊よ』
普段なら、無詠唱で行う魔術であるが、言葉を使うことによって、ここにいるほぼ全ての英霊たちに呼びかける。
『我が望むは氷の大地 我が望むは死の表現』
古代竜の心臓の効果がなければ、今ここに現れた多くの英霊、精霊たちに押しつぶされていただろう。
『我が望むは汝の世界 我が望むは死の氷原』
アイススタラグマイトという魔術が存在する。
それは自分の足元に急速に大きくなる氷柱を氷霊の力で召喚する。この術はそれの応用だ。
最後の詠唱を終え、私の準備は終わった。
「ここを中心に全てを氷原に変えます」
「十分だ」
フェイレートは首からペンダントを出した。
そこにあるのは・・・白い石・・・いや・・・ダイヤモンド?、
「力をよこせ、ホワイト・ダイヤモンド」
その瞬間。彼の身に光が現れる。
「お前の持つ力を私に渡せ!!」
それは力ある光。
『我が持つ力は 光の如き速度なり』
それは強く意思持つ力。
「上等だ」
これは、この力は・・・・!?
まさか・・・まさかそれは!?
『天上界に住んでいる6つの元素、火、水、風、大地、光、闇の神獣たち。
この神獣たちは、天上界に居住し、自分の石を持っている。
それぞれ、赤、青、緑、黄、白、黒の6つがあり・・・』
この世界にある伝承。その一文が、私の脳裏をよぎる。
一瞬英霊たちとの交信が途切れそうになるが、なんとか堪える。
光が戻った時、そこにいたのは外套に身を包み、白い軽鎧を身につけたフェイレートだった。
「ヘディン」
それが合図だった。
私は英霊たちを、解き放つ。
「『シルバーインパクト』」
その瞬間、私を中心に大地が凍りついた。
速度で言えば人が走るよりも遥かに早い速度で、王国軍を囲むように、円を描くように。
すでに一分は過ぎているが、すでに厚みを持った氷の大地は増援たちのもとに達している。
転倒するイージス王国の兵や騎士たち。
氷原の世界は、完成した。
だが、私はそこまでだった。
私は力つき、氷原に倒れる。
ま、まずい・・・意識・・・が・・・――――――――――――
そして、最後に私が見たのは・・・
『真の剣』を振り上げ、兵たちに飛び込むフェイレートの姿だった。
真名の探索者 最終話『其の名は』
私が砦のベットで意識を取り戻したとき、すでに戦いが終わって二日経っていた。
戦いが終わったとき、私はフェイレートに抱えられ戻ってきたという。
今部屋には私一人、物思いにふけっていた。
ある意味でこの戦いは新たなザッディ帝国の始まりなのかもしれない、と。
グランジェスとアーレフ将軍からあの戦いの結果を教えられたとき、私はそう感じた。
あの戦いで、イージス王国精鋭部隊二千は・・・実質フェイレート一人に全滅させられていた。
そう、全滅だ。
敵方に生存者は・・・ない。ほぼ全ての兵や騎士が胴を一断されていたという。
逃走しようとしたイージス王国軍は、私が作り出した氷原に足をとられてしまい、逃亡者もいない。
徹底的な殲滅。
今、村人たちや騎士の一部が平原で大規模な火葬が行われているという。
それを話すグランジェスの顔は、どこか蒼白な色が顔に出ていた。
当然だろう。私が知る限り、一人で一軍を全滅させる・・・そんな話は聞いた事もない。
おそらく今騒ぎになってないのはアーレフ将軍がその一部始終を見ていたためだろう。
彼はあのとき平原へ続く丘にいたはずだ。
そしてそれは将軍と会ったときに確信へ変わる。
「貴公と、あの白き剣士に感謝する」
様々な意味を含めた一言。やはり彼も何かを察しているのだろう。
ザッディ帝国から見れば、この勝利はこれから始まる帝国復興最初の一手として大成功と言えるかもしれない。
だが、グランジェスを始め、幾人かの人間はフェイレートが人間であるのか疑っている。
当然の話だ。
それでも表向き、彼らはフェイレートと私に感謝した。
実際にあの戦いを目にしていたアーレフが沈黙したことも感謝された要因のひとつかもしれないが。
そしてこの二日でハーヴェイ皇帝の葬儀は、静かに行われたという。
同日、エイムを盟主としたザッディ帝国復興軍が誕生した。
今、この古びた砦を中心に、兵を募り、ぞくぞくと人が集まっている。
そして、フェイレートは・・・
「ここにいたのですね」
砦に近い丘にある高台。ここに、皇帝の墓はあった。
帝都に顔を向ける形で、いっそ質素とも思えるほどに簡素な作りをした墓だった。
そこに、彼はいた。
「ヘディンか」
彼は皇帝の眠る墓地に、一輪の白い花を持って立っていた。
「・・・それは?」
「手向けだ」
彼はその花を、大量に供えられた花の一番上に投げ置いた。
しばし、時が経つ・・・
「実はな」
不意に彼はポツリポツリと話出した。
今回の依頼を受けた理由。
この村にザッディ帝国の者たちがいることを、彼はすでに知っていた事。
しかもそこから依頼が来たことで、ここに来るよい口実になった事。
そして・・・
「すまなかったな」
私を巻き込んですまなかったと謝罪した事。
「うすうす気付いていると思うが・・・奴と私は知り合いだった」
過去に、ハーヴェイ皇帝がまだ皇子であった時に、何度か彼と会う機会がり、交流を持ったという。
当時、アーレフ将軍がまだ兵長として動いていた時期、ハーヴェイ皇帝は権力争いの最中、実質一人孤立して他の兄弟たちと戦っていたという。
ハーヴェイ皇子は帝族らしからぬ豪胆さと、誰にも平等で下位貴族や平民に大変な人気があった。
そして、そんな彼に興味を惹かれたフェイレートがハーヴェイ皇子に協力し、裏で色々と動いた。
どうみても私より年下にしか見えない彼が、どうしてそんなにも若い容姿であるか、なにより、その力をどこで手に入れたか・・・
私は尋ねなかった。
理由は、私らしくないかもしれないが・・・なんとなく、だ。
「奴はな」
静かに皇帝の墓を見て呟く。
「私を化け物だとは言わなかった。私の力を見て、それでも人として扱ってくれた」
「だからエイム皇女に手助けを?」
「違うな」
「では何故?」
「あの時、ハーヴェイに手を貸したのも、皇女の姿がハーヴェイに重なって見えたのも事実だ。だが・・・」
そこで空を見上げるフェイレート。私もつられて空を見上げた。
「蒼い、な」
「ええ」
・・・はぐらかしたつもりなのでしょうけど・・・
私はなんとなく分かった。彼が手を貸した理由を。
彼は、ハーヴェイ皇帝や、エイム皇女の姿を通して誰かを見たのだろう。
誰かは知らないが・・・その人物は大した人物なのだろう。彼を動かすのだから。
「ヘディン」
「なんでしょうか?」
彼は正面から私を見る。
黒いレザーパンツと皮の鎧。
腰にシンプルなデザインをした刀身に鍔なく、柄の部分にだけ持ち手を傷つけぬよう皮で覆われた長剣を帯びた強き白の剣士が、私を見る。
「私の二つ名は決まったか?」
「・・・ええ」
そう。今回の件で、そして先ほどの会話で、私はなんとなく、彼の二つ名に近いものを作ることが出来た。
「貴方は、貴方自身が『王』であり、『皇帝』です」
『王』としての、『皇帝』としてのカリスマと、全てを背負う『覚悟』という名の資質。彼は、それを持っている。
「しかし、『王』と『皇帝』は誰かを率いる者。それは貴方に似合わない」
そう、彼は部下を持たない。孤高に戦う、たった一人の王。
「ではなんだ?」
息を吸い込み、緊張を落ち着ける。私は彼に名を渡すのだから。
「貴方は『剣』だ。そう、言うなれば・・・」
『皇帝剣』(カイザーシューベルト)
・・・思う事がある。
この名は・・・
傑作かもしれない、と。
「・・・・・・」
黙って私の顔を見つめるフェイレート。
この名を、彼は受け取ってくれるだろうか?
だが、私の懸念はすぐに消える事となった。
「上等だ」
ニヤリ、と彼は笑う。そして・・・
「暫定気持ち、だがな」
ああ、やっぱりこの男は傍若無人だ。こうなればもう少し着いてまわった方がいいかもしれない。
ため息を吐きつつ、私は彼に尋ねる。
「で、貴方はこれからどうするのですか?」
「もう少しだけ、奴の娘を見てやろうと思う。アーレフくらいしか使える奴がいないのも心配だからな」
「貴方の口からそんな殊勝な言葉が出るとは、皇帝もびっくりでしょうね?」
「違いないな」
そして二人して、いや、きっとハーヴェイ皇帝も笑っているだろう。
三人で、私達は大声で笑う。
エイムたちはこれから多くの困難にぶつかっていくだろう。
軍の編成、人材や武器の確保、兵糧の問題。
なにより、今この国はイージス王国の領土。
王国がこのまま手を咥えて待っているわけがない。おそらく、戦いになるだろう。
アーレフやグランジェスも、もしかしたらこの戦いの最中で死ぬかもしれない。
だが・・・
私はもう少し彼を、そしてザッディ帝国の行く末を見ていようと思う。
この強き皇帝剣を。エイム皇女たちを。いまだ知らない彼を知り、いまだ知らない多くの者たちを見て・・・
多くの名を知るために。
空蒼く、雲流れ、その先に待つものは・・・なにがあるのだろう。
この物語は、蒼き石の女性を追いかけることになる前に出会った、六年前の物語となる。
『終』
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