『自由死刑』


島田 雅彦著

この物語の主人公は今から一週間後に自殺をすると決めてしまう。
そうなると彼に残されたのは1週間と言う時間と、銀行に預けてある100万円だけである。
そのお金を使ってまずは酒池肉林。
前の恋人にあって、ずっと憧れたアイドルを誘拐する。
彼がその一週間で行ったことは、圧倒的に非日常であるが、まったくどろどろとしたところがなく、一貫して冷静に『死』に向かっている。

これはぼくなりの解釈であるが、「死を覚悟する」ことでしか人間は自由になれないのではなかろうか。
「やけっぱち」の論理=「精神分裂症」の患者の言動。
この方程式が成り立つとしたら、死を覚悟した人間は世界を超越する。
この物語ではしばしば聖書の中のキリストにリフレクトすることにより、婉曲的に主人公の超越性を表現しようとしている。
しかも、ご丁寧なことに、最後の章で、自殺した主人公の復活までも記されている。
「そこ」に作者の『クール』になれきれない何かを垣間見たような気がする。


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