「さ、田中、言え。どないするんじゃ、この日本を」
「戦争を終わらせなければなりません」
「どないして戦争を止めさせるんじゃ。おい、どないすんじゃ。言え、言えーっ」
田中は追い詰められた。もう死んでしまいたいような気持ちになった。
玄峰の迫力の前に、絶体絶命の窮地に立たされたと言っていい。
そのとき、予想外のことが起きた。老師のほうが、答えを言ったのだ。
「いますぐ、日本は無条件で負けることじゃ」
呆然とする田中に対して、玄峰はさらに言った。
「日本は大関じゃ。大関は勝つもきれい、負けるもきれい。日本はきれいに、無条件に負けることじゃ。
これは命を懸けた人間が五人いればできる。
お前、できるか? いま、本土決戦じゃ、聖戦完遂じゃと騒いでおる輩がおるが、
そんな我慢や我執にとらわれておったら、日本は国体を損ない、国家は潰れ、国民は流浪の民となるぞ」
この当時、日本が負けるという予測をひそかに話していた者などいくらでもいた。
しかし、 師たる身で、弟子の前で「日本は無条件で負けるべきだ」などと大声で語る玄峰の大胆さに、
田中は舌を巻いた。
それに、「きれいに負けなければ日本は国体を損ない、国民は流浪の民となる」という言葉にも衝撃を受けた。
この人は真に超越した人だ―――。
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