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「明日、渋谷でセミナーがあって、職場の人に誘われたから、一緒に行ってくる」その日の夜、自宅で夕食中に、妻が急に言い出した。明日は土曜日だけど、僕はどうしても出勤しなければならない用事があった。「明日、出勤しないといけないんだけど……美春はどうするんだ?」「私が行きがけに実家によって、預けるから大丈夫」「そう……」「え~、おばあちゃんち行きたくない~」娘は、以前は喜んで妻の実家に預けられていたが、最近は自分がいない間に両親がケンカしているんじゃないかと気になるらしい。「仕方ないでしょ。じゃぁ、美春はひとりでお留守番する?」妻がちょっと強く言うと、娘はいじけて、ダイニングを離れて、リビングのソファーに突っ伏してしまった。僕は箸を置いて、娘のそばへ行き、抱っこした。「ごめんね、ミー、パパお仕事なんだ」「一日だけがまんして?」娘は小さく頷いて、手のひらで涙をふいた。
2009.06.28
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「帰って来なかったんですか?」そう言って、今井さんは、灰皿にタバコの灰を落としかけた姿勢で固まった。「うん、帰ってこなかったよ……」「誕生日なのに?」「そう、誕生日なのにね」僕は1月の寒空に向かって、タバコの煙を吐き出した。煙はゆっくりと空に向かって昇って行き、拡散して行った。僕の心も、微妙に拡散気味で……。今井さんのタバコから灰が落ち、水を張った灰皿から「ジュッ」と音がした。「なんとなく……」今井さんは次の言葉を捜しているようで、灰皿をじっと見つめたままだ。「なんとなく?」僕はその先を促した。「リサーチしたほうが良いのかもしれませんね」「……リサーチ……ね」正直、どうなんだろう。あまり、そういう疑いは抱いていないのだけれど……。「どうなんだろう……ね」「どうなんでしょうね」僕は今井さんの整った顔立ちを眺めていたけれど、彼女の表情からは、何も読み取れなかった。
2009.06.04
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-ルリさん先日はごめんなさい。ルリさんに愚痴を言っても仕方が無いのに、なんだか納得がいかなくて……。「雨の日もあれば、晴れの日もある」って言う、ルリさんの言葉、納得はできます。でも、最近はずっと雨が続いているようです。JUN-
2009.06.01
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-今日、モルヒネの錠剤を処方された。先生が、飲み方とか、副作用とか説明してくれたけど、全然頭に入らなかった。「あぁ、もうすぐ、私は死ぬんだな……」そんなことを、ぼぉっとした頭で考えてた。死期が近づくと、人は悟りを開いたようになる。前にどこかで、そんな話を聞いたことがある。私には、まだ悟りは来ない。もっと生きたい。幸せを感じたい。運命の人と出会って、結婚して、子供を産んで……。そういう、普通の女の人が経験する人生を、どうして私は過ごせないの?なんで?
2009.05.27
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なんで、僕はルリさんに愚痴を言っているのだろう。彼女が励ましてくれるからだろうか……。それにしても、結婚もしていない人に向かって「夫婦ってなんだ?」みたいな質問をして、僕はよっぽど、切羽詰っていたみたいだ。いつも冷静でいるつもりだったけど、現実にはそうでもなかったって事だな……。確かに、夫婦には、いいときもあれば、悪いときもあるのだろう。でも、悪いときのほうが多かったら、それは気が滅入るよな……。僕はルリさんからのメールに、どう返事を書けば良いのかわからず、書いては消し、書いては消し、した後、結局その日は返事を書かなかった。
2009.05.22
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-ルリさん 夫婦とか、家族とか、なんだかよくわからなくなってきました。 確かに、「せっかく祝ってあげようと思ったのに」って思いました。 でも、そう思って当然じゃないですか? なんだか、裏切られたような気分です。 おまけに妻は、僕らを放置して帰って来なかったことに対して、「ごめん」のひとことも無 いんです。 まるで、何事も無かったかのようです。 JUN--JUN さん私は結婚していないので、夫婦のことはよくわかりません。でも、両親を見ている限りでは、夫婦っていつも順風満帆なわけじゃないんだな、って思います。雨の日もあれば、晴れの日もありますよね。 ルリ-
2009.05.06
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-新着メッセージがありますJUNさん こんばんはきっと、奥さんは楽しくて仕方なかったんでしょうね。「せっかくお祝いしてあげようと思ったのに……」なんて思ってはダメですよ。人のためを思ってした事に、見返りを求めちゃだめです。もし、見返りを求めたら、それは人のためじゃなくて、自分のためだったって事です。 ルリ -
2009.04.10
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「ミィ、そろそろ寝ようか」時計は十時を回っていた。そろそろ寝かせないと、明日の朝起きてくれない。「やだ、ママが帰ってくるまで待ってる」そう言いながら、娘は眠そうに目をこすり、大あくびをした。「多分、帰ってくるのは夜中だよ。パパはそんなに待ってられないよ」僕は歯磨き粉のついた歯ブラシを子供に渡し、自分も歯を磨き始めた。娘は素直に歯を磨き始め、僕はだめもとで、もう一度妻の携帯に電話をしてみた。10回呼び出し音を数えて、20回まで数えて、あきらめて電話を切った。子供の歯を仕上げ磨きしてから、ベッドに潜り込んだ。僕は終電の時間までは起きているつもりだったけど、添い寝しているうちに、やっぱり眠ってしまった。目覚ましのベルで跳ね起きて、隣のベッドを見たけど、妻はいなかった。妻が寝ていた形跡も無い。ベッドから起き出して、家の中を一通り見てみたけど、やっぱり妻の姿は無かった。何もかも、昨日寝たときのまま。妻は帰ってないのだ。昨日は、誕生日だったのではないのか?祝ってあげようと待っていた、僕や娘はなんなのだ?
2009.04.09
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「今日は、奥さん誕生日ですよね」いつものように、昼食後の喫煙所で今井さんに話しかけられた。 「あぁ、そうだね」 「プレゼント、何か買いました?」 今井さんは興味津々と言った風に尋ねる。 「新しいオーブンが欲しいって言ってたから、この間の日曜日に買ったよ」 「あら、結構な出費ですね」 「まぁ、そろそろ買い替え時ではあったからね……」 「でも、色気が無いですね」 「うん。全くないね」 僕は、笑いながらタバコの火を消した。 「今日は、定時で帰って、子供を迎えに行かないとなぁ」 「今日は家族そろって外食ですか?」 「多分ね」 会社を出て、妻にメールをしたが、返事が無かった。 外食をするつもりだったが、特に予約をしているわけじゃない。 今日はどうするつもりなのだろう。 昨日も、今朝も、特に何も言っていなかった。 子供を迎えに行った後、携帯に電話をしてみたが、出ない。 自宅に戻った直後にメールが入った。 - 職場の同僚がお祝いしてくれるって言うから、ちょっと飲んで帰ります。 - 外食は中止だ。 僕は子供を連れて駅ビルの中のケーキ屋へ行き、ケーキを買って帰った。 「おなかすいたよぅ」 8時を過ぎて、確かに僕もお腹がすいた……。 でも、まさか妻の誕生日に子供とふたりだけで外食というわけにもいかないだろう……。 仕方ない……。 ワンパターンだけど、僕はパスタを茹で、ピザを焼いた。 - 先に食べてるからね - 妻にメールを送ったけど、返事は無かった。
2009.04.04
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- 夢から覚めた時、やっぱり私は泣いていた。 物心付いたときから、何度も見ている同じ夢。 大切な人が死んでしまう夢。 病室に横たわる彼。 泣きじゃくる私。 私の涙を優しく拭う、彼の指先の感触。 妙にリアルで。 切なくて。 悲しい夢。 以前は、多くても月に1回程度だったのに、最近は2、3日に1回程度のペースで見ている。 私の命が、消えかかっている証拠かな。 なんて……。 私は涙を拭いて、窓を開けてベランダへ出た。 今夜は月が明るい。 月の光に照らされて、桜並木がよく見える。 寒さに凍えている桜も、あと3ヶ月もすれば、きれいな花を咲かせる。 桜……見られるのかな……。 それまで、生きていられるのかな……。-
2009.02.14
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「結局、正月は子供とふたりで過ごしたよ」会社の喫煙所で、いつものように今井さんにウィンドブレーカーを奪われながら、僕は今井さんに冬休みの報告をしていた。「そう……」今井さんは、しばらく言葉を捜していたようだったけど、結局何も言わず、短くなったタバコを吸殻入れにそっと落とした。ジュッ、っと火種が消える音がした後も、今井さんはじっと吸殻入れを見つめて黙っていた。僕がタバコを吸い終わった後、社内に戻るエレベータの中で、今井さんは増えてゆく階数表示をじっと見つめたままつぶやいた。「家族って、なんでしょうね……」僕はその答えを持ち合わせておらず、何も言えなかった。でも、ただ、一緒に住んでいるだけでは家族とは呼べないのだろうな、とは思った。
2009.02.12
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それから何日か経って、短い冬休みに入った。妻はシフト勤務だから、暮れも正月も、ほとんど仕事をしている。普段から休みの日でもセミナーだ、勉強会だと言って家にいない。娘も、休日に母親が家にいない事について何も言わない。「何も言わない」という事が「なんとも思っていない」とイコールではない、という事くらい、僕にもわかっている。娘だって、休みの日には家族そろって出かけたいだろう。元旦から妻は夜勤で、僕は娘とふたりで、僕と妻の実家をめぐった。妻は夜勤明けに、妻の実家で合流したものの、夜には「幼なじみと飲みに行く」と言って出かけてしまった。義母は「遊べるときに、遊んでおいたほうがいい」なんて言っていたが、この調子では、妻の「遊べるとき」は一生続くんじゃないかと思ってしまう。義父や義母の相手は娘がしてくれるものの、妻の親類まで押し掛けて来ている妻の実家で、僕は居心地が悪く、落ち着かなかった。義父の薦めるままに、飲めない酒を飲み、僕は早々に酔いつぶれて、眠ってしまった。妻は明け方に帰ってきたようで、昼過ぎまで眠っていた。自宅へ帰る電車の中でもほとんど眠っていたし、家に着いた後も、やっぱりすぐに寝てしまった。ほぼ二日間寝ていなかったのだから、無理も無いといえばそれまで。その日、妻は結局起きなかったが、翌日僕が目を覚ました時には、既に仕事へ出かけた後だった。正月の三日目になって、僕は娘を連れて初詣へ行き、おみくじを引き、露店でチョコバナナを買い、甘酒を飲み、お参りをした。娘が何をお願いしたのか、結局教えてくれなかったが、僕はと言えば「今年は心安らかに過ごせますように」なんて事を願ったのだった。結局、今年も妻はおせちも雑煮も作らず、あまりお正月気分を味わう暇も無いまま、冬休みが終わり、仕事が始まってしまった。僕がブログに書いていた小説は、もちろん主人公の失恋で結末を迎え、そしてネタ切れを迎えた。自分の失恋については、全部書き切ってしまったのだった。そして僕は、ブログに小説ではなく、日記を書くようになった。
2009.02.07
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-新着メッセージがありますJUNさん こんばんはメールありがとうございます。確かに主人公の彼氏は同級生だから、彼女が死んでしまった時に「嘘をついて別れたんだ」ってばれてしまうと思います。その時に、別れてしまったことを後悔するかもしれません。でも、“自分の「彼女」が死んでしまった”と、“「元カノ」が死んだ”では、心の傷の深さが違うのだと思います。彼女はそれを心配して、自分から別れを切り出そうとしています。本当のことを話したら、別れてくれない。別れたくないけど、別れなきゃいけない。嫌われても、恨まれてもいいから別れなきゃいけない。でも、JUNさんの言うとおり、嘘をつくなら、どんな嘘でも一緒ですね。ルリ -結局、ルリさんの小説の中で、ふたりは別れてしまった。「他に好きな人が出来た」という、単純で、明快な理由で。
2009.02.01
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- 秋月さん 私なら素直に言いますね。 全部話した上で、「だから別れましょう」って言います。 でも、その時点では、別れられなくてもいいと思います。 死に行く人のそばにいるのは、とても辛いことです。 相手が辛くなってきたら、その時にもう一度「別れましょう」って言います。 今井 -なるほどね。そういう考え方もあるか……。でも、これではルリさんからの質問の答えにはならないな……。結局は自分で考えなきゃダメって事だ。その日の夜、僕はルリさんへメッセージを送った。- ルリさん 僕ならば、自分のことを思って嘘をつかれるよりも、本当のことを言ってくれたほうがいい。 そこで、別れるか、別れないか、と聞かれれば、多分別れないだろうとは思います。 嘘をつかれるのなら、どんな嘘でも同じじゃないでしょうか。 主人公の彼氏は同級生なのだから、いつか嘘がばれるでしょう? その時の事を考えたら、正直に伝えるべきだと思います。 ごめんなさい。 全然答えになってないですね。 JUN -送信ボタンをクリックした後、ブラウザを閉じ、PCをシャットダウンした。結局は今井さんと似たような意見になってしまった。でも、実際そう思うのだから仕方が無い。コタツとリビングの照明を消して寝室へ向かったら、娘が僕のベッドのど真ん中に寝ていた。僕は娘を起こさないようにずらして、娘の横に滑り込むと、昨日の寝不足のせいもあって、一瞬で眠りに落ちた。
2009.01.30
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いつものように目覚ましの音にたたき起こされたものの、さすがに深夜のお迎えの後では、そう簡単に体が起きてくれない。とにかく根性だけで起き上がり、リビングの暖房を付け、いつものようにタバコを持ってベランダに出る。今でも釈然としないが、いつまでもぐだぐだ言っていると逆切れされて、子供にまであたり始める。妻はそういう女だ。とりあえずほかの事を考えて、頭を切り替えたほうがいい。「あ……」昨日のルリさんからのメッセージに返答していなかった。そう、返事を考えているときに、呼び出しを食らったのだ。彼女の小説の主人公は、どうやって彼と別れればよいのか……。いや、ルリさんは「もし僕が、小説の主人公の彼氏だったら……」と言っていたのだ。僕の考えを、そのまま答えればいいわけだ。もし、僕なら……。気が付いたら、タバコが燃え尽きていた。僕はタバコを吸殻入れに放り込み、朝の準備を始めた。昼食の後、屋外にある喫煙所へ行くと、今井さんが手を振っていた。うちの会社には、社内に喫煙ルームは無い。雪が降ろうが、台風が来ようが、ここで吸うしかない。いつものように、会社のロゴ入りのウィンドブレーカーを奪われ、寒い寒いとつぶやきながらタバコに火をつけた。「今井さんはさ、自分から男を振ったことってある?」「なんですかそれ?」「いや、まぁ、どうなのかな……と」彼女は僕をじっと見詰めながら、顔を近づけてきた。僕は自然と後ろにのけぞってしまう。「愛人と別れたいんですか?」彼女がボソッと小声で言った。「いや、そういうんじゃなくて……、てか、愛人いないし……」「わかってますよ、冗談です」彼女はそう言って、まだ長いタバコを灰皿に押し付けて消した。「そのくらいありますよ」「そういう時は、なんて言って別れるの?」「私の場合、別れるときは、その相手が嫌いになったときだけです。素直に『嫌いになった』って言います」「そっか……」僕もタバコを消し、今井さんと一緒に喫煙所を離れた。「もしもさ……」エレベーターの中で僕が口を開いた。「本当は別れたくないんだけど、事情があって別れなきゃならない。でも、相手に事情は話したくない。そういう時って、なんて言って別れる?」「……事情の種類によりますね」「たとえば……、自分が病気で、もうすぐ死んじゃうとか……」「それを相手に知られたくない……って事ですね?」「そういうこと」エレベータを降りた後、今井さんはいつものように、脱いだウィンドブレーカーを僕に着せた。社内の人に見られたら誤解を招きそうだが、彼女は一向に気にしない。社内の人が見ていても、彼女は気にしない。あるいは、故意にやっているのかもしれない。社内で言い寄ってくる男に対するけん制みたいなものかもしれない。「質問が難しすぎるのでゆっくり考えます。後でメールしますね」彼女はそう言って手を振り、自分のデスクへ戻って行った。
2009.01.28
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駅前のロータリーに車を停めると、妻が駆け寄ってきて、すぐに乗り込んできた。かなり酒臭い……。「ごめんね、ありがとう」そう言われたが「あぁ」と答えただけで、僕は車を発進させた。「ごめんねぇ、みぃちゃん」妻はそう言って、寝ている娘にほおずりしているようだが、娘が嫌がっているのがバックミラー越しに見える。妻はその反応が面白くなかったのか、むすっとして外を眺めていたが、そのうち眠ってしまったようだ。やはり迎えに来るべきではなかったのだろう。理不尽だと思いながらも、妻の言いなりになっていることで、妻を甘やかせているし、自分自身にストレスを溜め込むことになっている。頭では分かっているのに、妙な義務感みたいなものが、僕をそうさせる。誰かのために尽くすことだけが人生ではないはずなのに……。
2009.01.27
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-新着メッセージがありますJUNさん、こんばんはもし、JUNさんが、私の小説の主人公の彼氏だったら、病気の事を知ったら別れないですよね?どういう風に言われたら別れようって思えますか?ごめんなさい。男の人の考え方って、よくわからなくて……。ルリ -ルリさんの小説の主人公は、メッセージにもあったとおり、どうやって彼氏に別れを切り出せばよいのか分からず、悩んでいる。もし、僕が彼氏の立場だったら……。病気のことを知らずに別れたら、後で知った時に後悔するだろうな……。でも、病気のことを知らされたら、なおさら別れないだろうな……。“もし”の話とはいえ、真剣に考えていたら、キッチンカウンターの上に置いてある携帯が鳴った。どうせ妻が「終電逃した」とか、その程度のものだろうと思ったが、やはり妻からだった。「もしもし」僕はあからさまに不機嫌な口調で電話に出た。「ごめん、終電逃しちゃった」やっぱり……。「それで?」妻が何を要求してくるのか分かっていたけど、あえて聞いてみた。「迎えに来て……って言ったら怒るよねぇ」「美春はどうするんだ? とうの昔に寝てるぞ」「そうだよねぇ……、でも、そのままにしておいても起きないんじゃない?」「……」妻を会社まで迎えに行っても、車で往復1時間程度だ。多分娘は起きないだろう。でも、もし、何かの拍子に目を覚まして、家に誰もいなかったらどうするのだ。「多分、起きないだろうけど、ひとりで置いては行けない」「じゃぁ、いいよ、タクシーで帰るから」今度は妻がキレ始めた。なんなのだ。「わかったよ、迎えに行けばいいんだろ!」電話口に怒鳴って、返事を待たずに電話を切った。とにかく服を着替えて、寝ている娘に靴下をはかせ、パジャマの上からダウンのロングコートを着せて抱きかかえた。「ごめんね、ママ迎えに行かなきゃいけなくなっちゃった」娘は迷惑そうに顔をしかめながらも、抱っこされたまま眠ってしまった。僕は娘を抱っこしたまま家を出て、玄関の鍵を閉め、エレベータの下りボタンを押した。マンションの駐車場へ行き、娘を後部座席のジュニアシートに座らせ、シートベルトをする。「くまのぷーさん」のクッションのジッパーを開くとブランケットになる。それを娘にかけてやり、ため息をついてから運転席に座り、エンジンをかけた。なにもかも理不尽だ。怒りに任せてアクセルを踏み込みそうになるのを抑えながら、僕は妻の仕事場のある街に向かった。
2009.01.24
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娘をお風呂に入れた後、ドライヤーで髪の毛を乾かしてやってると、娘が寂しげに口を開いた。「ママ、今日も飲み会なの?」「うん、そうだよ」「ママはダメ人間だね……」「ダメ人間? どこでそんな言葉覚えたの?」「おばあちゃんが言ってたよ。お酒ばっかり飲んでるのはダメ人間なんだって」「そっか……、ダメ人間か……」本当なら「ママはダメ人間じゃないよ」って、フォローしなければいけないのだろう。でも、6歳の娘の口から「ダメ人間」という単語が出てきた事が少なからずショックだったし、否定する気持ちよりも、同意する気持ちが強くて、結局フォローするタイミングを逃してしまった。一緒に歯磨きをして、仕上げ磨きをしてやって、ベッドに入った後、絵本を読み聞かせ、添い寝する。妻がいても、いなくても、これは僕の仕事になってしまった。以前は妻が添い寝した事もあった。でも、最近はほとんど無い。娘も「ママと寝る」と言わなくなった。娘が寝息を立て始めた。時計を見たら、ちょうど9時半……。10分待ってからベッドから出よう。すぐに出ると、娘が起きてしまうから……。目が覚めたら12時を回っていた。また撃沈してしまったらしい。このまま朝まで寝てしまおうかと思ったけど、メールくらいはチェックしたい……。一度は寝てしまった体と頭を、もう一度起動させて、ついでにPCも起動……。今日はブログは書けないな……。そう思いながらも、ブログの管理画面を開くと、メッセージが来ていた。
2009.01.21
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「お疲れ様!」PCをシャットダウンして、急いで会社を出た。今日は部署内で軽い飲み会があるのだけれど、僕は保育園へ娘を迎えに行かなきゃならない。妻は今日は会社の勉強会があって、お迎えに行けない。多分その後は飲み会で、また終電なのだろうけど……。正直、不公平だとは思う。妻の仕事はストレスが溜まるのは理解しているし、それを発散する必要があるのも分かる。でも、その分僕のストレスが溜まるのだと言っても、妻は理解しない。では、どうやってストレスを発散すればいいのだ、と逆に詰め寄られる。飲むなとは言わないが、5時間も6時間も飲んでいるのは異常だ、程度をわきまえろと言っても、どうも理解してくれない。帰りの急行も朝の通勤ラッシュと変わらず混んでいて、さらに僕のストレスを増加させる。まったく自分の力で立とうとしない、隣のサラリーマンの体重を支えながら、心の中で悪態を付く。きっとこんなシチュエーションで「お客様同士のトラブル」が起こるのだろうな……。娘を連れて家に帰ると、夕食が準備されてなかった。いつもなら妻が出勤前に準備していくのだけれど、今日は時間が無かったらしい。「スパゲティでいい?」娘に聞くと、「カレーがいい」と言うので炊飯器の中を確認したけど、見るまでもなく中身は空っぽで……。「今からご飯炊くと遅くなるから、スパゲティにしようよ」「じゃぁ、みぃもお手伝いするー!」娘はそう言って袖をまくり、水道で手を洗い始めた。娘に手伝わせると却って時間がかかるのだけれど、多分、これも育児というものなのだろう。僕は軽くため息を付いて、パスタ鍋に水を入れ、火にかけた。冷蔵庫からレタスを取り出し、娘に水道で洗わせ、ちぎってお皿に並べるように指示。その上に洗ったプチトマトを乗せさせ、その上からドレッシングをかけた。その、いい加減なサラダと、フォークとスプーンを娘にテーブルに持っていかせる。茹で上がったパスタを皿に取り、茹でた後のお湯にパスタソースをパックごと放り込む。5分ほど加熱した後に、パスタの上にかけて出来上がり。一応妻の分も用意したけど、多分食べないだろう……。「みぃは、上手にスパゲティがくるくる出来るようになったね」娘は左手に持ったスプーンの上で、右手で持ったフォークをぎこちない手つきで回している。「うん。 みぃはもうすぐ小学生だから、上手にくるくるできるよ」そう言って嬉しそうに笑った。
2009.01.18
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オフィスに着いてPCの電源を入れた後、給湯室にコーヒーを取りに行くと、庶務の今井さんが来客用のコーヒーをいれていた。彼女は黙って僕の手からマグカップを奪い取ると、いれたばかりのちょっと高級なコーヒーをなみなみと注いだ。当然、従業員用の安物ではない。「秋月さんは、年末年始はどうされるんですか?」彼女はそう言いながらマグカップを僕に渡し、トレーに並べたカップにコーヒーを注ぎ始めた。「なんにも予定なし」僕はそう答えてから、マグカップからコーヒーをひとくち飲んだ。今年も子供と二人で初詣かな…。「また娘さんと二人っきりのお正月ですか?」そう言って彼女はコーヒーカップの並んだトレイを持ち上げて、僕の顔をまじまじとのぞき込んだ。「…多分…そうかな」彼女の整った顔立ちが、予想外に接近してきた事に多少どぎまぎしながら答えた。「お父さんが幸せじゃないと、娘さんも幸せじゃないと思いますよ」彼女はそう言って軽く微笑むと、給湯室を出て、応接室の方に向かって歩いていった。お父さんが幸せじゃないと、娘も幸せじゃない……か。彼女の両親は、彼女がまだ幼い頃に離婚しており、多分彼女もさみしい思いをしたのだろう。社内にそれを知っている人間はあまりいないと彼女は言っていたし、彼女の明るい、面倒見の良い性格が、さみしさの裏返しなのだと知っている人も、多分少ないのだろう。そうは言っても、特に彼女と特別な関係があるわけじゃない。「良い友人」というのが、一番適切な表現なのだろう。顔立ちもスタイルも、友達にしておくには勿体無いのだけれど……。
2009.01.16
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いつものように、目覚まし時計のアラームにたたき起こされた。僕の家は、シングルベッドを二つ並べて、そこに川の字になって寝ている。娘はいつも僕のベッドで寝ているから、妻はひとつのベッドを一人で占有して寝ている。でも、そこに妻の姿はなかった。ベッドには乱れもなく、昨日の夜のままだ。リビングに行ってみたが、そこにも妻の姿はない。僕は暖房のスイッチを入れてから、キッチンのテーブルの上に置きっぱなしだった携帯とタバコを持って、ベランダに出た。タバコに火をつけて、携帯を開く。妻からメールが来ていた。受信時刻は、今朝の1時。- 終電を逃したので、会社に泊まります。 -僕は、素っ気無い短いメールを一瞥して、煙を吐き出しながら携帯を閉じた。妻は妻の価値観で行動している。そして、その価値観は、僕とは相容れない。それは良く分かっている。でも、理解する事と納得することは別。夫婦って、家族って、こんなものだっただろうか。僕が思い描いていた「幸せな家庭」って、こんなものだっただろうか。タバコの火を灰皿で消し、少し暖まってきたリビングに戻った。コタツの上に置きっぱなしのノートPCを起動し、Windowsのロゴを眺めながら、タバコを吸う前にコタツのスイッチを入れなかったことを、軽く後悔した。ブログの管理画面を開くと、僕の私書箱にメッセージが1件来ていた。- 新着メッセージがありますJUNさん昨日はありがとうございました。否定的なコメントって、心に突き刺さります。あのコメントを読んだ時、もう、書くのをやめようかと思いました。でも、JUNさんのコメントを読んで、もう少しがんばろうって思いました。 ルリ -翌日の夜、ブログの管理画面を開くと、彼女から僕宛にメッセージが来ていた。誰でも読むことが出来るコメントではなく、僕だけが読むことが出来る、要するにメールのようなものだ。わざわざお礼のメールなんてくれなくてもいいのに……。そんな思いとは裏腹に、彼女が書いた数行の文章に、僕のささくれ立った心が癒される気がした。- ルリさん 世の中にはいろいろな人がいて、色々な意見を持っています。 どれが正解で、どれが間違いって事はないのだとは思いますが、僕は少なくともルリ さんの書く小説は素敵だと思います。 僕はルリさんの書く文章が好きです。 これからも是非書き続けてください。 JUN -メッセージの送信ボタンをクリックして、ブラウザを閉じ、PCをシャットダウンした。「がんばるかな……」僕は、なんだかちょっとだけ前向きな気分になって、娘を起こすために寝室へ向かった。
2009.01.10
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- 余命3ヶ月なんて、物語の中ではありふれていて、いまさらって感じですね。 文章もなんだか自己満足っぽくて、読んでいて不愉快です。 通りすがり-彼女のブログに、そんなコメントが書かれた。「不愉快」だなんて……。「あなたのコメントこそ不愉快だ!」と、声を大にして言いたい……。でも、彼女のブログを荒らすわけにもいかないし……。僕は、少し考えて、そのコメントに対して、レスをつけた。- 確かに、「不幸な少女」というのは、ありふれた題材かもしれない。 でも、その、ありふれた題材を、一流の物語にするのは、書き手の才能だと思います。 JUN -なんだか、あからさまに弁護しているようなコメントになってしまったけど、本当にそう思うのだから、まぁ、よしとしよう。彼女の文章は、自己満足という感じではないと思う。文章を書く才能があるのだと思う。言葉が素直に響いてくると言うか……。心にしみる文章を書く人だ。気が付くと、時計は12時を回っていた。今日は、妻は職場のミーティングで遅い。多分その後は、いつものように飲み会になり、終電で帰ってくるか、それすら逃して職場に泊まるかもしれない。飲み始めるのが遅いから、終電で帰ってくるのも仕方がないのかもしれないけど……。そんな事を考えていたら、寝ていたはずの娘が起きてきてしまった。目をこすりながら歩いてきて、僕にしがみつく。仕方ない……。僕はPCをシャットダウンした後、娘を抱っこしてベッドに運び、隣で眠った。
2009.01.08
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- 彼とはお別れした方が、いいのかもしれない……。 病院で検査を受けた帰り道、バスに揺られながら、そんなことを思った。 彼の事は好きだけど、でも、そこまで甘えていいのかなって思う。 病気の事は、彼には話していない。 話せない。 話したら、多分、彼の負担になる。 彼の心に傷をつけてしまう。 私は、もう長くない。 若いから、進行が早い。 先生は、あと3ヶ月と言っていたけど、本当にそこまで持つのかな……。 「彼女」が死ぬという事と、「元カノ」が死ぬと言うことは、やっぱり違うと思う。 傷の深さが違うと思う。 私は死んでも、傷つくことも、悲しむことも出来ない。 私自身がなくなってしまうのだから。 でも、残された人は、そうじゃない。 「私はいない」 その現実を背負って生きていかないといけない。 多分、それは、想像以上につらい事なんだと思う。 だから……。 彼とはお別れしなきゃ……。 外の景色が滲んで見えて、私は目を閉じた。 -
2009.01.03
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子供を寝かしつけてからリビングに戻ると、妻はコタツで寝ていた。揺さぶってみても起きない。「風邪引くぞ」強く揺さぶると、「起きてるよ……」いや、誰がどう見ても寝ている……。「寝てるじゃないか」さらに強く揺さぶると、「起きてるって言ってるでしょ!」僕は軽くため息をついて、妻を起こすのはあきらめた。こうやって起こした事も、寝言でキレてた事も、妻はどうせ覚えていない。僕はノートPCをコタツへ運んで、電源を入れた。OSが立ち上がるまでの間に、インスタントコーヒーを入れて、またコタツへ戻る。ブラウザを起動し、ブログの管理画面を開いた。- 新着コメントがあります はじめまして。 毎日読ませていただいてます。 小説に出てくる女の子は、理想のタイプですか? ルリ -僕のブログに、始めてもらったコメントだった。そのコメントを見て、僕は軽く唸ってしまった。小説のモデルにしたのは、学生時代に好きだった女の子だった。理想と言えば、理想……。単なる好みと言えば、好み……。正直、小学校での初恋からずっと、僕が思いを寄せた女の子は、みんなどこか似ている。それを、単なる「好み」で片付けてよいものか、良く分からない。かと言って、「理想の女性」を語るほど、僕は若くはない。結婚していて、子供もいて、「理想の女性」なんて抱いていて、何になる?僕は、コメントに返事を書いた。- ルリさん はじめまして。 毎日読み逃げしててすいません。 理想のタイプかどうかは…… ご想像にお任せします^^; JUN -実は、ルリさんが毎日僕のブログを見に来ていることは、以前から知っていた。彼女の足跡は毎日僕のブログに残っていて、僕も毎日彼女のブログを読んでいた。彼女のプロフィールには、女性であることしか書かれておらず、年齢も、住んでいる場所も非公開。彼女もブログに小説を書いていた。主人公は、癌で余命3ヶ月と宣告された少女。若くして人生の終わりを宣告された苦悩と、同級生との恋の話。彼女の小説は、リアルな心理描写と表現力で、僕の稚拙な文章とは比べ物にならなかった。
2008.12.30
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- 早く忘れなきゃ……。 でも、忘れられない……。 忘れたくない……。気がついたら、時計は2時を回っていた。僕は大きく伸びをして背骨をボキボキ鳴らしてから、書きかけの文章を保存してPCをシャットダウンした。僕は最近、ブログを始めた。ブログとは言っても、日記は書いていない。書いているのは小説だ。しかも恋愛小説……。恋愛小説というよりは、失恋小説と言ったほうが正しいかもしれない。若い頃の失恋に、少し手を加えて小説にしているだけだから。ドラマチックではないし、運命的な出会いもない。ごく普通の、ありきたりな恋と失恋。でも、主人公の恋は、決して実らない。僕自身がモデルだから。誰かに読んでもらいたいわけでもなく、過去を懐かしんでいるわけでもない。いや、多分懐かしんでる。浸っているんだ。- 何かが違う……。僕は、どこで間違えたんだろう。どうして間違えたんだろう。その答えを探しているのかもしれない。もしかしたら、妻と離婚する言い訳を、自分自身に対する言い訳を探しているのかもしれない。僕は、そんなことを考えながら、いつものように僕のベッドで寝ている子供を起こさないように、そっと隣に潜り込んで目を閉じた。目覚ましの音で跳ね起きて、二度寝の誘惑と戦いながら、とにかく洗面所まで歩いて、冷たい水で顔を洗う。妻も娘も、まだ寝ている。リビングの床暖房と、エアコンのスイッチを入れて、ベランダに出る。「さむっ……」寒さで、一瞬のうちに目が覚める。凍えながらタバコをくわえて、火をつけた。寝不足で、頭がぼわ~んとしている。どうも小説を書いていると、時間の感覚がなくなってしまう。感情移入……と言うよりも、そもそも自分の過去そのものだし。書いているうちに、どっぷりはまってしまう。タバコを消し、洗面所でひげを剃る。妻を起こし、娘を起こす。朝食を食べ、娘を保育園へ連れて行き、会社へ向かう。また日常の始まり。ありふれた一日の始まり。
2008.12.29
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どういうわけか、昔から僕の恋は実らなかった。いつも片思いで終わり。なんか邪魔が入ったり、相手が引っ越してしまったり。ひどい時には、片思いの相手が僕のせいでいじめに遭ったり。僕自身が、恋愛に関しては未熟だったせいもあるとは思う。好きな子が出来ても、「あぁ、かわいいなぁ」って、ぼーっと眺めているだけで、そこから先のことなんて、考えもしなかった。そんな事では、恋が実ることなんて無いのだけれど。高校は男子校で、女の子とは縁遠い青春だったし、大学に入ったら入ったで、失恋を随分長く引きずったりして、なんだか無駄に時間を過ごしていた気がする。妻と出合った時、最初に好きになったのは僕のほうだった。どうして好きになったのかは、よく覚えていない。でも、かなり冷静に、計画的に彼女を口説いていた記憶がある。若いころの恋愛にありがちな、あのがむしゃらさなんか無くて、かなり戦略的に、押したり引いたりしていた。ここぞ、というタイミングで笑って見せて、そして、泣いて見せた。彼女のために尽くし、彼女の全てを許した。でも、僕は彼女を愛していたわけではなかったのだと思う。あの頃の僕は、彼女を支える事で、彼女のために生きることで、自分自身を支えていた。そこにしか、自分の存在価値を見出せなかった。彼女は僕を必要としていた。少なくとも、僕は、そう感じていた。でも、僕は、彼女を必要としていなかった。別に、彼女でなくても構わなかった。でも、ほかの誰かが、僕を必要とするとも思えなかった。月日が流れ、僕は、彼女と結婚した。最初に結婚を切り出したのは、彼女のほうだった。あれから10年。幸せかもしれないな、と思う瞬間もあった気がする。でも、やっぱりどこか、違和感があった。何かが、間違っている気がした。ずっと……。
2008.12.28
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目を開けたとき、最初に見えたのは白い天井。ベッドの脇には泣きじゃくる君がいて、あとは、家族かな。視界が白っぽくて、霧がかかったみたいになっていて、よく見えない。力の入らない手を何とか伸ばして、君のほほに触れた。君が泣いているのが、指に触れた涙でわかる。僕は、ゆっくりと、君の涙を指先で拭った。「泣かないで……」君が頷いたのが、僕の手に触れる、君のほほの動きで分かる。もし、生まれ変わったら、僕と結婚してくれる?以前、そんな話をしたね。生まれ変わっても、きっと君だってわかるよね。目印なんかなくても、わかるよね。僕は君を探すから、君も僕を探してね。そんな約束をした……。「約束……憶えてる?」「うん」僕は彼女のほほから手を放して、小指を立てた。彼女はそこに自分の小指を絡ませてくれた。「顔……よく見せて……」彼女が顔を近づけてくれて、彼女の泣き顔が見えた。「笑ってよ」僕はそう言ってから、自分でも精一杯笑って見せた。君の笑顔は、僕の宝物だよ。「ありがとう……」僕は、急速に白くなって行く視界に抗いながら、彼女の泣き笑い顔を必死に心に焼き付けて……。
2008.12.27
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