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今日は彼は部活の日。時間も、丁度終わりのころ…。私はそう思って、部活動をしている体育館へと向かった。…………。体育館に着いた時、丁度終わるときだったらしくみんなが集まって先生の話を聞いてるところだった。私は体育館の出入り口辺りで、じっと待った。ドキドキ…。勢いでここに来ちゃったけど…まず、なんて声を掛けよう。第一、彼がどこまで記憶を戻してるのかも解らない…。そもそも記憶が戻ってなくて、アレは単に勢いだったんじゃ…?そんな様な考えが、頭の中をぐるぐる廻る。でも…時間は考える暇を与えてくれなかった。部活動が終わったらしく、部員達がぞろぞろと出入り口の方へと向かってきた。彼が来る…!ど、どうしよう…。ここに来て、急に慌ててしまった。頭の中も真っ白…何も考えられない…。思わず目を瞑って下を向いてしまった。このままやり過ごしちゃおうか…そんなことも、頭に浮かんだ。でも…。「…なぁ」不意に、声が掛かった。彼の声だ…。私は…未だ目を瞑って下を向いたまま。「………」彼は、じっとこっちを見ているみたい。うぅ…変に思われてるかな……しばらくの間、お互い無言。そして、また彼の方から声が掛かった。「教室で、待っててくれるかな…?」「う…うん」私は、そう返事するのだけで精一杯だった。(続く)
2005/10/29
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「あなたの記憶がどこまでを覚えていて、どこからを忘れたのかは私にはわからないけれど…」そう言って彼女は語ってくれた。私が覚えていないイヤなこと。それはきっと彼に片思いをしていた女の子のことだと思う、って。いつも彼のことを見ていたその子は彼が私のことを好きだったこと気付いていて何かとつらくあたっていたそうだ。彼女はクラスのリーダー的存在の女の子だったから他の友達も巻き込んだりして。私はそんな悪意にはあまり気が付いていなかったけれど。あの日、彼にもらったラブレターを「記憶を戻すきっかけになるかもしれないから」と手渡すように言われ、私は素直に手紙を渡した。彼がくれた彼の言葉。もしかしたら私のことを思い出してくれるかもしれない。自分で会いに行くべきだとも思ったけれど彼とはなんとなく顔が合わせずらかった。その手紙がびりびりに破かれて捨てられたことに気が付いたのはたまたま次の日私と友人が掃除のゴミ捨て当番だったから。彼女の話しでは私は怒りも泣きもせずその紙片に触れることはせずただしばらく呆然として、そして目を伏せて帰って行ってしまったらしい。私が覚えているオレンジの夕焼けの校庭はきっとその日のものなのだろう。結局真っ直ぐ家に帰る気になれなかった私はなんとなくふらふらとバスケットボールの試合が行われたコートに行ってタイヤの遊具に座ってそれを眺めた。夕日のオレンジがまるでバスケットボールみたいだな、って思った。そうしてやっとその頃の彼の顔を思い出した私は彼の元に駆け出した。(続く)
2005/10/26
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「ううん、アナタも少しは記憶を無くしてるハズよ」あれは、小学校の頃…彼女の話によると、私と彼は小学校の頃一緒のクラスだったらしい。全然、覚えて無いんだけどね…。そして彼は私に、恋心を抱いていた。ラブレターも貰っていたみたい…。彼女にもその事で、色々と相談していたみたいだ。でも、結局一度もちゃんとお話する事は無く。ラブレターを受け取った数日後、一つの事故が起こった。それは、クラス対抗でのバスケットボールの試合があった日。彼はバスケ部に入っていて、その時の試合にも参加する予定だった。ラブレターをくれた彼が出場している。そう思って、私は彼女と一緒にバスケットの試合を見学しに行った。バスケの試合を見に行った……この部分は、何となく覚えてる。でも、この後何があったのか…そこが、よく思い出せないでいた。「この試合の時にね、彼がドリブル中にバランスを崩して……あなたに向かって倒れこんできたのよ」「…そんなことが、あったんだ」だから、その後の部分が記憶から飛んでるんだ…。「打ち所が悪かったのか、あなたも彼も気を失っちゃってね。 試合はそこで中止。二人とも病院に担ぎ込まれたんだから」その後、二人とも怪我は大したことなく、すぐに退院出来た。でも、彼の方は……一部の記憶がすっぽり抜けちゃってたみたいで。その一部の記憶とは……そう、私に関する全ての事。好きになってた事も、ラブレター出してた事も……私の、名前までも。「あの時…事故があった後、ちゃんとあなたに説明したんだけど… 『冗談だったんだよ』とか『からかわれてたんだ』とか、そんな風に言ってたんだよね…」「う、うん……そうだった、かも…」それもそうだ。私の事だけを忘れるだなんて、そんな事有り得ないと思ってた。…その時は。でも、今となって考えると…あの時の彼の行動も、納得がいく。それにしても、何でこんな事件を全く覚えてなかったんだろう…。(続く)
2005/10/20
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私には記憶を失った記憶など、ない…はず。覚えてないことは確かにあるけど小学校の頃の記憶なんて誰でも曖昧なものだと思う…。元々私は人の顔と名前を覚えるのが苦手だし。卒業した後は新しい出会いもあり昔のクラスメートの名前だって、全員は思い出せない。すべてはうっすらとした幕の、向こう側にある。友人が説明してくれた、あの時…。私には何のことだか思い出せなかった。「…っていうことがあったでしょ?」聞かれた言葉にただ曖昧にうなずいて見せただけだった。思い出したくないイヤなことだったのかもしれない。途中までの記憶は、ある。ただ最後がどうなったのか、思い出せない…。…どうなったんだっけなぁ…覚えているのはオレンジ色のきれいな空だけ。きっと、小学校の校庭なのだろう。半分ほど土に埋まったタイヤの遊具に座って、それを眺めて泣いた記憶はある。でも、それだけ。どうしてそうなったのかは、思い出せない。それが彼女のいう、あの時、なのかな…。それともぜんぜん違う時のことを思い出しているだけなのかな。時が経てば経つほどに、記憶は切れ切れになり、断片になって蓄積される。それを一つに紡ぐ糸が、彼なのだろうか…。「もしかして…彼、記憶が戻って来てるんじゃ…」彼女はもう一度言った。結局バイトは諦めて、彼女は私に付き合ってくれた。そして、彼女は語りだした。あの時何があったのかも。彼にとっての私がどんな存在なのか、も。「…それじゃあ、記憶を失っていたのは、私じゃなくて、彼だったの…?」彼女の話しを聞くうちに、ばらばらになった記憶の断片が繋がった気がした。教室はオレンジから濃紺へと移り変わっていた。
2005/10/17
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「あれ、まだいたの?」 そう言って教室に入ってきたのは、さっきバイトがあると言って帰っていった友達。 「え……うん、ちょっとね」 突然の事に、少し返答に困ってしまった。「ふぅん…。私は、ちょっと忘れ物ね」 そう言って彼女は、自分の席に向かった。 がさごそ…。 シンと静まり返ってた教室に、物音が響き渡る。 しばらくの間、お互い無言。それから少しして忘れ物を見つけたのか、彼女はそれをいそいそとカバンに詰め込んだ。そして、「それにしても、こんな時間まで何してたの?」 唐突に、彼女が聞いてきた。 それもそうだ。 明らかに不自然だもんね。 「う、うん…特になんにもしてないよ」 もちろん、何もないなんて事はない。あんまり喋る気になれなかった。 そんな気分じゃない…。 「んー」でも、彼女は納得しないのか何かを考えるかの様にして、こちらに近づいてきた。「どうしたの? ここ数日なんか変じゃない?」「え…そ、そんな事ないよ」「そんなこと無くない。ほら、何かあったんなら言ってごらんよ」うぅ、やっぱり彼女にはお見通しみたい。彼女は、小学校の頃からの友達。高校入った時は違うクラスだったけど、今年は同じクラスになったんだ。以来、何度かこの様な悩み事を聞いて貰っていた。だから…解っちゃうんだね。「う、うん…実はね…」私は、全部を彼女に話した。理由もなく、泣き出してしまった事。彼に、キスされた事。それに、彼と初めて話した事。それを聞いて彼女は、少し驚いた様な顔をした。「もしかして…彼、記憶が戻って来てるんじゃ…?」「記憶…?」「そうよ。あの時あなたにも説明したけど、全然聞き入れてくれなかったから…」そう言えば、そんなことがあった気がする。あれは、小学校の頃の…。(続く)
2005/10/13
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…彼はあの時、何を言いたかったのだろう…。結局その後HRは長引き、彼は終わった途端に友達と部活に走って行った。そして私は、彼に話しかけるタイミングを逃してしまった。…ちょうど今と同じように…。今日、何度目かの休み時間ももう終わり。結局彼に話しかけることはできなかった。だっていつも友達と一緒なんだもん。男の子の集団の中の彼を呼び出すほどの勇気はない。そもそも呼び出したところで、何を話せばいいのか。そうも思うのだけれど、それでも彼に聞きたいことはいっぱいあった。なんであんなことをしたの?どうしてその後、何も言ってくれないの?…あの時は、何を言いたかったの?彼は絶対に、何かを知っているのだ。それが何かは知らない。だけど…だからこそあんなことをしたのだと、近頃は感じるようになっていた。直感のようなもので、確信はないのだけれど…。私には何か、忘れていることがあるのだろうか…。ふとそんな不安が頭をよぎる。けれど、自分の過去の記憶は確かで、特別に失っていると思うようなことはない。ただ、何かを忘れている可能性は、あるけれど…。目の前で繰り広げられていく日本の歴史をスルーして自分の考えに没頭する。もしかしたら忘れているだけで、過去に彼に会ったことがあるのだろうか…。小学校の同級生の名前ですら、全員なんて覚えてはいない。その可能性はないとは言い切れない、けれど…彼の名前に聞き覚えはない。知り合いならば名前くらいは記憶にあってもいいはずなのに…。いつの間にか授業は終わってしまっていたらしい。気が付くとかばんを膨らました友達がバイバイを言って帰って言った。彼女は帰宅組。バイト先に気になる人がいるのだと、嬉しそうに笑っていた。気になる人…。私にとっての彼みたいな人、かなぁ。自分の気持ちが恋なのかどうかはわからない。でも、気になるのは確かだ。あんなことをされて、気にならないわけなんてない。そっと唇に指を当てる。まだ思い出せる、彼の唇の輪郭。どうしよう…。いくら逡巡しても、答えはでない。気が付くと教室はすでにオレンジに染まっていた。そして…ガラッふいに大きな音がして、扉が開いた。(続く)
2005/10/10
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キーンコーンカーンコーン本日最後の授業の終わりを告げるベルが鳴り響いた。でも、今日はまだ帰れない。この後、来月開催される球技大会の為のHRがあるんだ。「それじゃあ、今日の授業はここまで」そう言って、教室の外に出ていく古典の先生。それと同時に、ざわめき出す教室。「ねぇねぇ、何に出るの?」そんな中、そう私に声を掛けて来た子。このクラスで、一番最初に友達になった女の子。「んー、そうねぇ…」私はちょっと迷っていた。今度の球技大会、公平のためか自分が所属してる部活の球技には参加出来ない事になっているからだ。私は今、バレー部に所属している。中学の頃からバレー部だった。小学校の頃は…えっと、なんだったっけ…。「決めてないなら、一緒にバスケでもやってみない?」「バスケかぁ…」うーん…何故か、あんまり乗り気にならないな。卓球とかの方が気楽そう…「ほら、何だったらバスケ部の人たちに教えて貰ったら? 格好いい人、結構居るし」からかうようにそう言って、ポンと私の肩を叩いてきた。クラスのバスケ部の人たちは、教室の一角に集まって話をしていた。聞こえてくる話からすると、どうやらみんなでバレーに出場するみたいな感じだ。私は何となく、バスケ部の人たちの方に目を向けた。あの一番背の高い人…ちょっといいかも。これから部活なのかな。手には空色のタオルが握られていた。「あ…」あ…今、その人と目があっちゃった。それと同時に、その彼の呟きが聞こえた様な気がした。じっとこっちを見つめてくる彼の目。私も…不思議と目を逸らすことが出来なかった。しばらく目があった後、彼が私の方へと歩いてきた。えっ…なんだろう…ゆっくりと私のもとへと歩いてきて、そして、「なぁ」彼が、そう口を開いた。「え、えっと…なにかな?」「君は…」ガラガラ!その時、勢いよく教室のドアが開いて担任の先生が入ってきた。「ホームルームを始めるぞ、席に着け」先生のその一声で、ざわめき立っていた教室はシンと静まり、みんないそいそと席に着いていった。「じゃあ……また、後で」彼もそう言って、自分の席に戻っていった。また後で…そう言ったものの、彼と話したのはこれが最初で最後だった。(続く)
2005/10/06
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結局、あの日は帰ってから何も口にする気持ちにはなれず早く一人になりたくて、早々にベッドに入った。暗闇の天井を見つめても、答えは何も出てこない。触れた唇の感触があまりにも熱く残って、痛いくらいだった。そして意味もなく、また少し泣いた。でももう悲しくはなかった。「はぁ」机の隅で硬くなったパンを眺めながら今日すでに何度目にもなるため息をついた。あれから三日。彼とはいまだに何も話してはいない。彼の様子にも、別段変わったところは見られない。いつものようにバスケ部の男の子たちの輪の中で屈託なく笑っている。…じゃああれはなんだったんだろう…あの日の夕焼けがキレイすぎてあの日の彼のしシルエットがキレイすぎてすべては夢だったのではないのかとさえ思ってくる。…そんなはずは、ない…あの鼓動の音があの彼の指があの感触が忘れられない自分がいるのだから。本当は、今日こそ勇気を出して話しかけてみようと思っていた。あの時の話しじゃなくていい。なんでもいいから、話しをしてみたいと思った。けれど…彼が本当に何もなかったようにしているから、そんな勇気もでない。…勢い、だったのかな。…遊び、だったのかな。思考はどんどんどんどん悪い方向へと進む。暗い気持ちになって、ため息が増える。明日こそは話しかけてみよう。悪い考えを振り払うように、小さく頭を振る。これも返さなくちゃいけないし…。手元にはキレイに洗濯した空色のタオル。すぐに返そうと思ったのだけれど次の日には顔を合わすことさえ恥ずかしくて思わず彼のことを避けてしまっていた。話すタイミングをわざとずらしてしまった。ふと思いついて、春の球技大会の時の集合写真を引っ張り出す。まだ今のクラスに成り立てで、なんとなくまとまりがなくて…クラスメイトの名前もうろ覚えだった頃。写真に写っているはずの、彼の姿を探し求める。背の高い彼は、一番後ろの列、右のほうにいた。陽の光にまぶしそうに目を細めている。そういえば彼は…バレーに出てたんだよね…。自分の入っている部活と同じ種目には出られない。彼はバスケ部だから、バスケは出られなかったんだった。球技大会の参加種目を決めるHR。今さらになってそんなことを思い出す。バスケ部の男の子はまとめてバレーに出てたっけ。彼と話したことはないと思っていたけどそういえばあの時少し、話したかもしれない。ほんの少しだったから忘れていたけれど。そういえばあの時も彼は空色のタオルを持っていた。手元のタオルを見つめながら彼と初めて話した時のことを思い出した…。(続く)
2005/10/04
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どうしてこんな事になっちゃったんだろう…。未だ、彼のぬくもりを感じる唇に手をあて、心の中で呟いた。彼はもう、先に帰ってしまった。あれから特に、何も言わずに。そろそろ、私も帰らないと。私の手には、彼から渡されたタオルが握られている。明日、洗って返さなくちゃ…ね。彼の汗と、私の涙が染み込んだタオル…。とりあえず私は、カバンにタオルを詰め込んだ。そもそも私、なんでこんなに泣いてたんだろう…。未だぼーっとする頭で、そんな事を考えていた。…思い出せないな。もう、記憶からも消えちゃうのかな。記憶から消えても…心の奥底に負った傷は、いつもこの時期になると蘇って…。それで、泣いちゃうのかな。忘れても、忘れられない記憶。……………。帰らないと。宿直の先生に見つかったら、大変。私は荷物をまとめて、こっそりと学校を後にした。時間はもう、21時過ぎ。辺りはすっかり闇に包まれている。泣いて腫れた目に、街灯の光がまぶしい。こんな時間まで学校に居たことないから、ちょっと怖いな…。しばらく歩いていくと、コンビニの光が目に入った。…そう言えば、ご飯まだだったね。家に帰っても…もう残ってないかなぁ。あんまりお腹も空いてないし…食べる気もしないな。でも、お腹が空いて寝れなくなったら困るし…。そう思って私は、コンビニで菓子パンを一つ買って帰る事にした。(続く)
2005/10/01
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どれくらい泣いていたのだろう…。時間の流れというものを全く感じなかったけれど、気が付くと教室はすでにオレンジに染まっていた。何がそんなに悲しかったのか、今では思い出せないくらいの遠い記憶。止まらない慟哭と涙に、熱くなった瞳と胸が痛かった。そしてその痛みを感じるために、私はまたさらに泣き続けた。まぶたは腫れ、鼻水は出るし、みっともないと思ったけれどとにかくそうしないわけにはいかなかった。今がその時なのだ、と。それだけはわかっていたから。ガラッふいに大きな音がして、扉が開いた。部活が終わったのだろうか。クラスメイトの男の子が、バスケットボールを抱えて立っていた。入ってきた彼は私の姿を見て、ちょっと目を細めたけれど無関心な風を装って、自分の席に向かった。ボンッ ボンッ気まずい空気を打ち砕くかのように、ボールを床に打ち付けている音が聞こえる。きっと困ってるんだろうな。ちらっとそう思ったけれど、私の心は泣き止むことを拒否していたし涙は心に正直だった。彼はしばらく何かを考え込んでいるようだった。そそくさと着替えをする衣擦れの音が聞こえ、その後はじっと沈黙していた。無視して、気にしないで、帰って…。私の思いは祈りにも似ていた。今、どんな声をかけられてもきっとまともな対応なんてできない。今まで話しをしたこともない人に、この場で笑ってごまかす気力もない。それでも私の思いに反して、彼はそっと近づいてきた。「なぁ…」背中から彼の声が聞こえる。いつも教室の中に響き渡っている、悪くない癖のある声。それでもその後に続く言葉は出てこないようだった…。なんと言ってもその時、彼もあたしもまだ16歳だったのだから。机の上でコンコンと音がして、見ると彼の長い指が机を叩いていた。そしていくらか迷った末に、私の髪にその指は落ち着いた。彼はそのまま何も言わずに髪をすくい上げたり撫でたりして長い時間もて遊んでいた。私も何も言わずにじっとしていた。彼の指が思いのほか心地よくて、そのなぞる感触だけを思っていた。どのくらいの間そうしていたのだろう。…涙はいつの間にか止まっていた。やっと顔を上げた私に「汗臭くてごめん」と、彼は私にタオルを押し付けた。自分の持っていたタオルは涙でぐしょぐしょだったので、私は素直にそれを受け取った。空色のタオルからは、かすかに彼の匂いがした。「ありがとう」やっと彼の顔を見られた私は、それでもそれしか言えなかった。彼の指は相変わらず私の髪を撫で続けてそれがくすぐったくて恥ずかしかった。彼は少し笑顔を見せて、そのまま私を抱き寄せた。後でわかったことだけど、どうせなら胸で泣け、とずっと言えずにいたらしい。彼の鼓動はとても早くて、聞いているこちらが緊張してしまうくらいだった。その鼓動の早さが彼の逡巡だったとは、気付かずにいた。そしてそのまま、また長い間、彼のぬくもりを感じていた。彼の鼓動を聞きながら、なんだか安心て、泣いていたことは遥か遠くに感じられた。教室がダークブルーに染まる頃私たちはやっと身体を離した。そして彼の唇が、私の唇に熱い点を落とした。(続く)
2005/09/28
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