トカトントン 2.1

トカトントン 2.1

2005/12/17
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カテゴリ: 音楽
amature academy
02.30
03.G.o.a.P.
04.B TO F
05.S・E・X
06.M.I.J.
07.NO.OH
08.D/P
09.BLDG


■アーネスト・ヘミングウエイの小説の中にはニック・アダムスものと呼ばれる短編群がある。ニックというひとりの少年の成長を様々な物語を通して描いているわけだが、米文学史上最もタフでハードな作家が造型したニックという少年は少なくともそう易々と壊れないたくましさを少しずつ身に纏いながら成長していく。

■そしてムーンライダーズの作品の中にもしばしば登場する人物がいて、その名前はジャックだ。このアルバムでもM1とM9でそういう名前の少年(?)が登場してくるわけだが、こちらはヘミングウエイのニックに比べれば、まるでガラス細工みたいで壊れやすい。

Young Blood Jack 今から Y.B.J そう呼ぶ (Y.B.J)

近未来の風景で、夜で、どこかの工場で、侵入者がジャック。何かを壊しにやって来た少年。で彼はどこからやってきてどこに帰っていくんだろうか、というイメージですね。実際このアルバム発表時のコンサートではこの曲を演奏しながら、ステージ上にあった一台の自動車をメンバーがハンマーで叩き壊していくという演出がありました。

チョークで 書かれたジャックは ビルを見つめて 待ってる (BLDG)

慶一君のボーカルとエフェクトだけで綴られるこちらのジャックの物語は、夜で、ビルで、ひとりの少年がその屋上に登り、鳥になって、空を飛んで、そして落ちていく、そんな話だ。もの悲しいやら、美しいやら、感傷的なのやら、シュールなのやら。この曲が好きか嫌いかはライダーズにはまるか、はまらないかの、ひとつの目安であると思う。

■それにしても人をくったような暗号めいたタイトルの並ぶアルバムである。単語として意味をなさないそれらのアルファベットはいったい何の略であるかを知らせない、伝えないやり方はあらかじめそれらを知っている者だけにしか心を開かないこのバンドの敷居の高さ、入りにくさを際立たせているのであるが、いったん聴きだしてしまえば、それはもう、怒濤のロマンやら、究極のアンニュイやら、サブカルの片鱗やら、仕掛けと魅力と麻薬的なあとひき感に溢れているのだ。

■たとえばM2はメンバー最年少の鈴木博文が30歳になった時に作った曲で屋上に登りビールと、マティーニ、どちらで祝おうかなんて宣うわけだ。4分経てば、僕は30。そんな歌い出しで始まる歌はそれからちょうど4分後に終わる。まさに歌われる物語と演奏に要する時間を一致させるという誰も思いつかなかったような展開。にしても、このバンドのメンバーにとって30歳という節目はこちら側から向こう側に入る境界線という意味で、かなりの一大事であるわけなのだ。そう、合い言葉はDon't Trust Over 30。

■ライダーズの歴史にとっても重要曲がぞろぞろと並んでいるわけだが、暇と時間がない人はM3だけでも一度聴いてみてくれないか。

僕が19で 君が生まれて 君が19の時 僕と出会って
この部屋は 壁一枚で地獄 肉と肉の愛 ピクニックへ行こう 急いで 森へ


モダーンな寺山修司のようなこれらの歌詞に似合う旋律をライダーズを知らない人はどのような曲だと想像するんだろうか。それはあなたが思っているほど刹那的な不協和音なんかじゃない。まるで何か良いことあった?なんて周りの人間に言われてしまうような鼻歌で口ずさめるようなちょっと甘いメロディであったりしちゃうわけなんだ。そう、その落差こそがこのバンドの毒で魅力。

■このブログの存在証明のひとつは実はムーンライダーズの布教活動でもある。ひとりでも多くの人がまだ現役で活動し続けているこのバンドの存在を知ってくれればいい。来年は結成30周年。ひとりベランダで祝う酒はビールとマティーニ、どっちが似合うだろう。ファンクラブの会長さん、こんなんで良いですか?





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Last updated  2005/12/18 01:13:54 AM
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Dehe@ Re[1]:カルトQ 2005 北の国から(10/18) adventさんへ ご指摘の通りです。例によ…
advent@ Re:カルトQ 2005 北の国から(10/18) 五郎が読んだ大江健三郎> 開口健ではなく…
しょうゆ@ Re:家庭教師 / 岡村靖幸(09/09) …最後まで岡村靖幸はわからなかったのでは…
背番号のないエース0829 @ Re:ヒトラー 映画〈ジョジョ・ラビット〉に上記の内容…
Dehe @ Re[1]:センチメンタル通り / はちみつぱい(04/17) Mr.Zokuさんへ 情報ありがとうございまし…
Mr.Zoku@ Re:センチメンタル通り / はちみつぱい(04/17) 今年出た[Deluxe Edition]は聴かれました…

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